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【無料記事】昔は『ガロ』、今は「ヘイト本」の青林堂パワハラ事件・提訴記者会見詳報

東京管理職ユニオン・鈴木委員長(左)、中村氏(中央)、佐々木弁護士(右)

『ガロ』の版元は今ではヘイトと排外主義の旗振り役に

 会社幹部から目に余るいじめ、パワハラがあったとして、本日(2月13日)、出版社・青林堂の社員らが同社に対して損害賠償(総額2千380万円)を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 原告は同社社員・中村基秀氏(48歳)と、中村氏が所属する個人加盟労組の東京管理職ユニオン。被告は会社及び蟹江幹彦社長ら3人である。
 訴状などによれば、会社側は中村氏を「排除」するため、組合加入などを理由として、人格を否定するなどの言動を繰り返したという。
「オマエがバカだからできない」「能力が足りない」「君の名前は公安に知らせている」「嫌われてる」──。
 中村氏はこうした暴言を日常的に浴びせられ、適応障害、うつ病などを発症。会社側は、さらに一方的な減給処分をおこなうなどの不法行為を働いたという。こうしたことにより、中村氏は休職に追い込まれることになった。
 時に会社側は組合を誹謗中傷する発言も繰り返した。
 かつてコミック誌『ガロ』の版元として名を馳せた同社も、経営上の問題によって経営者、社員が入れ替わり、いまやヘイトと排外主義の旗振り役を務めるまでに路線変更したことは、以前にも報告した通り。

「ヘイト本」出版社・青林堂の現役社員が出席、在特会との関係も明らかに! 「シンポジウム『ヘイト本』と表現の自由」現場レポート<前篇>

「ヘイト本」出版社・青林堂の現役社員が激白 「上司は在特会の幹部です」 「シンポジウム『ヘイト本』と表現の自由」現場レポート<後篇>

 青林堂といえば即座に『ガロ』を連想する向きも多いとは思うが、名物編集者・長井勝一氏が社長を務めていたころとはまったくの別会社だと考えたほうがよいだろう。

 ちなみに漫画家の小林よしのり氏は現在の青林堂に対して「近年は『保守』を自称したネトウヨ雑誌を出して、在特会にまで主張させ、幸福の科学が支援する不愉快極まりない雑誌を出すようになってしまった。長井編集長が生きていたら。食い扶持のために悪魔に魂を売るような商売はしなかっただろう」と自らのブログ(2015年5月14日)に記している。
 実際、同社は在特会関係者による著書を発行しているばかりか、社員編集者のひとりは在特会の元広報局長でもある。

 原告側代理人の佐々木亮弁護士によると、裁判では主に次の4点が争われることになるという。

①パワハラによる損害賠償
②組合への中傷、団結権侵害などの不当労働行為
③不当な賃金カット
④会社側の責による休職中の賃金未払い

「音声記録などの証拠があるので事実関係そのものが争われる可能性は少ない。これを裁判所がどのように判断するのかが問われる」(佐々木弁護士)
 本日午後におこなわれた原告側の会見では、会社側が中村氏に向けたパワーハラスメントの「音声記録」が公開された。
 以下、その一部を再録する。

(1)2015年10月29日

 専務「じゃあじゃあじゃあ、ちゃんと命令に従ってやってよ」

 中村「従ってます」

 専務「やってないじゃん。企画考えてないじゃん、自費出版」

 中村「考えてます」

 専務「じゃあ出してよ、自費出版の企画」

 中村「何もできないじゃないですか、いま」

 社長「お前がバカだからできないんだよ!」

 専務「そうだよ」

 中村「バカだからできないんですか」

 専務「そうだよ。能力が足りないからじゃない」

 社長「みんなできることじゃないか、こんなことは!」

 ここで中村氏が「何もできないじゃないですか」と抗弁しているのは、仕事ができるような環境を与えられていなかったからだという。
「パソコンは与えられてもネットを使うことが禁じられ、名刺も与えられず、外出さえ認められていませんでした」(中村氏)
 会社の自分の机には電話もなく、電話をかけること自体が許されていなかった。

(2)2015年12月3日

 社長「うちは公安ともいろいろと付き合いあるからね」

 中村「ああ、なんか、そうですね」

 社長「うん、君の名前も、当然公安には知らせているし」

 中村「はい」

 社長「あの、聞いているし。あのー、公安監視対象になってるもん」

 中村「僕もですか」

 社長「当たり前じゃん、そんなの。うち自体が、だいたい、監視対象になってるもん」

 中村「え?」

 社長「だから、公安っていうのも、いろいろ、ほら、見るわけよ。うちも、ほら、保守だから」

(3)2016年1月22日

 専務「中村君さ、自分は社長に好かれてると思う?」

 中村「何を」

 専務「信頼されてると思う?」

 社長「自分だよ」

 専務「質問」

 中村「それはないんじゃないですか」

 専務「あり得ないよね」

 中村「はい」

 社長「うん」

 専務「じゃ、嫌われてるよね、社長にね」

 社長「俺は嫌ってるから」

 専務「信頼されてないよね」

 中村「そうかもしれませんね」

 専務「そうかもしれませんじゃないのよ」

 社長「そうだよ」

 専務「だって、自分が社長に信頼されるようなこと、何かした?」

 社長「うん、うん。俺にとってプラスなこと、何した?」

 専務「何した? 売上は上がらない。会社はめちゃめちゃにする。ブラック企業だといわれる」

 社長「うん」

 専務「何した? で、中村さん『えっ?』って顔したでしょう。

 社長「こういうふうにうちを混乱させて」

 専務「ねえ」

 社長「周囲に知らせて、うちのスパイじゃん」

 専務「スパイだよね。スパイって楽しかった?」

 中村「なんすか、それ」

 専務「スパイごっこ楽しかった? 楽しそうだよね」

(4)2016年1月26日

 専務「今日の業務命令に、あなたはいま拒否してますから。サボタージュとみなして、スト決行。はい、12時」

 中村「あの、僕の話は聞いてもらえないんですか?」

 専務「12時10分?」

 社員「はい」

 専務「はい、スト決行」

 中村「すいません、僕はストを宣言していません。それで処分をされるっていうのであれば、あの、書面でそれをちょっといただきたいという」

 専務「じゃ、ただいまスト中?」

 中村「いいえ、ストはしていません」

 これ以外のものも含め、音声記録は全300時間にも及ぶ。
 入手した音声記録は近く、公開したいと考えている。

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