柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『青木ヶ原』  -石原慎太郎閣下の教育映画? (柳下毅一郎)

『青木ヶ原』

監督 新城卓
脚本 新城卓、水口マイク
企画・原案 石原慎太郎
撮影 岩渕弘
音楽 寺嶋民哉
出演 勝野洋、矢柴俊博、前田亜季、田中新一、津川雅彦、石原慎太郎
 石原慎太郎閣下肝いりの映画を監督するのは新城卓。もともとはイマヘイの弟子で『OKINAWAN BOYSオキナワの少年』で監督デビュー。だがいつのまにか慎太郎の小坊主と化して慎太郎映画専門監督と成り下がり、『青木ヶ原』で慎太郎映画三本目。イマヘイは墓で泣いているぞ!

さて本作は製作:新城卓事務所って自主映画なのかよ! 慎太郎につきあって自主映画とは、こっちが泣けてくるわ。くわえて公開前に、映画に幽霊がうつっているとの騒動があったりして、もう慎太郎完全な色物なわけですが。

さて、物語の舞台は自殺の名所富士山麓の樹海・青木ヶ原。今日も日本中から自殺志願者が集まってくる。松村雄大(本当にこういう役名なんだよ!勝野洋)はそのあたりでペンションを経営している。明日は一斉死体捜索の日だ!

「迷惑なこったよ。ここがブランドになってるからみんな死ににくるんだ。だいたい自殺するような奴は半端な気持ちなんだよ。死体を見つけて欲しいから遊歩道の近くで自殺するんだ。死ぬ気になればなんでもできる、って言うだろ?」

と慎太郎が言いそうなことを言ってる奴とバーで飲んでいる主人公。

「オレは死ぬ人間には自殺なりの筋があるような気がするなあ」

と、そこにどこからともなく黄色いヤッケを着た男(矢柴俊博)がぬっと顔を出す。

「ぼくもそう思いますね」

東京から来たという男は「死体探しですか? ぼくも行ってもいいですか? 珍しい機会だし」

というわけでどこの馬の骨とも知れない男を連れて一斉死体捜索に参加する松村。途中、大岩の前に来たときに男はふっと姿を消す。迷子になったのか?と必死で探す松村は大岩の裏に倒れている男を見つける。黄色いヤッケを着た腐乱死体だった。「そうかそういうことだったのか。見つけて欲しかったんだな」とまったく驚きも恐がりもせず手を合わせる主人公。

めでたしめでたし。だが、死体を見つけて供養してやったにもかかわらず、その後もたびたび男は松村の前にあらわれる。どうなってるんだ?取り憑かれてるのか?不安になった松村が寺の住職(津川雅彦)に相談すると、

「成仏できなくて、何か頼みたいことがあるんだろうな」とのご託宣を得る。

それはなんだ? 松村は警察に行き、男の本名を聞き出す(この映画の警察、「ここだけの話だぞ」と言いながら個人情報保護もクソもなく情報ダダ漏れ。地方のズブズブさがよく出ているというべきか、慎太郎がいつもこうやって警察に言うことをきかせてるのか、どっちにせよろくなもんじゃない)。男は東京、佃の老舗紙問屋の入り婿だった。二年前に失踪し、その直後に青木ヶ原で自殺したらしい。彼が松村に頼みたいこととはなんなのか? 松村は単身東京へ向かう。

紙問屋への直撃取材で判明したのは入り婿が女を作り、金を盗んで逐電したという事実であった。どうでもいいが、この主人公の主張というのが「実はわたし、おたくのご主人の死体を見つけまして、その後幽霊につきまとわれて困ってるんですが、ついては事情をお聞かせいただけませんか?」というもので、これ120%電波な人!でなければ金づるを求めてきたチンピラで、こんな輩にまともに応対してる紙問屋の人たちはどんだけいい人なのか。松村は「ヤクザやたかりのたぐいだと思われてる」とこぼすのだが、当たり前だっていうの!

「もうほっといてください!」と泣く妻からもらった調査資料を基に、夫の親友で、その女を紹介したという薬剤師と会い、そのなれそめをしる。女は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の孤児となった幼稚園の保母、純子(前田亜季)であった。事故の後遺症で今も足を引きずりながらも天真爛漫な明るさを失わない純子に同情した夫があれこれ世話をやくうちに、二人は愛しあうようになっていたのだった。だが、純子は「わたしを好きにならないでください」と言い、二人は節度をたもった関係を続けていた(妻の方はそれでは済まないと思うのだが、それはそれ)。「あれさえなければ、二人が地獄に落ちることはなかったのに……」という薬剤師。そう、純子は、ある日、突然白血病を発症して倒れたのだった……

まさかの白血病!慎太郎閣下ももうちょっと文学的想像力を発揮してほしいものである。高額な医療費をまかなうために、入り婿は友人から金を借り、しまいに実家の金にも手をつけてしまう。だが、それでもなお二人は幸せだった。松村は薬剤師とともに、幼稚園の園長ら数少ない二人の理解者から過去を聞いていく。借りた金でアメリカに行った二人は、最先端の治療によって病気も小康状態に持ちこむ。二人はそれでも幸せだった。あれが起こるまでは……そう、純子が妊娠してしまったのである……入り婿も気づいていなかった……て避妊しろよ!

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tags: 前田亜季 勝野洋 新城卓 津川雅彦 田中新一 矢柴俊博 石原慎太郎

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