「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

2013シーズンのマリノスの歩みは間違っていなかった [天皇杯決勝・広島戦レビュー] 藤井雅彦 -2,344文字-[優勝記念無料]

正直言って、天皇杯に対するチームのモチベーションはお世辞にも高いとは言えなかった。リーグ戦の最後の最後に優勝を逃した喪失感はあまりにも大きすぎた。残り2試合で1勝すれば自力優勝を決められる恵まれたシチュエーションと、現時点における完成されたスタイルが、やはり2013シーズンに獲るべきだという根拠である。だからこそ優勝できなかった痛手は計り知れない。リーグ戦から数週間で消え去るような軽い痛みではなかった。ほとんどの選手がリーグ戦でのV逸ショックを引きずりながら、残された天皇杯とシーズンを過ごしていた。

そんな状況下で迎えた天皇杯をしっかり勝ち上がり、最後に頂点に立ったチームが本当に誇らしい。これまで何度も述べているように準々決勝・大分トリニータ戦が最大のヤマ場で、延長戦にもつれ込みながらもどうにか突破し、準決勝・サガン鳥栖戦では力の差を見せつけた。決勝の相手はリーグ戦で逆転優勝を献上したサンフレッチェ広島だったが、選手たちは過度にイレ込むことなく平常心を保ち、リーグ戦同様に勝利を収めた。

4-2-3-1_2013特筆すべきは先制点を導き出した右SB小林祐三の充実ぶりだろう。相手のプレッシャーが弱いと見るや、半ば強引な仕掛けでさらに押し込んでいく。それについて「自分があれくらいやるとチーム全体が前を向く。引っ張るというと大げさだけど、ああいうプレーも必要。試合全体を通してのリズムを作れたし、今日は自分のプレーに意味があった」と満足気に語った。力強い突破から、最後は齋藤学が迷うことなく右足を振り抜き、試合のすう勢を決める先制点が生まれた。

先取点を奪えば、こちらのものである。広島はポゼッションに優れたチームだが、マリノスがボールを持てば、ただ下がるのみ。対して、広島の攻撃時は適度な距離感でプレッシャーを与えていく。結果的にボールを持っている時間が長いのはマリノスだった。あとは、いつ、どうやってゴールを決めるか。そこで重要な働きを見せたのは前述した小林のドリブルであり、齋藤学のシュートだ。この時点で勝利を大きく手繰り寄せたといっても過言ではない。

そして勝敗を決定付けたのは中村俊輔を起点とするセットプレーだった。この試合最初のCKであり、最初のリスタートのチャンス。中村が集中した蹴った先にはゴール前から少し逃げるように動いた中町公祐がいた。ヘディングシュートこそGK西川周作に阻まれたが、中澤佑二だけはこぼれ球への準備を怠らなかった。「こぼれ球が来ると思った」。そう言って中澤は少しだけ胸を張った。

リーグ戦での優勝を逃した直後、中澤は真剣な表情で話している。「自分たちのどこかに足りない部分があったかもしれない。自分は日頃の練習から100%を出していたつもりだけど、もっと頑張れたかもしれない。選手個々がそれを考えながら、反省を次に生かさなければいけない」と。毎日の練習に全力で取り組み、全体練習終了後はクールダウンのランニングを欠かさない。最後までボールと触れ合う。キックの練習も欠かさない。そんな男に決勝の舞台でこぼれ球がやってくるのは決して偶然ではない。

広島3-4-2-1褒めるべき選手はそれだけではない。全員を列挙したいところだが、それではもしかしたら価値が薄まる。あえて名前を挙げたいのは、やはり1トップとして仕事を果たしてた端戸仁だ。シーズン中、一度も務めていないマリノスでの1トップを立派にこなした。ボールを持てばテクニカルなタッチを披露し、齋藤や兵藤慎剛と絡んでチャンスを創出。守備での迫力やポジショニングに課題こそあるものの、これが初めての1トップ起用とは思えない出来だった。クラブはマルキーニョス退団をうけて攻撃の軸としてジュビロ磐田の前田遼一獲得を目指しているが、端戸もポジションを争う存在として十分に期待できる。

元日に試合を行っただけでも幸せなのに、最後の最後に勝利で締めくくり、笑顔をもたらしてくれたチームに感謝したい。選手の多くが話していたように、この優勝でリーグ戦ショックが払拭されるわけではない。個人的な感情だけで言えば、さらに悔しさが増した。広島関係者の余裕な表情を見ると、リーグ戦のカップ戦の重みの違いを痛感してしまう。ACLのグループ分けを見ても、仮に広島が天皇杯で優勝しても、彼らはリーグ優勝枠で出場していた。やっぱりチャンピオンはリーグ優勝チームなのだ。

しかし、である。2013シーズンの最後と2014年の最初に、最高の瞬間と笑みをもたらしてくれたチームは、最高だ。たくさんの人から祝福の言葉をかけられ、サッカーをあまり知らない友人からお祝いメールが届く。そんな体験はそうそうできない。この原稿を読んでいるたくさんのサポーターにも同じ現象が起きていることだろう。

この優勝でユニフォームの胸のエンブレムの上に星が増えるわけではない。でも形にならなくても、誇りと自信は持っていい。区切りのシーズン50試合目で手にした勲章。それは2013シーズンの歩みが間違っていないことの証明となった。

 

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