「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

逆ケチャップ理論 [J16節大宮戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,383文字-

大宮アルディージャ戦前日のこと。栗原勇蔵が首を傾げながらポツリとつぶやく。

「序盤の得点力はどこに行っちゃったんだろう。やっぱりケチャップがドバドバッと出たのかな。いまはケチャップを振り絞ってもなかなか出てこない」

4-2-3-1_2013 以前も記述した『ケチャップ理論』をあらためて解説すると、リーグ序盤のマリノスは攻撃が好調で開幕6試合の最中は複数得点が続いていた。特に開幕戦の湘南ベルマーレ戦は4得点、第2節・清水エスパルス戦では5得点と攻撃陣が大爆発。この時期、選手たちはチーム状態をケチャップになぞらえていた。満タンのケチャップを強く握ると、予想以上の量が皿に飛び出る。誰もが一度は経験したことがある日常の光景だろう。

ところが現在はケチャップを逆さのまま保存していても、いざ蓋を開けるとなかなかケチャップが出てこない。大量ではなく適量で十分なのだが、その適量すらお目にかかれない。「ケチャップの容量そのものが少ないからか」と栗原が言うとおり、そもそも攻撃自慢のチームではないから仕方がない部分もある。ケチャップの一端を担っていたセットプレーも不発もあっては、どうしても味が薄いまま食べざるをえない。

マリノスにおけるケチャップの中核となっていたのがマルキーニョスと中村俊輔である。前者はここまでチームトップの8ゴールを記録し、後者はセットプレーからチャンスを創出している。とはいえマルキーニョスは37歳、中村は35歳のいずれもベテランだ。リーグ再開後の2試合は時間経過とともに運動量が落ち、明らかにガス欠傾向にある。しかしながら実力と実績があるだけに樋口靖洋監督は彼らを安易にベンチへ下げられない。涼しい時期に勝っていれば見えない問題が、暑い時期に結果が出ないことで顕在化してきた。ベテラン過多のチームが抱える最大の問題点と言えるかもしれない。

いま、それを言ってもどうしようもない。例えばマルキーニョスの代わりに藤田祥史、中村の代わりに端戸仁を起用する考えなど樋口監督にはない。というよりも、そんなドラスティックな采配に踏み切れるのは外国籍の監督だけだ。日本人監督の多くが実績を重視したくなるはず。大宮戦も当然、彼らがスタメンとしてピッチに立つだろう。チームはここ2試合勝っていない。その状況で実績不十分な選手を起用するのは余計にリスクが高い。

ならばマリノスにおける優秀なケチャップを復活させるほかない。特に中村のプレーは再考の余地を残す。ここ2試合、中村はビルドアップの場面で中盤の低いゾーンに下がりすぎる傾向がある。夏場で暑いからこそポゼッションの時間を長くしたいという考えに基づいた行動で、その意識はチーム全体で共有されている。樋口監督は以下のように話す。….

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「チームとしてボールを持つ時間を長くしたい。そのためにシュン(中村)が少し下がってボールを回すのは悪いことではない。でもシュンが引いたときにはマチ(中町)が出て行くとか、前線のマルキを孤立させないようにしないといけない。それとシュンが中盤の底になることは避けたい。そうなってしまうとボールを失ったときのリスクが大きい。そのあたりのローテーションがうまくいっていない。いまは中盤の底で3人が並んでボールを回している時間が長い」

 理屈としては正しいのだろう。しかし、現在のチームを作るにあたり、なぜ中村をトップ下に据えた[4-2-3-1]を採用したのか。中村を高い位置でプレーさせるためである。それなのに暑いから、ボールを回したいからといって安易に下がることを容認しては意味がない。まず低い位置でボールロストが目立つ中村は輝かず、樋口監督が危惧するように前線で孤立するマルキーニョスの存在感が稀薄となる。

それだけではない。中村が下がることで最もしわ寄せを受けるのはボランチの二人だ。中村が下がった場合に中町公祐が上がるというバランスは一見すると悪くない。人の配置のバランスだけで言えば、おそらく正しい。しかし、選手の性質を無視している。中村と中町は違う。特に360度の視野を保ちつつ、ボールをキープする技術には大きな差がある。最近の中町は中村が下がることで攻撃意欲を高めている。「暑くても自分は動けるから夏は好き」と話すように意識もポジティブだ。だが、結果的に富澤清太郎が中盤の底で苦しんでいる。ボールロストした際、中村も中町もいない状況でバイタルエリアをケアしきれない。ここのところ効果的なボール奪取が影を潜めているのは富澤個人ではなくチーム全体のバランスに問題があるからだ。

ゴールできないこと、それと簡単に失点しまうのは運や不運、あるいは流れの問題ではない。好調時と比較して、戦い方に不必要な変化があるとしたら、それが原因の一つではないだろうか。まずは好調時のチームに立ち返らせる。選手層の薄いベンチを無理に使う交代策よりも、試合に臨む11人の戦い方を整理させるほうが先決に思える。

栗原の話すケチャップの容量が中2日のゲームで突然増えない。でもケチャップをいかにして使うかは考える価値がある。容器の中に多くは残されていない貴重なケチャップを生かすも殺すも、使い方次第だ。

 

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