「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ケチャップは大量放出されない、しかし・・・ [J13節 鳥栖戦](藤井雅彦)-1,930文字-

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「今日の相手はなかなかサッカーをさせてくれない」(兵藤慎剛)。

 サガン鳥栖は手強かった。個々の能力が高いというよりも、チームとしての意思統一がしっかりされている。無理にショートパスをつなぐのではなく、シンプルに前線へロングボールを放り込む。樋口靖洋監督は「鳥栖の早めのロングボールやセカンドボールへの圧力はここ数試合で一番徹底されていたと思う」と舌を巻いた。出足鋭くセカンドボールを支配し、開始1分には丹羽竜平が際どいシュートを放ち、スタジアムの空気をホーム側に引き寄せることにも成功していた。中村俊輔も「去年の嫌なイメージがあって、前半は向こうに押し込まれた」と認めている。

思い返せば昨シーズンの対戦(第3節)も同じような展開で鳥栖に主導権を握られた。その試合を樋口監督は「一番後悔している試合」と事あるごとに言っている。相手に合わせた戦法とメンバー編成で臨み、鳥栖のクオリティーに屈した。この日の試合前に中澤佑二が「去年は肉弾戦に持ち込まれて負けた」と語ったとおりである。

しかし、個人的な考えは違う。マリノスは肉弾戦でも強さを発揮するチームのはずだ。選手の性質がそう思わせ、性格的にも負けん気の強い個性が揃っている。砕けた表現で言えば、体のぶつかり合いや空中戦、セカンドボール争いといった競り合いで後手を踏むタイプのチームではない。相手のロングボール攻勢に少々苦しんでも最後の一線を許さなければいい。たとえ相手の土俵であったとしても、だ。

この日のマリノスは肉弾戦でも鳥栖を上回った。それが個人的には一番誇らしい。17分には栗原勇蔵がレイトタックルに来た野田隆之介をけん制、いや威嚇した。血の気の多い彼らしい一幕だったが、肉弾戦を制する一歩目は気持ちで負けないこと。中町公祐や小林祐三、マルキーニョスが競り合いの中で気持ちの強さを見せ、それとは対照的に中澤や富澤清太郎はクールに振る舞った。「荒っぽい展開」(六反勇治)でも一歩も引かない姿勢はマリノスのストロングポイントと言っていいだろう。

もちろんそれだけでなく、後半に入ってからは鳥栖を自分たちの土俵に引きずり込むことに成功した。足が止まり始めた相手を尻目に、中町が抜群の存在感を発揮してセカンドボールを拾っていく。サイドで起点となったのは齋藤学で、兵藤はバイタルエリアでのレシーバー役として機能した。唯一、マルキーニョスのブレーキは誤算だったが、チームとしての狙いはほぼ完遂されていた。

いまのマリノスの二大得点源の一つであるマルキーニョスが不調である以上、セットプレーで仕留めたのは妥当な結果と言えるだろう。豊田陽平が最終ラインを抜け出しかけたプレーをファビオが懸命に追って防いだ直後、それまでも際どいボールをゴール前に送っていた中村がFKの球質を変えて、走り込んだ富澤が頭で合わせた。完璧なキックとヘディングだ。鳥栖は文字通り手も足も出なかった。

試合後、下條佳明チーム統括本部長は「こういう勝ち方は大きい」と納得の表情を見せ、嘉悦朗社長は「よく頑張った」とチームを褒めていた。こうして首脳陣が絶賛するのも納得できる価値ある勝利だ。ナビスコカップから中2日のアウェイ戦で、しかも気温30℃を超える過酷な条件だった。左太もも裏を打撲してプレー続行不可能となった中澤を失うというアクシデントも重なり、想像していた以上に苦しい戦いを強いられた。

シーズン序盤こそ選手たちが口々に「ケチャップがドバっと出た」と笑う大量得点で勝利を飾っていたが、今月のリーグ戦は拮抗した展開のゲームばかりだ。勝っても1点差、負けても1点差、引き分けるケースもある。常に接戦が続いた。それでも、これがマリノスの本来の姿であろう。ケチャップはいつまでも大量放出されない。限られた残量を必要な分だけ使っていくほうがアクセントらしく、美味しい。

2点目を取れればベストだが、2点目を取れない場合は無失点で試合を終えればいい。リーグ戦では今シーズン初めて1-0勝利を達成する「強い勝ち方だった」(栗原)。

 

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