「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

何かを起こすとしたら、場所は三ツ沢しかない [ナビスコカップ準決2nd・柏戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,377文字-

マリノスに関係のない話をしたい。野球の日本代表監督が小久保裕紀氏が決まったという話題を耳にした。同氏は今シーズンまで福岡ソフトバンクホークスの現役選手としてプレーしており、シーズン終了とともに引退するという。プロ野球界は3年後のワールド・ベースボール・クラシックを目指し、前回大会の監督人事における反省を生かして早めに監督を決定したというが、まったくもって指導経験のない人間に指揮官を任せることに不安はないのだろうか。仮に結果を残せなかったとき、誰が責任をとるのだろうか。日の丸はそんなに軽いものなのだろうか。

サッカーの世界では、ありえない人選だ。まず現役引退直後にすべてを飛び越して監督になるというケースがほとんどない。あってもコーチングスタッフ入り程度だろう。経緯の詳細を知っているわけではないが、ちょっと信じられない。資格や条件の問題に関係なく、やはり野球とサッカーでは球団と代表のプライオリティーが正反対ということか。サッカーにおける人気コンテンツはやはり日本代表だ。野球はプロ野球であり、ペナントレースに比重がかかる。野球を取材した経験のあるスポーツ新聞記者は言う。「野球の代表監督なんて、サッカーのユース監督と同じくらいのレベルだ」と。

それにしても野球の監督は、サッカーのそれよりも明らかに出番が多い。1球ごとに変わる戦況を的確に判断し、1球ごとに選手へと指示を送る。選手交代をはじめとする采配での出番も圧倒的に多い。サッカーは試合開始のホイッスルが鳴り響けば、ほとんどのことを選手がやらなければいけない。監督の仕事といえば、スタメン11人を決めることくらいで、その後もせいぜい3枚のカードをいかなるタイミングで切るか、その程度だ。ベンチ前でいくら声を張り上げても、試合中の選手にはほとんど聞こえていないのが現実としてある。
しかし、やるべきことが少ないからこそ、その重みも増すという見方もできるが。

4-2-3-1_佐藤左小椋 前置きが長くなってしまった。本題は明日のナビスコカップ準決勝第2戦・柏レイソル戦だ。アウェイで戦った第1戦は田中順也のゴラッソ2発に沈む形で、まさかの0-4大敗を喫した。アウェイゴール云々の前に4点以上取らなければ敗退が決まる。アウェイゴールルールが適用されるのはむしろ失点した場合で、仮に1失点した時点でマリノスは6ゴール必要となる。「失点したら、その時点でほぼ終わりになってしまう」という小林祐三の言葉は悲しいくらいに現実的と言えるだろう。

4点も6点もハードルは高いが、6点よりも4点のハードルが低いことは間違いない。ではどうすれば4点取れるか。今シーズン、マリノスが4点取った公式戦は3試合ある。リーグ第1節・湘南ベルマーレ戦(4-2)、リーグ第2節・清水エスパルス戦(5-0)、それと天皇杯2回戦・ヴァンラーレ八戸(5-1)である。そのうち天皇杯2回戦に関しては相手のレベルが格段に下がるためノーカウントとしよう。すると残るのは湘南戦、清水戦というリーグ開幕直後の2試合だ。

下バナー

現在とな異なる状況であることを承知の上で、その2試合に関してはいずれもセットプレーから先制点が生まれていた。樋口靖洋監督は「4点取るにはセットプレーから必ず点を取らなければいけない」と見立てている。キッカーの中村俊輔は試合前日、普段通りリスタートのキックを繰り返し、イメージを高めていた。その努力が実ること、そして成果が出ると信じたい。

4-1-4-1柏 大量得点した2試合の共通点として、途中出場の齋藤学が躍動したことも印象深い。当時、負傷を抱えていた齋藤は先発を端戸仁に譲り、後半途中からの出場がお決まりのパターンとなっていた。湘南戦では決勝ゴールを挙げ、清水戦ではマルキーニョスのゴールをお膳立てする。このように試合途中からチームをギアチェンジさせる存在が必要なのだが、齋藤に関しては日本代表に招集されているため不在。ではチームを加速させる役割を誰が担うのか。人材を見つけにくい状況ではあるが、先日のヴァンフォーレ甲府戦で不発に終わった藤田祥史、あるいは絶対的な高さを誇るファビオや、今回ベンチ入りする勢いの男・比嘉祐介に期待したい。

大量得点が必要な状況で樋口監督は今週、[4-4-2]をテストした。マルキーニョスと藤田を並べる布陣である。一長一短がある中で、どうやらシステムは従来の[4-2-3-1]に落ち着きそうだ。その場合、齋藤の代役には佐藤優平が入る。それでも必ず2トップにするタイミング、そして藤田の出番がやってくる。そのとき、腰が重い指揮官では困る。これまでの成功と失敗の経験を生かし、効果的な一手を打ってほしい。おそらくは、すべてのことが120%思い通りに運ばないかぎり、4点差を逆転するのは至難の業だ。あるいは両チームともに予想できないような事態に発展するか(開始数分で柏に退場者が出る、など)。紛れが起きるとすれば、マリノスが紛れを起こそうと努力した場合の話だろう。少なくとも、相手のミス待ちでは90分間が徒労に終わってしまう。

何かを起こすとしたら、場所は三ツ沢しかない。相手に関係なく、何ができるかが肝要だ。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ