「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

すべての試合が終わって首位に立っていればいい [J21節・FC東京戦レビュー] (藤井雅彦) -2,113文字-

守備陣の集中力が素晴らしかった。特に右サイド寄りで最終ラインを形成する栗原勇蔵と小林祐三の出来は磐石だった。前半はFC東京の左サイドに位置する長谷川アーリアジャスールにまったく仕事をさせず、同時に左SB太田宏介のオーバーラップも封じることが出来た。さらに栗原は中澤佑二との連係で1トップの渡邉千真も完璧に封じる。相手が得意とするコンビネーションを出させずに、得意としている前線での連係プレーをシャットアウトした。

4-2-3-1_マルキ端戸2013 とはいえ後半は押し込まれた。長谷川がボランチに下がったことでボールを前へ運ぶプレーが可能となり、マリノスは全体的にラインを下げざるをえなかった。それについて中澤は「前半は最終ライン4人とカンペー(富澤清太郎)の5人でうまく守れたけど後半はそれができなかった」と振り返る。相手の攻撃をはね返したあとのボール回し、あるいはカウンターからのフィニッシュをスムーズに運べず、どうしても相手ボールの時間が長くなってしまった。

それでも一度も決定的なシュートは許していない。最終局面で体を張り、シュートの一歩手前でボールカットに成功する。中澤は冷静な判断で応対し、ドゥトラは身をていした守りで貢献。榎本哲也は「今日はみんながディフェンスを本当によく頑張ってくれた。相手の良さを消すことができていたし、みんなに感謝したい。自分のスーパーセーブはなかったけど、それでいい。オレが活躍しない勝ち方は理想」と笑みをこぼす。まずは最終ライン4選手の奮闘を強調したい。

彼らと同等以上に多大なる貢献を果たしたのが最終ライン前方に構えるダブルボランチの一角・中町公祐である。夏場になっても運動量を落としていないが、特にこのゲームでの存在感は絶大だった。ルーズボールの競り合いをことごとく制し、奪ってからも正確なパスと的確な判断でボールをつなぐ。

「グラウンドがあまりいい状態ではなかったけど、相手が足下でボールをつないでくるのは分かっていた。自分のゾーンでやられると相手も前に出てくるので、今日はまず個人の戦いをそれぞれがしっかりやろうという話を強調していた」

 

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中町自身の言葉通り、ボールサイドに厳しく仕掛けてくるFC東京のダブルボランチに対して一歩も引かず、肉弾戦でことごとく勝利した。

4-2-3-1東京 そんな折、兵藤慎剛のゴールが素晴らしい連係から生まれる。中村俊輔からのパスを受けた時点ですでにエリア内に入り込んでおり、しっかりゴール方向へのプレーを選択できた。兵藤の動きに合わせた端戸仁のランニングも見事で、二人の連係プレーは「練習みたいな形」(兵藤)であった。シュートも落ち着いて決めて、兵藤は自身のキャリアハイに並ぶ今シーズン6ゴール目。キャリアハイ更新は時間の問題だろう。

そして中村俊輔のスーペル・ゴラッソである。89分という時間に長い距離を走り、マルキーニョスからパスを引き出す。前方にいるマルキーニョス、右前方に走りこんだ小椋祥平へのパスを選択することもできたが、あえて自ら決めることを選んだ。個人的にはその気概こそが、今シーズンの中村の好調を支える原動力だと思っている。安易にパスを選択するのではなく、応対した加賀健一を“ちゃぶった”。右へ、左へ、とキックフェイントで翻弄し、シュートは世界中のどのGKでも止められなかっただろう。

終わってみれば2-0の「理想的な勝利」(樋口靖洋監督)を収めたが、決して簡単なゲームではなかった。FC東京は以前よりもファイティングスピリットに溢れており、中盤での厳しく、早いチェックに苦しんだ。兵藤もゴールを決めるまでは良さをまったう出せず、中村に至ってはゴール以外の場面で普段の質を維持できなかった。彼ら自身の問題以上に、相手を褒めるべきだろう。相手の守備力によって、パワーを減退させられた。その上でゴールを決めた彼らは、なお評価されるべきである。

結果、マリノスは約4ヵ月ぶりに首位に立った。勝ち数は広島と並んで13勝でリーグトップ。負け数はわずかに『3』で、リーグで最も少ないチームだ。昨シーズンは14引き分けとドロー地獄に苦しんでいたが、今シーズンはしっかり勝ち切る試合が増えた。直近6試合は5勝1分と7月以降の戦いも安定している。

不安要素がないわけではないが、それよりもまずはFC東京に完勝を収めて首位に立った喜びを最初に伝えるべきだろう。もちろん「首位はすべての試合が終わって首位に立っていればいい」(中澤佑二)のだが、順位表を見るたびにニヤリと笑えるのが首位の特権である。

 

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