「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

試合後、天野純は自身のプレーそっちのけで背番号10について話し始めた [天皇杯3回戦ヴェルディ戦レビュー]

 

直近のアルビレックス新潟戦から6選手を入れ替えて天皇杯3回戦・東京V戦に臨んだ。そしてシステムは[4-2-3-1]を採用。復帰戦となった中村俊輔をトップ下に置き、中町公祐と天野純がボランチコンビを組む攻撃的な布陣である。「今日は自分たちがポゼッションしてゲームをコントロールしたいと思っていた」とエリク・モンバエルツ監督。相手との力関係を踏まえ、ボールポゼッションの時間を長くできると判断したのだろう。守備的なボランチをあえて起用せず、攻撃に比重を置いた采配だ。

 その狙いはある程度奏功したと言えるだろう。序盤からマリノスボールの時間が長くなり、タッチ数の少ないパスワークで攻め込む。齋藤学やマルティノスにボールが入ると彼らは独力で突破を試みたが、テンポ良いパス回しで相手のプレスをいなしていた。だからこそサイドで1対1を仕掛けることが可能となり、それがファウル獲得につながった。

中村の直接FKは圧巻だった。昨季までマリノスに在籍し、期限付き移籍でヴェルディの一員となった鈴木椋大はお手上げである。キック精度もさることながら、復帰戦でこれ以上ない結果を残すのがスター選手の所以だ。ゴールだけでなく、久しぶりの公式戦という事実を感じさせない運動量とゲームコントロールを披露した。

今季、マリノスはほとんどの選手が戦力となって公式戦をこなしてきた。その過程で着実に成長している選手もいる。ただし、期待に応えるような結果を残せていない場面も多い。さまざまな事情があるのは百も承知だが、この日の中村のプレーを見て、若手は何かを感じ取らなければいけない。

試合後、天野純は自身のプレーそっちのけで背番号10について話し始めた。

 

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「シュンさん(中村)はすごい。久しぶりの試合なのにいきなりFKを決めて、ショートコーナーからアシストもしている。自分はゴールに絡む仕事をするのに苦労しているけど、シュンさんは簡単にやってしまう(苦笑)」

 まさしくそのとおりである。誰もが認めるスター選手でさえ、自らの居場所を確保するための『結果』にこだわっている。少し乱暴な言い方をすると、結果で周りの雑音を黙らせているというわけだ。その集中力と勝負勘は簡単に真似できるものではないが、少なくとも意識することはできるはずだ。

普段ほとんどJリーグを目にする機会のない高知県のサッカーファンは、試合前から中村に声援を送っていた。そして試合後、その声援はさらに大きなものとなった。

 

 

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