柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『乱交白衣 暴淫くわえ責め(白雪姫と5匹の小ブタ)』 ピンク映画で震災ものがあってもいいじゃないか(柳下毅一郎)

『乱交白衣 暴淫くわえ責め(白雪姫と5匹の小ブタ)』(成人映画)

監督・脚本・出演 荒木太郎
撮影・照明 飯岡聖英
音楽 宮川透
出演 愛田奈々、浅井舞香、星野ゆず、牧村耕次、那波隆史、野村貴浩

 

 京成上野駅の近くにひっそりとたたずむのが知る人ぞ知る上野オークラ劇場。大蔵映画の成人映画封切館として今も健在である。

現在も作り続けられている成人向け映画、ピンク映画については知らない人も多いだろうから、簡単に基礎知識を説明しておきたい。

ピンク映画は女優が脱ぎ、絡み(セックスシーン)のある映画だが、絡みは基本的には疑似(演技)で、実際にはセックスをしない。35ミリのフィルム撮影であることもAVとの差別化ポイントである。上映時間はほぼ六十分で、絡みにさかれる時間も決まっている。一本が六十分と短いので、上映は三本立てでおこなわれる。それからあとひとつ、劇場はほぼハッテン場と化している。

いったいいつからなっているのかはわからないのだが、ピンク映画館はすっかり中高年ゲイの社交場となってしまった。劇場によっては場内でさまざまな行為が行われている場合すらある。なので鑑賞はつねに緊張がともなう特別な体験となるのだ(じゃあ女子なら安全かというともちろんそんなことはなく、痴漢もいるし露出カップル目当てのおっさんもいていろいろ大変)。

上野オークラは2010年8月に新しい建物に建て替えられたのだが、残念ながら新館には35ミリ映写機が入らず、ビデオシアターになってしまった。フィルムでならまだ見られたものもビデオになるときびしい、ということもままあり、いささか足が遠のいてしまった。でもそうも言ってられないので、ひさびさに出かけて見たのが荒木組の新作。
いずことも知れぬ場所。人災によって故郷を追われた人々は、生きる気力も失った抜け殻と化している。そんな彼らにも分け隔てなく接する優しい看護婦がいた。名前をアデル(愛田奈々)、まさしく白衣の天使である。

 

「アデルはぼくらの憧れだった。だが、アデルはつまらない男に恋していた」
女をとっかえひっかえにしているプレイボーイの医師、南(野村貴浩)である。アデルが南の家に行くと、南は他の女とセックスの真っ最中。二人がかりでアデルは陵辱されてしまう。ボロ屑のような扱いを受けても、南から離れられないアデル。一方で、事故の保証金で暮らし、やることもなく病院に通ってくる人々は「怠け病」「災害成金」と陰口をたたかれている。だが、すべてを失った彼らにはなんの目標もなく、あぶく銭でパチンコを打つ毎日である。もはや生きていてもしかたない、と思い詰めた彼らは、アデルを輪姦してから自殺しようと決意する。

彼らは病棟にアデルを連れ込み、襲いかかる。だが、南から受けた仕打ちですっかり自暴自棄になっているアデルは、「こんな体、好きにすればいい」と投げ出す。その姿を見て男たちは自分のおこないを反省する。
「こんなきれいな人を悲しませてはいけない。自分たちが怠けているのを、この人のせいにしてはいけない」
そして全員で愛に満ちた乱交をくりひろげ……

……というお話からわかるように、震災ピンク映画である。

実はピンク映画ではこれがはじめてというわけではなく、2012年はじめには福島県出身の山崎邦紀監督による『人妻の恥臭 ぬめる股ぐら』という震災ピンクが公開されている。こちらは坂口安吾インスパイアという作品なのだが、『希望の国』ほど話題にならなかったのが残念なところ。『乱交白衣~』の荒木監督の方は、もともと時事ネタを取りこむゲリラ戦法がピンク映画の極意と思っているふしがあり、2009年の太宰映画ブームのときにはこっそり太宰原作のピンク映画を作ったこともある。だからピンク映画で震災ものがあってもいいじゃないか

荒木太郎の持ち味はメルヘンチックな叙情性である。甘い青春映画を作っているときはいいのだが、さまざまな事情でそれが作りにくくなってきたのちは、どうもその子供っぽさが鼻につくことのほうが多かった。それでこの震災ピンクである。こんな深刻なテーマを、あの甘いタッチで、しかもピンク映画ならではのご都合主義満載のストーリーで語ろうとしたら、かなり悲惨なことになってしまうのではなかろうか!?

 

だが、この映画は思いがけず面白い。メルヘン仕立ては安易とも見えるが、最初から寓話仕立てになっているので、実際の被災者の話とは切りはなして見られる。ピンク映画の予算と上映時間で、普通の映画と同じようなリアリズムを求めることはできない。だが、寓話に徹すれば、真実に触れることもできるのだ。たぶんこれは本当の意味での震災映画ではなく、ダメ男たちとダメ女の救済の物語なのである。だが、それはある意味で、震災の前で無力だった我々の姿なのだ

 

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tags: 成人映画 荒木太郎 震災

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