「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中断期間まで全力で駆け抜ける・・先発には六反・天野か [ナビスコ予選 清水戦 プレビュー] (藤井雅彦) -2,120文字-


 

勝てば文句なしで1位での決勝トーナメント進出を決められる。引き分けの場合は順位が2位かもしれないが、それでも突破は確定する。ナビスコカップの場合、決勝トーナメントの組み合わせをオープンドロー(公開抽選)で決めるため、通過順位に大きな意味はない。つまり清水エスパルス戦は無理に勝利が必要な試合ではなく、引き分け以上で十分だ。

仮に敗れた場合でも突破の可能性は高い。2位につけている川崎フロンターレとの勝ち点差が『2』、3位のジュビロ磐田との勝ち点差は『3』だ。つまりいずれか一方が引き分け以下の結果に終わった瞬間、マリノスの勝ち点を上回ることはできない。さらに言えば、3位の磐田とのマリノスの得失点差は現状でマリノスが『3』上回っている。清水に負けても1点差以内で磐田が1点差での勝利であれば、マリノスが依然として上位となる。

ここまででマリノスがかなり有利な立場にあることはお分かりいただけただろうか。それでもなお、樋口靖洋監督はまったく手を緩めることなくこの一戦に臨む。「引き分けようと思って引き分けられるほど甘くない。相手の予選リーグ敗退が決まっているからといって、受けて立ったらロクなことはない」と言い切り、ほぼベストメンバーでアウェイ清水への遠征に出発したのだ。中村俊輔、中澤佑二、マルキーニョスといったセンターラインはもちろん先発出場する。全力で勝ち点3を狙い、その結果が勝ち点1でも問題ないというスタンスである。

懸念材料を挙げるならば、ここまでの公式戦全18試合に先発出場していた左SBドゥトラを累積による出場停止で欠くこと。全試合スタメンはほかに兵藤慎剛のみで、現在39歳のドゥトラはまさに鉄人と呼ぶに相応しい。替えの利かない存在でもあり、樋口監督の決断が注目された。

「2パターンある。どうするか悩んでいる」と苦笑いする指揮官。試合前日の紅白戦ではまず右SB小林祐三を左サイドにシフトする形を試し、右SBに天野貴史を組み込んだ。続く2本目では小林を右サイドに戻し、奈良輪雄太を左SBに抜擢した。この2パターンのいずれかを採用するのだろうが、どうやら決めかねているようだ。小林、奈良輪のそれぞれに不安要素はあるが、これまで公式戦出場経験のない奈良輪を今回のようなケースで起用するリスクは高い。手堅い樋口監督は前者を採用するのではないか。

スタメンの変更点はもう一つある。先日のベガルタ仙台戦で脳震盪状態となり交代した榎本哲也は以降、トレーニングを行なっていない。深刻な事態ではないが、一定の期間は安静にする必要があるとのこと。そのため清水戦と週末のリーグ第13節・サガン鳥栖戦では六反勇治が先発でゴールマウスを守ることになる。清水戦のベンチには二種登録のユース2年生・田口潤人が入る見込みだ。

清水はすでに予選リーグ敗退が決まっている状況で、常に守る側のGKにとっては精神的に難しいゲームかもしれない。自らの手でポジションを勝ち取ったというよりもアクシデントで回ってきた“出番”の印象が強いこともある。それでもプロ意識の高い彼は「ゴールを守る以上は結果を求められるし、結果を出さなければいけない」と話す。ベンチに控えるのがユース所属選手という事実も含めて、六反に大きなプレッシャーがかかるのは間違いないが、置かれている現状を冷静に捉えた上での堅実なパフォーマンスを見せてほしい。

ゲームプランとしては「最低でも前半を0-0で折り返す」(兵藤慎剛)でいいだろう。引き分け狙いは危険でも、絶対に勝利が必要な試合というわけでもない。優位な状況にあるマリノスがわざわざリスクを冒し、隙を見せる必要はまったくない。スコアレスの展開で焦るのは他会場のライバルたちだ。彼らをそういった精神状態に追い込むのが理想で、マルキーニョスの決定力や中村俊輔のセットプレーで先制できればパーフェクト。言うことなしだ。

試合の意味合いを伝えるためのマネジメントは非常に難しい。樋口監督は紅白戦という目に見える場面でベストメンバーを組むことによって明確な意図を選手に伝えた。メディアもサポーターも、誰もがマリノスは本気だと感じるはずだ。中断期間までの残り試合はこの清水戦を含めてもたったの2試合。そこまで全力で駆け抜けるという強い意思が感じられる采配に強く同調したい。

試合やスポーツは蓋を開けてみなければわからないが、勝ち進めために正確で明確な手順を踏んでいるマリノスは、数字上の確率よりも高い可能性で決勝トーナメントに駒を進めるだろう。

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