柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『グッバイエレジー』 北九州市発の奇妙な映画。「北九州がハリウッドみたいになればいいのに!」 うん、なればいいねえ (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

グッバイエレジー

監督・脚本 三村順一
撮影 岡田主
音楽 丸谷晴彦
出演 大杉漣、石野真子、藤吉久美子、吉田栄作、中村有志、仁科亜季子、大和田獏、森永悠希、佐々木すみ江

 

 

face 福岡県北九州市発。これ、なかなか奇妙な映画でした。主人公深山アキラ(大杉漣)は映画監督だが、ある日、新聞で幼なじみの死を知る。それで一度は捨てたはずの故郷・北九州に帰って、親友道臣(吉田栄作)の生涯をたどりなおす……という話。で、普通こういう話だと、いろんな人に話を聞いて、自分の知らなかった親友の過去を埋めていく……というかたちになるのだが、この映画ではいっさい他人に話を聞く場面がない。アキラがたどる現在の北九州市の観光案内と、吉田栄作演じる道臣のアツい過去とがまったく交錯しないので、まるで別の映画のように見えるのだ。で、そのうちに深山が「道臣の過去を映画化したい」と言い出すので、あるいはそれが過去部分のストーリーなのだろうか? と思ったら「そのタイトルは『グッバイ・エレジー』にする」とさらにメタフィクションのようなことになってしまうのである。

実際これは監督三村順一の私小説的な映画であるらしい。映画の中で、低予算のVシネノワールみたいな映画を撮っていた大杉漣が「あなたはハリウッドまで行ったけど……」みたいなことを言われておいおいそれはナルシスティックすぎだろ……と思っていたのだが、映画公式ページから監督の経歴を見ると

1948年10月13日生まれ、福岡県北九州市(小倉)出身。早稲田大学を中退し、蔵原惟繕に師事。1978年、映画『キタキツネ物語』でナレーション台本、作詞、チーフ助監督を務める。1980年、『象物語』で原作・脚本を手掛ける。以後、日本テレビ「火曜サスペンス劇場」「知られざる世界」「驚異の世界」ほか多数のTVドラマ、ドキュメンタリーで監督、プロデュースを手掛ける。1990年、映画『ストロベリーロード』をプロデュースし、同年、米国法人シャワープロダクションズ設立。配給会社トライビジョン・エンターテインメントを設立する。90年代は米国映画製作を中心に活動し、2003年に帰国。映画『歌舞伎町案内人』(04・張加貝監督)、『Deep Love アユの物語』(04・YOSHI監督)、『不良少年の夢』(05・花堂純次監督)、『ハルウララ』(05・森川時久監督)、『あなたを忘れない』(06・花堂純次監督)をプロデュース。近年の監督作に『僕たちのプレイボール』(10)、『カルテット!』(11)、『キタキツネ物語 35周年リニューアル版』(13)など。

本当にハリウッドに行っていた! 向こうで何をやっていたのかはいまいちわからなかったりするし、そのあとがYoshiの映画ということで限りなく不安になってくるわけですが。どうやら実際に吉田栄作みたいな親友がいたらしく、その(『花と龍』の主人公)「玉井金五郎みたいな男」のことを映画化したいという思いはずっと持っていたらしい(クレジット・タイトルには彼の名前で謝辞が捧げられている)。ますますメタじみてくるんだけど、さらに奇妙なのが大杉漣が小倉昭和館の館主(藤吉久美子)に言われて北九州の名所を見てまわるパートである。映画資料を集めている松永文庫や『花と龍』の作者火野葦平旧居河伯洞などに行くのだが、そこは実際に大杉漣が訪問して館主に話を聞くという体裁であるため、なぜか急に大杉漣の地方ロケ街歩き番組みたいになってしまう。フィクションとノンフィクションが混ざりあうたいへん奇妙なバランスなのである。

 

 

 

映画監督深山(大杉漣)は、マネージャーに『花と龍』の映画化企画を持ちこむが、「最近は若手の企画かマンガ中心だから」とすげなく断られる。さりげなく日本映画界の現状批判を盛り込みつつ、そこで新聞を開くと「夜回り先生、ナイフで刺され死亡」の見出し。それはかつての親友、井川道臣(吉田栄作)の死を伝える記事だった。親友の死にショックを受けた深山は捨てたはずの故郷に帰る。道臣は門司で鉄板焼き屋をやっていたと教えられた深山、気丈に店を続けている未亡人和代(石野真子)と会い、そこで道臣との思い出を回想する。

昭和三八年、二人は日活映画に夢中。暴れん坊だった道臣はトニーこと赤木圭一郎に夢中だった。映画館の前でステゴロ勝負にあけくれる道臣。たぶんこれ監督の自伝だから事実なんだろうけど、昭和三八年だともう赤木圭一郎は死んだあとのはずで、熱狂的なファンだったというのが少し不思議な気がする。昭和四二年、東京の大学へ進むことになった深山との別れ。「映画監督になれよ!」と道臣に言われる深山。いや、これ深山の回想だからなのかもしれないけど、道臣のトニーへの思いは過剰なほど語られる一方で、深山の映画監督志願がほとんど描かれないので、どうも違和感あり。

深山は昔のなごりをとどめる小倉昭和館を訪れ、館主となった幼なじみの淳子(藤吉久美子)から教えられた北九州映画めぐりぶらり旅としゃれ込む。映画館はヤクザの地揚げ攻勢を受けていたりして、かつて二人に親切にしてくれた映写技師である淳子の父は「映画の時代は終わったのかもしれんな」と弱気だ。だが淳子が「わたしが頑張るから!」と映画館の火を消さないことを誓うと、深山に「フィルムで撮れ。電気カメラは好かん」とまさかのフィルム至上主義。

「フィルムは嘘をつかん……」

 

 

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