「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

52分、俊輔がベンチへ下がった。この試合歴史が動いた試合だったのかもしれない。[J11節G大阪戦レビュー] (藤井雅彦) -1,837文字-

 

リーグ戦8試合ぶりの勝利だ。途中にACLでの勝ち点3を2回挟んでいるから、それほど長い気はしない。だが、リーグ戦に限れば約1ヵ月半ぶりに味わう勝利の美酒である。ミックスゾーンに最後に現れた中澤佑二は「勝ちなしできつかったけど、一番きつかったのはサポーターだと思う。ゴールデンウィークに来てくれたサポーターに勝利をプレゼントできて良かった」と安堵の表情で語った。まずはどのような形でもゴールが決まり、そして勝ったことを喜びたい。

4-4-2_藤田_伊藤 多くの選手が第一声でそう話す一方で、内容については険しい表情を見せる場面が目立った。最もシャープに切り捨てた選手として、再び中澤の登場を願おう。

「内容はひどい」

とても短い言葉でまとめた。ガンバ大阪のシュートミスに助けられた側面があり、GK榎本哲也のビッグセーブ連発がなければ失点は免れなかった。先に失点していたら、と思うとゾッとする。先制を許せばあの2得点がなかった可能性は高い。

勝利に勝るトピックなど本当はないのだが、このガンバ戦は歴史が動いた試合だったのかもしれない。

 

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52分、中村俊輔が交代を命じられてベンチへ下がった。タッチライン際で待っていた齋藤学の頭をポンと叩き、樋口靖洋監督との握手を交わすと、早々にロッカールームへと引き上げた。皮肉にも、自身が起点となって先制ゴールが生まれた直後の交代だった。

G大阪4-4-2 この試合、樋口監督は今シーズン初めて[4-4-2]でキックオフの笛を迎えた。最近は毎試合前に示唆していたことだが、ついにシステム変更に踏み切った。藤田祥史と伊藤翔が2トップを組み、2列目の右に中村、左に藤本淳吾を配した。ボランチは浦和レッズ戦に引き続き小椋祥平と三門雄太がコンビを組む。

しかし機能性はお世辞にも高いとは言えなかった。「中途半端だった」と小椋が振り返ったのは守備のスタート地点のことで、どの位置からプレッシャーをかけるのかが非常に曖昧だった。全体が連動しない中途半端なプレスをかわされ、カウンターを受けた場面も一度や二度ではない。ダブルボランチはそれぞれが個の判断でボールを追いかけ、実際に小椋は後半途中に足をつって交代した。それは個の頑張りを印象づけると同時に、組織的な守りができていない証左とも言える。

中村の途中交代について、樋口監督は以下のように明かした。

「中3日のトレーニングを見て、体がかなり重そうだった。まず頭から行って、行けるところまで行こうという話を本人ともしていた。前半見ていて、正直前半に代えるというのも頭にあった。かなり力を振り絞ってくれたが、いかんせん体が重かった」

それでも先発起用したのは、中村の存在価値と彼に対する信頼の表れだろう。最近は「連戦なのでコンディションがいい選手を使っていく」と名言しながらも、コンディションが悪いことを承知で起用したのはおおいなる矛盾だが、それでも外せない選手もいるということ。このタイミングで中村を外せば、ピッチ内外に大きな波紋を呼ぶのは間違いない。

実際のパフォーマンスも決して高いとは言えなかった。前述したように先制点の起点にはなったが、サイドMFでは守備のタスクをこなせない。あるときは最終ラインまで戻り、逆サイドにボールがあれば中央に絞り、サイドチェンジに対応して横ずれを行う。ボールを奪ってからは最前線まで飛び出す運動量が求められる。それを中村に求めるのは酷すぎる。

勝つには勝った。しかし、勝ったことでシステム継続が既定路線だろう。では、そのときに中村をどのように起用するのか。ハードワークを求めるならば兵藤慎剛をはじめてほかにも人材はいる。守備面に目をつむりながらも彼を起用していくとしたら、システムは機能せず、どこかで破綻する可能性が高い。

久々の勝利と引き換えに、チームと樋口監督はあまりにも大きな問題を抱えてしまった。

 

 

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