「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

この対戦を“ダービー”と認識するのは誤り、しかし負けは許されない [J6節 川崎戦プレビュー] (藤井雅彦)

一つの山を乗り越えたと見るべきだろう。不自然な起用法によって微妙に狂った歯車は、前節のサンフレッチェ広島戦でやや強引な形とはいえ元に戻すことに成功した。悪天候が味方したという事実は見逃せないものの、しっかり勝ち切ったこともまた事実だ。現行の1シーズン制となった05年以降のJリーグタイ記録となる開幕5連勝を飾り、マリノスの勢いは止まらない。

チームは不安要素を見つけるほうが難しい状態にある。フロンターレ戦に臨む先発11人は広島戦から引き続きベストメンバーと言っていい。その試合で90分フル出場したことによる反動が心配された齋藤学の状態も今週の練習を見る限りでは安定しており、中村俊輔や中澤佑二といったベテラン勢も引き続き元気だ。マルキーニョスは練習におけるシュート場面で抜群の精度と威力を誇り、ゴールネットにボールを突き刺す。ここまで出場4試合で6得点。アクシデントがない限りは得点王争いを期待できるだろう。

日程面での有利も見逃せない。水溜まりができたピッチでの広島戦は「いつもよりも意識して腿を上げて走らないといけなかった」(兵藤慎剛)。そのため身体的な疲労が普段以上に大きかった。それに加えて、悪天候のため予定していた空路便が欠航となり、復路は新幹線移動を強いられた。心身ともに負担の大きい遠征となったわけだが、マリノスは幸運なことに水曜日にナビスコカップが組まれていなかった。対してナビスコカップを戦ったフロンターレは中2日でマリノスに臨むことになる。「コンディション面でのアドバンテージがある」(樋口靖洋監督)。

ただし“好事魔多し”ということもある。このタイミングでいまだリーグ戦未勝利のフロンターレと対戦するのは非常に気持ち悪い。この対戦カードを“ダービー”と認識するのは誤りで、ただ同県にあるクラブに過ぎない。言うまでもなく過度に意識する必要のない相手なのだが、『全勝vs未勝利』となれば話は別だ。メディアの注目度は嬉しいことに飛躍的に上がるわけで、当然のことながら負けは許されない。

それでも心強いのは選手たちに油断や慢心がほとんど見られないことである。「いつか負ける」(兵藤)。そう、いつか負けるのだ。「バルサだって全勝はできない」(兵藤)。マリノスはJリーグにおけるバルセロナではないし、バルセロナ以上のチームでもない。どこかで必ず苦しむ日がやってくる。それまでいかに貯金を作れるか。今月の残り3試合をしっかり勝ちきって、勝ち点を上積みしなければならない。

その初戦となるフロンターレ戦とはすでにナビスコカップで対戦し、その試合は1-0で勝利している。ただし相手はキーマンの中村憲剛を日本代表招集で欠いていた。「憲剛がいないとまったく別のチームになる」と日本代表でともに戦った経験のある中澤は分析する。中盤でタメが作れず、局面を一変させるようなパスがなくなる。するとフロンターレは“普通のチーム”に成り下がる。前線の個は確かに力を持っている面子ではあるが、レナトや大久保は協調性を欠く傾向が強い。いわゆるスタンドプレーに走ってしまい、ユニットとしての威力は半減する。中村憲剛と前線のラインを分断できれば、フロンターレは再び苦しむことになるだろう。

中村憲剛はトップ下に入る可能性が高く、ここで効果的なボールを供給されて、さらに前を向かれると苦しい。したがって、まずケアすべきは相手のビルドアップから中村憲剛への縦パスだ。そこを中村俊輔とダブルボランチでケアしたい。「マチ(中町)は自分のタイミングでボールを奪いに行ける選手」と富澤。中村俊輔がコースを切りつつ、中町が奪う。そこからのショートカウンターが狙い目となる。

フロンターレ守備陣の耐久力が低いことは今シーズンに始まった話ではない。彼らをリードしてきたのは、いつだって前線の強力な個性である。ジュニーニョやチョン・テセ、レナチーニョといった選手たちは当時のJリーグ全体を見渡しても突出した個であった。攻撃でイニシアチブを握るチームであることは明白。一方で守勢に回ると脆い。それは相手の陣容を見ても一目瞭然で、あらためて実名で指摘する必要もないだろう。マルキーニョスや中村俊輔といった名前に対抗できる守備陣ではない。

そこで攻撃のキーマンには齋藤を指名したい。広島戦ではコンディションが万全ではないながらも局面打開能力で存在感を発揮した。昨シーズン終盤のコンサドーレ札幌戦、サガン鳥栖戦、そして今シーズンの湘南ベルマーレ戦や清水エスパルス戦のように、先発か途中出場かは問わず、力関係で明らかに劣るチームには滅法強い。フロンターレは列挙したグループに該当するチームではないか。背番号11におおいに期待したい。

あとはチームとして普通に戦えるか否か。これまでの5試合を踏襲し、まずは攻守の切り替え早く、球際で強くプレーすること。チャンスが少なくても焦らず、失点しても気落ちしない。そして決めるべき場面できっちり決める。これらが5連勝の原動力となっていた要素の数々で、フロンターレ戦でもやるべきことは変わらない。

いまのマリノスは無理に背伸びをする必要などない。

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