「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

端戸以外に1トップを務められる人材はいない [天皇杯決勝・広島戦プレビュー] 藤井雅彦 -2,279文字-

明日の天皇杯決勝は、マリノスにとって2013シーズンの公式戦50試合目となる。ちなみに今シーズンの公式戦は最大で51試合だった。足りなかった1試合とはナビスコカップ決勝で、そのゲームを除くすべての試合を消化することになる。リーグ戦はどのチームも34試合共通だが、ナビスコカップとこの天皇杯は違う。「3つの大会で総合力で問われる1年だった。マリノスと広島は年間を通じて安定したチームだった」(中澤佑二)。ちなみにここまで消化した49試合の戦績は31勝8分10敗。貯金20は立派の一言に尽きる。数字が示すとおり、胸を張っていいシーズンだ。

だからこそ勲章がほしい。樋口靖洋監督は言う。「優勝すれば視界が開ける。9年間タイトルから遠ざかっていて、タイトル獲得を経験した選手は少ない。マリノスというクラブが先に進むために、どこかで成功体験が必要になる」。2004年のリーグ制覇以来、タイトルから縁遠く、トーナメント戦ではいつも準決勝止まり。いつの間にか勝ちきれないチームになってしまった。現状を打破するためにはどこかで一度、壁を突き破らなければならない。

4-2-3-1_2013 周囲はリーグ戦での失意を引き合いに出すかもしれないが、個人的にはリーグ戦と天皇杯では重みがまったく違う。天皇杯を軽視しているわけではなく、やっぱりリーグ戦こそがチャンピオンを決める大会という意味だ。小林祐三のコメントを引用する。「カップウィナーという言葉があるくらいだし、リーグ戦の悔しさはリーグ戦でしか晴らせない。ただ、チームとして1年間やってきた自信や誇りを優勝という形にしたい」。勝利し、優勝しても、リーグ戦での悔しさは晴れない。だが、優勝することには大きな価値がある。

勝つためには点を取らなければいけない。もちろん延長戦を過ぎてのPK合戦という決着方法もあるが、まずはいかにして点を取るかを考えるべきだ。その点でFW不足は否めない。退団が決定しているマルキーニョスはすでに帰国しており、代役FWの藤田祥史は準決勝で警告を受けて累積による出場停止。1トップを務めるのは端戸仁となる。本人の言うとおり「今年1回も公式戦で出ていないポジションで出るかもしれないので多少の不安はある」(端戸)だろう。しかし、ほかに選択肢はない。端戸以外に1トップを務められる人材はいない。

端戸自身のパフォーマンスはもちろん大事だが、こういった場面では周囲との連係や協力が欠かせない。特に2列目の選手たちがいかに端戸をフォローするかにかかっている。そういう意味で鍵を握るのは兵藤慎剛だ。リーグ戦終盤は右足首ねん挫の影響もあってパフォーマンスを落としていたが、ここへきて復調傾向にある。調子が良いときの兵藤は積極的にボールサイドに顔を出し、決してボールを失わない。端戸に近い位置を取り、孤立させない動きを披露するだろう。

 

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とはいえ、まずは守備から入るゲームとなる。広島がボールを持って試合を進めるのはいつものこと。「やられているではなく、やらせているというメンタル」(中町公祐)を保てるか。トーナメントの決勝戦ということでさらにその傾向は強くなるはず。我慢比べの展開で、スコアレスの時間が長く続くかもしれない。マリノスは焦れてはいけない。好機は必ず訪れる。齋藤学の局面打開か、あるいは中村俊輔のセットプレーを大切にしながら、限られたチャンスをモノにしたい。

広島3-4-2-1 天皇杯決勝は多くの選手にとってブラウン管の中の世界だった。「天皇杯はいつも正月に実家で悔しい思いをしながら観ていた」(兵藤)。シーズンを終えてオフに入り、地方出身の選手はそれぞれ帰省している。一般人と同じように元旦を迎え、おせち料理をつまみながら実家のこたつでテレビを眺める。元日のピッチで他チームが戦っているのは他人事だった。

当事者になると、これほど幸せなことはない。まず大晦日にトレーニングしている風景は異様だが、幸福感に包まれている。PK練習で中澤が大きく枠を外しても、それも幸せなワンシーンである。中村はいつものように居残りでシュート練習を行い、チームにけが人はいない。移籍でチームを離脱した選手を除き、全員で2013年最後の日を迎えられた。素晴らしい締めくくりだった。

だが、シーズンはまだ終わっていない。2013年が良い1年だったと思えるように2014年最初のゲームを勝利で飾らなければいけない。もう悔し涙はたくさんだ。勝って、優勝して、中村俊輔が優勝カップを掲げる姿を目に焼き付けたい。最高の締めくくりと最高のスタートを切るために、2014年1月1日をマリノスにとっての記念日にする。

最後に、2013年もヨコハマ・エクスプレスをご愛読いただき、ありがとうございました。2014年もさらに深く、速い情報をいち早く読者の皆さんに届けたいと思っております。では、次は優勝原稿で会いましょう。

 

 

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