「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

失われゆく「保守」 沖縄差別に見る自民党の凋残

那覇市の新都心地区。かつては米軍住宅エリアだった。

止まらない自民党議員の沖縄蔑視発言

「怖いからですよ」──。
 なぜ毎年、沖縄に足を運ぶのかと元自民党幹事長の古賀誠氏に訊ねたら意外な言葉が返ってきた。
 真意をつかみ損ねて戸惑う私に、古賀氏はこう続けた。
「戦争を忘れてしまうのが怖いんです。いまの平和が戦争の犠牲の上に成り立っていることを忘れてしまうのが怖い。だから沖縄に行くんです」
 1944年のマリアナ海戦で日本軍は大敗北を喫した。これによってサイパン、テニアン、グアムが米軍に奪われた。出征していた古賀の実父もこの時期、フィリピンのレイテで戦死している。
 ここで戦争を終わらせるべきだった、と古賀は言う。しかし、政権も軍部も「本土決戦」を主張し、さらに戦争を続けた。
 そのことによって沖縄では県民の4人に一人が命を落とす地上戦がおこなわれ、広島と長崎でも原爆によって大勢の命が奪われた。
「勇ましいことが、威勢のよさが、強気であることが、人を救うわけではありません。日本は戦争でそれを学んだはずです。失敗を繰り返さない、忘れない、そのことを犠牲となった方々の前で誓うためにも、慰霊の日(6月23日)には欠かさず沖縄を訪ね、手を合わせるんです」
 古賀の静かな口調から伝わってくるのは、喜々として”愛国”の道を走る、「勇ましい」自民党への危惧と懐疑だった。

 さすがに凋落傾向にあるとはいえ、いまだ自民党が「安倍1強」であることに変わりはない。怖いものなしの状況は依然続いている。
 その驕りなのか、強さゆえの脇の甘さか、閣僚や幹部による暴言、失言が止まらない。
「市民への詐欺行為にも等しい沖縄特有のいつもの戦術」
 4月末におこなわれた沖縄県うるま市長選をめぐり、自身のフェイスブックにそう書き込んだのは自民党選挙対策委員長の古屋圭司氏だった。
 同市長選に立候補した野党系候補の政策を批判する文脈で用いられたものだが、「沖縄特有」なる言葉には、明らかに同地への差別と偏見が透けて見える。
 古屋氏の事務所に取材を申し込んだが、「フェイスブックに書かれたことがすべて。撤回する意思もない」(事務所担当者)とにべもない。
 当然ながら沖縄選出議員からは批判の声があがった。
「なんとも下劣な物言いです」
 呆れたように話したのは、赤嶺政賢衆院議員(共産党・沖縄1区)だ。
「沖縄への蔑視感情を抱えているからこその書き込みでしょう。いったい、どんな事実に基づいての『特有』なのか。沖縄の民意が必ずしも政権に与していないことを意味するのであれば、独善的に過ぎます」
 同じく、照屋寛徳衆院議員(社民党・沖縄2区)も憤る。
「断じて許せません。まるで沖縄県民が詐欺の常習犯であるかのような表現です。先だっての機動隊員による”土人発言”と同様、間違いなく沖縄蔑視が根底にある」
 そのうえで二人とも「自民党は変わった」と続けるのであった。
「かつての自民党であれば、少なくとも露骨に沖縄をバカにするような発言が飛び出ることはなかった」(赤嶺議員)
「昔の自民党議員には、もう少し沖縄に対する情と愛があったはずだ」(照屋議員)
 たとえば──

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