「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

勝ち点3以上の成果報酬、すべてがうまくいっている [J6節 川崎戦レビュー] (藤井雅彦)

 

完勝と言っていいだろう。前半終了間際と後半終了間際に奪い取った得点はいずれもセットプレーによるもので、それはマリノスの得点パターンである。研究してもなかなか止められない精度を誇る中村俊輔のキックと豊富なターゲット陣は、間違いなくJリーグのトップ・オブ・トップ。そう、誇るべき武器なのだ。

それを知っていながらスカウティングを一切行わないという風間八宏監督のマネジメントには首を傾げざるをえない。フロンターレの脆弱なゾーンディフェンスは「隙があった」(富澤清太郎)。いわゆる棒立ちのディフェンス陣に対してマリノスは助走をつけ、勢いを持って入り込んだ。しかも富澤はニアサイドに立つ選手の死角から間に入り込み、そこに中村から完璧なボールが送り込まれた。

得点直後、熱い男である富澤は雄叫びとともに喜びを表現したが、アシストした中村は給水ボトルを手にして涼しい顔で小さなガッツポーズを作った。こういった何気ない仕草に現在のチーム状態の良さと相手チームとの置かれている立場の違いが見て取れる。

この試合に誤算があったとすれば、あろうことかセットプレーから田中裕介にゴールを献上した点だ。マークを担当していた富澤は「完全に潜られた」と唇を噛む。ゾーンディフェンスのフロンターレに対して、マリノスは中澤や栗原、富澤といった人に強い面々がマンマークで守備を行う。田中を担当していた富澤がマークを一瞬外し、それが失点となった。完璧主義の富澤はそれが許せなかった。

ちなみに田中のヘディングシュートはニアポストを守っていた中村の右手に当たって入っている。咄嗟に右手が出てしまったわけだが、弾いたボールが枠の外へ出ていれば、おそらくレッドカードが提示されていたはず。ただ、ボールは手に当たりながらもゴールネットに吸い込まれたためイエローカードで事なきを得た。田中は試合後、元チームメイトと旧交を温めながら「結果的にはシュートが入らないで、レッドカードとPKのほうが良かったかも」と複雑そうな表情をしていた。

この失点を契機に、試合の流れはそれまでと一変した。前半からマリノスは積極的なプレスと狙いを持ったインターセプトで主導権を握り、ビルドアップでも縦パスを織り交ぜながら効果的な攻撃ができていた。そこからフィニッシュに至る回数が少なかったわけだが、富澤の先制点に至る右CKは栗原勇蔵の前への出足によるカットからマルキーニョスへのシュートとつないで獲得したものだった。それが失点後は全体が間延びし、中盤にスペースが生まれ始めた。そして「足が止まった」(栗原)。

そういったスピーディーな展開は、Jリーグで優勝争いしていた数年前のフロンターレが最も得意とするところだ。マリノスの前線は齋藤学以外に縦への推進力が足りない。マルキーニョスでさえも独力でシュートまで持ち込むことは難しい。逆にフロンターレはレナトのドリブル能力が最大限に生きるわけだが、数年前と違うのは外国籍選手がただ一人という点だろうか。ジュニーニョやレナチーニョ、あるいはチョン・テセといった優れたユニットがあったからこそ当時のフロンターレは厄介な相手だったが、レナト一人では単発に過ぎない。

打ち合いの展開で失点しなければ、最後は地力の違いでマリノスが勝つ。得点パターンが豊富にあり、得点者は「日替わりヒーローのように」(栗原)現れる。この日の主役は端戸仁だった。終了間際の89分、右CKからのこぼれ球に迷わず右足を振り抜き、今シーズン初ゴールを記録する。開幕スタメンの座を射止めながら、チャンスの場面でなかなか結果を出せなかった。チームのゴールラッシュに乗り遅れた格好となったわけだが、前線の主力クラスとしては最後の得点者となった。なかなか好調のチームの輪に入れなかった端戸が得点した価値は計り知れない。この試合の勝ち点を『1』から『3』に変えただけでなく、残りシーズンを戦う上でも意味のある一発となった。

現行の1シーズン制になってからの新記録となる開幕6連勝を飾り、栗原は真剣な表情で言う。

「本当は1-0か2-0で勝つのが良かったと思うけど、失点したことで自分たちはまだまだという気持ちになる。その上で日替わりヒーローが出てくる。ある意味、すべてがうまくいっている」

チームはまず目の前の試合に勝利するために戦っている。これは選手も監督も、あるいはサポーターも同じだろう。ただ、いまのマリノスは勝ち点3以上の成果報酬を手にする流れになっている。これを好気流と言わずしてなんと言おうか。

開幕からのゴールラッシュが今シーズンの“流れ”を作ったとすれば、ここ数試合の勝負強さは流れを“加速”させる意味合いを持つ。この時期に、優勝を争うチームとの対戦カードが組まれていないことが残念でならない。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ