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【無料記事・超速報】「行動する保守運動」への参加は誤りだったと被告が全面的に謝罪! 在特会メンバーらによる暴行傷害事件裁判・傍聴レポート 


原告の山口祐二郎氏(憂国我道会会長)

「差別的な言動によって人権を侵害してしまった不特定多数の在日コリアンの方々に、心からお詫びします」

 在特会メンバーなどから暴行を受けたことで、山口祐二郎氏(憂国我道会会長)が損害賠償を求めた裁判が、本日(8月26日)、東京地裁でおこなわれた(山口祐二郎氏については過去記事を参照)。

 事件が起きたのは2014815日午後9時ごろ。東京都千代田区の路上で、懇親会を終えたばかりの在特会メンバーらが、偶然に居合わせた山口氏ら「カウンター」(差別デモなどに抗議活動を続ける人々)9名に襲い掛かり、暴行を働いた。
 警視庁は在特会の本部事務所など関係先数カ所を家宅捜索したうえ、同会メンバーら5人を傷害容疑などで逮捕。うち4人が罰金刑となった。
 その後、山口氏は総額550万円の損害賠償を求めて提訴。本日が第一回期日だった。
 同会メンバーらのなかには「朝鮮人」などと口にしながら暴行に加わった者もあり、山口氏はこれを「差別に基づいたヘイトクライムにも等しい」と主張している。

 この日、注目されたのは被告の一人であるN氏が陳述をおこない、全面的な謝罪を表明したことだった。
 紺のスーツに身を包んだN氏は一礼して法廷に入ると、裁判長に促されて、用意した陳述書を読み上げた。
 以下はN氏の陳述である。

 まず、原告および、その場に居合わせた方々、そして差別的な言動によって人権を侵害してしまった不特定多数の在日コリアンの方々に、心からお詫びします。

 私は20113月以降に「行動する保守運動」に参加するようになりました。このことは誤りであり、過ちであったと考えています。特に、デモ行進や街頭宣伝、SNSなどにおいて在日コリアンの方々に投げかけた差別的言動や、行動保守に対する反対勢力の方々をすべて在日コリアンと思う、または決め付けて、さらなる暴言を吐いたことや、一方的に暴力を加えたことについては、紛れもない差別であり、取り返しのつかないことをしてしまったと反省しています。いまでも、そのことを思い出さない日々はありません。

 なぜ、あのようなことを差別発言をしてしまったのか。インターネット上では在日コリアンにばかり向けられた悪意のあるデマを真に受けてしまい、いま思うと、カルト宗教に傾倒してしまったような状態でした。

 また、私の家族が差別的な言動をすることがあり、子どものころからそれを聞いていたため、潜在的な差別心が生まれていたのでしょう。
 いまはそれを克服しようと自分の中の差別心との戦いを続けています。

 私は、原告の請求原因の認否を争う趣旨ではありません。私は正業についていますが、原告が請求する金額を一括で支払いできる資力がありません。しかし、できることならば分割払いで支払いを最後まで完了したいと考えています。

 本当に申し訳ございませんでした。

 緊張しているのであろう。表情は硬く、時おり声も震えていた。
 しかし、自らが働いた暴行のみならず、「差別的言動」にも言及したことは注目に値する。
 N氏は、「差別」に向かわせたものが、ネット上の「悪意のあるデマ」と「家族の言動」だとしたうえで、行動保守の運動を「カルト宗教」にたとえた。
 さらに暴行の被害者のみならず、「在日コリアン」全般に向けて「取り返しのつかないことをした」と詫びた。
 その気持ちが本物であるのかどうか、あるいはヘイトスピーチ被害に苦しんでいる人の心に届く言葉であるのか、まだ判断できる状況にはないが、差別集団が被告に立たされた裁判において、そこまで言及された事例はない。
 なお、この裁判では在特会の桜井誠元会長なども被告として名を連ねており、元会長らがネット上で山口氏らを貶めるような書き込みを行ったことについても、名誉毀損として今後、争われることになっている。

 この日の裁判を終えた山口氏は集まった支援者を前に、次のように語った。
「ヘイトスピーチ被害者がN氏の発言を受け入れることができるかどうかは、わからない。ただ、被告の中にはいまでも反省の気持ちを見せることなく、ヘイトスピーチを続けている者たちがいる。彼らを法廷で謝罪させるのが僕に与えられた使命だと思っている」
 また山口氏の代理人である原田學植弁護士は「被告の中にも温度差がある。最期まで争う人もいれば、それを避けたいと考えている人もいるようだ」と、今後の見通しを述べた。

 次回期日は1121日(月)14時。
 多くの人の傍聴支援を求めたい。

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