「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

【プレイバック Part.2】ウェブ版『「ペンの力」とメディア〜レイシズム、ポピュリズム、ナショナリズムと闘うには』 石丸次郎 × 西岡研介 × 松本創 × 安田浩一

 今年の9月22日、大阪にて安田浩一ウェブマガジン主催トークイベント 『「ペンの力」とメディア~レイシズム、ポピュリズム、ナショナリズムと闘うには 石丸次郎 × 西岡研介 × 松本創 × 安田浩一』を開催いたしました。そのトークイベントのウェブ版・Part.2をお届けいたします。Part.1はこちらからご覧ください。(編集部)


松本創氏

 

橋下時代の大阪に蔓延した「得体の知れない空気」の正体は

安田:そして松本創さんです。ご存知の方も多いと思いますが、大阪の出版社・140Bから出された『誰が「橋下徹」をつくったか 大阪都構想とメディアの迷走』が、本年度の日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞を受賞しました。おめでとうございます(会場拍手)。
 いわゆる「橋下本」っていろいろあるわけですよ。批判するにしても、賛同するにしても、橋下ってテーマになりやすいというか、非常に書きやすい対象ではないかと思うんです。だからこそ、多くのライターが橋下の人となりを書いてきた。
 そうした中、松本さんはほかの人とは全然異なるアプローチをした。橋下を描きながら、橋下の周りに流れているメディアの空気、言い換えれば、日本社会の空気みたいなものをしっかり捉えたんです。そこが素晴らしい。非常に優れたノンフィクションだと思います。橋下的な空気というものが作られていく、その一連の過程を松本さんは丁寧に描き出しています。 

松本:僕も神戸新聞の記者をやっていました。安田さんは温泉ライターになりたいとおっしゃっていましたが、僕は本当はサブカルライターになりたかったんです。音楽雑誌とか、ハードコア路線に行く前の宝島とか(笑)、そんな媒体で書いてみたいと思っていました。まあ、どちらかといえば「でもしか」新聞記者だったわけです。新聞の折り目正しい正義感とか、報道やジャーナリズムの使命感とかに対しては、以前からわりと斜めに見て、疑っていた部分がありました。
 JCJ賞受賞の挨拶の時にも申し上げたのですが、たとえば速報性や特ダネ主義、見出しが立つわかりやすさみたいなところを追い求めるあまりに、複雑な事象をごく単純に構図化してしまう、白黒善悪つけてしまうことに疑問を感じていたんです。新聞記者時代、デスクに出稿連絡する際、いろいろと事件の背景を説明していると、「要するになんや!見出し言え!」と言われるんですよ。見出しがつかないから説明しているんですよと(会場笑)。どないしたらええんかなと話をしているのに、「もうええから見出しで言うてこい! 整理部がうるさい」となるわけですね。そういうのがいつも違うよなあと思っていて。
 新聞というのは紋切り型の表現が好きなんです。「政治とカネ」とか、選挙だと「風が吹いた」、「地滑り的勝利」だとか、そんな表現。須磨で少年による殺人事件が起きた際は「14歳少年の心の闇」、阪神淡路大震災の記事では「命の大切さ」、「住民主導の復興」とか、わかったようなことを書くわけです。それはまあ正しいんでしょうけど、その言葉をひねり出すにあたって、たぶんあまり考えてない。葛藤していない。だから言葉が読者に伝わらない。新聞記者時代、そのことにすごく違和感を覚えていました。そういう報道の言葉の硬直化、形骸化、その果てに現れたのが橋下徹という人だったと、僕は考えています。

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