「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

英断か、小椋スタメンの驚き [J6節 新潟戦レビュー] (藤井雅彦) -1,795文字-

 

後半に何度かめぐり合ったチャンスをいずれも決めきれなかった伊藤翔は落ち着いた表情で試合を振り返った。

「攻守で行ったり来たりのゲームは新潟のやりたいことだったと思う」

4-2-3-1_兵藤 試合後の言葉を聞くかぎり、選手によって捉え方がさまざまなゲームだったが、すべてはこの言葉に集約されるのではないか。特に前半は明らかに相手の出足がマリノスを上回っていた。オレンジ色のユニフォームは、中盤で厳しくプレッシャーをかけてマリノスから自由を奪い、ボールを奪ってからは横方向ではなく縦方向に素早く展開する。少ない手数と時間で縦への推進力に優れる2トップをシンプルに使い、ミドルシュートやサイドからのボールでチャンスを作る。7分にはサイドの揺さぶりから最後は日本代表候補の川又堅碁にポストをかすめるヘディングシュートを許した。

それでもこの日のマリノスはGK榎本哲也を中心に粘り強い守備で対抗できていた。栗原勇蔵は「最初は押されていたけど、そこをしのげたのは大きい」とポジティブに語る。危ない場面を作られたが、最終的にゴールを許さなければチャンスは転がってくるものだ。実際、後半に入ってからのチャンスは新潟と同等かそれ以上の回数だった。最大のチャンスは75分の場面か。カウンター気味に中村俊輔からのパスを受けた伊藤が放ったシュートはバーを叩いた。疲労が溜まりつつある時間帯で長い距離を走り、そこからファーサイドを射抜くのは難しかった。「本当は逆サイドを狙いたかったけど、流れたのでニア上を狙うしかなかった。シュンさん(中村)からあれだけいいパスをもらえたので僕の責任」とうなだれた。

 

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勝つチャンスはあったが、負けるリスクもそれなりにあった。終盤にはレオ・シルバに強烈なミドルシュートを見舞われ、自陣ゴールのバーに助けられて肝を冷やした。とはいえ前半の出来を考えれば無失点での勝ち点1獲得は悪くない結果だ。「どっちに転んでもおかしくないゲームだった。勝ちもあったし、負ける可能性もあった」(栗原)。試合を迎えるまでの流れや現状を度外視したとき、長いシーズンでこういう試合は必ずある。そのときに粘り強くつかんだ勝ち点1は必ずや意味を持つはず。ひとまず連敗を止めたことにも意味がある。

新潟4-4-2 そして、この新潟戦では大きなサプライズがあった。一昨年の途中から中町公祐とともに不動のボランチとして地位を確立した富澤清太郎がベンチに回り、樋口靖洋監督は小椋祥平をスタメン起用したのである。富澤に負傷などのアクシデントがあったわけではない。指揮官の言葉を借りれば「(小椋)好調だったので先発で使った」となるが、それ以上に富澤の不調がスタメン変更に至った最大の理由であろう。ここ数試合は本来のパフォーマンスに程遠い出来で、特に判断の遅さが目立った。対して小椋は迷わずプレーするのが特徴だ。自身の判断で前線への長いボールを蹴り、ボールロストを厭わない。驚くようなミスもあるが、必ずらしさや良さを出せる選手である。ACL第4節メルボルン・ビクトリー戦からの流れもあり、これは英断だったように思う。

樋口監督の思い切った起用にはとても驚かされた。主力クラスが負傷や出場停止などの理由がなくベンチに回ったのは、結果が出ていた昨年からではおそらく初めてだ。次節から始まる連戦に向けて、チームは大きな一歩を踏み出した。アンタッチャブルな存在と目されている選手も、状態が悪ければポジションを奪われるだろう。今後は柔軟なメンバー編成を行いながら結果を出していくことが求められる。ある意味でメンバーを固定化して勝つよりも難しい作業だが、いつかは乗り越えなければいけない壁なのだ。新潟戦は樋口マリノスの新たな挑戦が始まった日となった。

 

 

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