「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

優勝するとしたら、今年しかない。そのための決勝戦か、それ以上のゲーム [J29節・広島戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,260文字- 

ここまで積み上げてきた勝ち点は実に『53』。この数字は昨シーズン終了時とまったく同じで、残り6試合でどこまで数字を伸ばせるかの戦いとなる。最大で『18』増やすことが可能で、そのときは100%の確率で順位表の頂点に立っている。同勝ち点のサンフレッチェ広島にもその可能性が残されているが、両チームが全勝することはない。明日、日産スタジアムで両チームが対峙するからである。

4-2-3-1_佐藤 この試合の位置付けについて少し。あくまで34分の1という考え方も間違いではないが、一方で今シーズン最も重要な試合という捉え方もある。タイトルの味を知る男・マルキーニョスは「決勝戦か、それ以上のゲームだと思っている。個人的には明日の試合に勝ったチームが優勝に近づくと思っている」と重要性を語った。それぞれ考え方、あるいは表現の仕方は異なるが、マルキーニョスのような経験豊富な選手が本音を口にしているとしたら、それだけ特別な試合ということなのだろう。

「引き分けではダメ。勝たないと優勝できない」と言ったのは中澤佑二だ。負けるよりは100倍マシなドロー決着だが、ここで叩かなければいけないと話す理由は、残り試合に上位勢との直接対決がないから。栗原勇蔵が「ここで勝って、ほかのチームがつぶしあってくれれば優勝に近づく」と話したとおり、現在順位で5位以内にいるチームとの直接対決はこの広島戦が最後となる。そしておそらくはこの5チームで優勝を争うことになるだろう。やはり「叩いておかないといけない」(榎本哲也)試合である。

広島戦に抜群の強さを見せるのが、最近のマリノスだ。ダブルボランチは強気なコメントで意気込みを語る。富澤清太郎が「体力と集中力が切れなければ、まず負けない」と自信をのぞかせれば、中町公祐は「対広島に関しては自信を持っている、かなり」とニヤリ。ほぼ同じ戦い方の浦和レッズにもそうだが、最近のマリノスは相手に何もさせずに勝ち点3をもぎ取っている。ひと昔前のように変則的なシステムに戸惑うこともなく、ボールを持たれるという、ある種の割り切りもある。ラインを下げ過ぎることなく中盤をコンパクトに保ち、相手の2シャドーへのパスコースを切る。日本代表から帰ってきた齋藤学は「勝つことが重要だけど、いつもと違うことをやるわけではない」と冷静に話した。

ただし不安材料もある。まず左SBドゥトラの累積で出場停止であること。ここ数試合のドゥトラは40歳とは思えない運動量を見せており、左サイドで起点となる重要な役割を担っていた。代役の奈良輪雄太は明らかに性質が異なり、まず左利きではない。今回と同じようにドゥトラが出場停止だったナビスコカップ予選リーグ・清水エスパルス戦で先発出場し、まずまずのパフォーマンスを見せたが、その試合とは重みがまるで違う。「あまり考えすぎずにやる」と平静を装ったものの、出来については蓋を開けてみなければ分からないだろう。ドゥトラとの最大の違いは、味方でさえも奈良輪のパフォーマンスを想像できない点にある。

下バナー

ドゥトラの出場停止は2週間前から分かっていたこと。しかし兵藤慎剛が欠場するのは試合前日まで判断がつかなかった。先週のナビスコカップ準決勝第2戦・柏レイソル戦の後半に右足首をねん挫。その後は水曜日の天皇杯を回避して広島戦に照準を合わせてきた。前々日の段階でスパイクを履いてボールを蹴るところまで回復したが、万全の状態ではないという判断で欠場が決定した。一昨シーズン、昨シーズン、そして今シーズンここまで全試合先発を続けてきた“鉄人”を大事な一戦で欠く。

3-4-2-1広島他チーム ドゥトラ、そして兵藤は、チームの安定要素だ。ビルドアップが行き詰まれば左サイドの不惑にボールを預けて、前線へのフィードとボールを持ち運ぶドリブルに頼る。右サイドでボールの出しどころがなければ、兵藤の足下にボールを預けて時間を作る、あるいはファウルを獲得する。これほど計算が立つ選手はほかにいない。彼らに不調という言葉を用いるケースはほとんどなく、拮抗した試合になったときに不在の大きさを思い知らされるだろう。

広島がお得意様とはいえ、簡単な試合にはならないだろう。主力選手不在だけが理由ではなく、首位攻防戦という独特の雰囲気に呑まれて力を発揮できない選手が出てくるかもしれない。クラブ関係者が「来場者数4万人を目指している」と言うように大勢のサポーターがスタジアムに足を運ぶのは素晴らしいことだが、それによって緊張感が高まるのもたしか。いかに平常心を保つかが鍵を握りそうだ。

開幕ダッシュに成功し、真夏をなんとか乗り切り、初秋になって極端にパフォーマンスを落とすこともなかった。そんな充実のシーズンも残り6試合を残すのみ。これまでも何度も述べてきたことだが、今シーズンは収穫期だ。優勝するとしたら、今年しかない。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ