柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『四月は君の嘘』 男女がお互いにモノローグを語り合うことで満足している閉じた世界が、どうも流行っているような (柳下毅一郎)

公式サイトより

『四月は君の嘘』

監督 新城毅彦
原作 新川直司
脚本 龍居由佳里
撮影 小宮山充
音楽 吉俣良
出演 広瀬すず、山崎賢人、石井杏奈、中川大志、甲本雅裕、本田博太郎、板谷由夏、檀れい

 

四月は君の嘘(1) (月刊少年マガジンコミックス) faceバイオリニストのコンクールで伴奏者が一人で演奏して拍手喝采を受ける映画である。いや、何が何やらって感じなんだけど、そういう話なんだからしょうがない。原作は『月刊少年マガジン』掲載の同名コミック。ヒロインの天真爛漫なバイオリニストに広瀬すず、「ヒューマン・メトロノーム」と呼ばれた(それ褒め言葉なのか?)元天才ピアニストに山崎賢人、監督するのは難病マイスター新城毅彦……という時点でオレぐらいのプロになれば映画なんか見なくてもそうか死ぬのか……とピタリとわかってしまうのだな。だけどまさかバイオリニストのコンクールで伴奏者が(くりかえすけど、伴奏者だよ!)一人で演奏して拍手喝采を受けるというのは予想外だったよ!

さて、天才ピアノ少年として将来を嘱望されていた有馬公生(山崎賢人)は、ステージママだった母親の死後ピアノを捨てて鬱々とした日々を送っている。見かねた幼なじみの椿(石井杏奈)と渡(中川大志)は何くれとなく世話を焼く。椿はソフトボールをやってる元気少女で有馬のことを憎からず思っているが、有馬はオリンピックに鈍感部門があったら金メダルまちがいないというレベルの超鈍感男なのでもちろん何も気づいてない。渡はサッカー部のエースでモテ男、今日も今日とて椿のところに「渡さん紹介して!」と話が舞いこむ。椿は「友人Aとしてついてきて!」と無理矢理鬱少年有馬を引っ張りだす。ひょんなことからWデートすることになった相手こそ宮園かおり(広瀬すず)であった。実はバイオリンをやっているというかおり、しぶる有馬を無理矢理引っ張ってコンクール予選にやってくる。コンサートホールに近づきたくなかった有馬だが、いざかおりの演奏がはじまると、自由奔放な演奏に引き込まれるのを感じる。窮屈に楽譜通りに弾くことにこだわっていた自分とは大きな違いではないか。まあそんなことを心の中で口にだす有馬である。

 

 

ところで、音楽映画で「天才性」の表現というのはつねに難関である。往々にして早弾きや超絶技巧の披露という方に向かってしまい、曲芸やってんじゃないんだから、ということになりがちだ。だが難病マイスター新城毅彦にかかればそんなことはなんの問題もない。この映画の場合では、解説役の俳優がおり、その演奏がいかに天才的かをぺらぺらと(演奏中に!)語ってくれるのである。かおりのバイオリンのほうは審査員である甲本雅裕が、有馬のピアノは親代わりに育ててくれた母の親友紘子(板谷由夏)が担当する。なのでここでも甲本が

「無茶苦茶な演奏だなあ……よりによってコンクールで」

と世にも嬉しそうに独り言をいう。甲本の推しもあって、無事一次選考を通過したかおり、二次選考のピアノ伴奏を有馬に依頼する。当然固辞する有馬だが、かおりのしつこい依頼に根負けしてついに受けてしまう。自宅まで乗りこんでピアノ室の掃除をする積極的なかおりに気が気ではない椿である。

いざ当日、快調に弾きはじめた有馬だったが途中で自分の弾いている音が聞こえなくなる。実は母親の死がトラウマになっている有馬、ピアノの途中で音がきこえなくなる奇病をわずらってピアニストの道を断念していたのだった。ここでも音符が楽譜から飛んで消えるとか、亡母の幽霊(檀れい)が鬼のような形相で睨みつけてくるとか、おもしろ描写満点。ついに混乱した有馬、弾くのをやめてしまう。

「どうしたの!?」

紘子「ヴァイオリンが引きつづけるかぎりは審査は続くから、邪魔しないようにやめたのよ」

ところがかおりも演奏をやめてしまう。ここで審査は終了、お引き取りを……となるはずなのだが、「一緒に弾いたときの楽しさ、きみは忘れられるの?」とかおりに言われた有馬、再開して二人で演奏をくりひろげる。

甲本「まるで殴り合いでもしてるみたいだ……でもどういうわけかそれに惹きつけられる」

そういうわけで失格にはなったものの、特別枠でガラ・コンサートで弾くことになった二人。だが当日、かおりが遅刻してあらわれない。必ず来ますから……と拝み倒して出番を確保した有馬。出番になるとつとつとと一人で舞台にあがる。え?

 

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