柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『本能寺ホテル』 万城目学はこの映画にクレジットされなかったことを名誉に思うべきである。いや、だってねえ…… (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

本能寺ホテル

監督 鈴木雅之
脚本 相沢友子
撮影 江原祥二
音楽 佐藤直紀
出演 綾瀬はるか、堤真一、濱田岳、平山浩行、田口浩正、高嶋政宏、近藤正臣、風間杜夫、平岩紙、宇梶剛士

 

face東京から来た倉本繭子(綾瀬はるか)はかつての本能寺の跡地に立っているという「本能寺ホテル」に宿をとる。ところがホテルのエレベータを降りると、そこはなんと天正十年六月一日、本能寺の変前夜の法華宗本能寺であり、繭子は織田信長(堤真一)と対面するのであった。

さてこの映画、公開前に小説家・万城目学が企画をたてたもののボツにされ、それがそのまま映画に使われているとtwitterで告発して話題になった。 実はプロデューサーの土屋健を筆頭に監督鈴木雅之、堤真一&綾瀬はるかと同じくフジテレビ製作万城目学原作の『プリンセス・トヨトミ』のスタッフがそろっており、万城目学の主張が事実ならば、それはせめて原案なり共同脚本なりクレジットされるべき事案なのではないかと思われる。ただ、それと映画の評価は別問題。そもそもぼくは『偉大なる、しゅららぼん』 のレビュウでも書いたとおり、万城目学の小説自体をほとんど評価していない。その上で言うけれど、万城目学はこの映画にクレジットされなかったことを名誉に思うべきである。この映画のアイデアが一部でも自分に由来するなんて思われなかったほうがよかったんじゃないのか? いや、だってねえ……

最初に述べたとおり、これはタイムスリップものである。で、いろいろうるさいSFファンとして、最近タイムスリップに理屈がいらない、別にバナナの皮に転んでタイムスリップすることもある、という状態に陥りつつあることには、まあ世間の求めているのがそういうことなんだからしょうがないんだろうと思いながらも、やはり文句を言っておきたい。この映画の場合、綾瀬はるかが緑寿庵清水の金平糖をかじると、織田信長の時代から伝わっているというオルゴールが鳴り、戦国時代に飛ぶ。戻ってくるのはホテルのカウンターにある呼び鈴を誰かが鳴らしたとき。ここまでなんの理屈もなく思いつきだけのタイムトラベルも珍しかろう。

 

もっとすごいのはこのタイムトラベルの意味で、いまさらここでネタをばらされて怒る人もいないと思うから書いてしまうが、このタイムトラベルによって何が起こるのかというと、自分では何もやりたいことがなく周囲に流されるままだった繭子が、はじめて主体的に行動するようになるのである。彼女を前向きにするモチベーションができた、と言えば聞こえはいいが、それで何をするかというと、繭子は社会科教師になることを決めるのだ。織田信長(堤真一)の魅力にうたれて、歴史マニアになるのだ! 綾瀬はるかを歴女にするためにこの壮大な冒険はあったのである! ここまでくだらない話、聞いたことないよ! てなわけでこれで映画評は終了!

で終わりたいところだが、まあストーリーの説明もちょっとだけしておく。

 

 

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(残り 1454文字/全文: 2700文字)


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