「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中村俊輔「ファンタジスタの居場所」(2)

分岐点となったダービー

天皇杯・横浜FC戦。トップ下で先発したのは前日の紅白戦でアピールに成功した森谷でなく、俊輔だった。

「この3日間はトレーニングで身体がやや重い日もあった。今日の先発はどうかと思ったが、昨日はだいぶ軽快な動きになってきたので、彼を先発で起用した」(樋口監督)

先発が危ぶまれたダービーで、俊輔は獅子奮迅の活躍を見せる。今季公式戦で1本も決めていなかったFKからのゴールを2本決めたのみならず、サイドを全速力で駆け上がり、身体を張ったスライディングでボールを奪い返した。闘争心を全面に押し出したプレーは、「ダービーということも意識した」からだけでなかったはずだ。

試合後に俊輔について問われた樋口監督は、「前のポジション、トップに近い相手のボランチの近くでプレーできた。長い距離を走ってスペースに出て行く動きもしていた。アタッキングゾーンで仕事をすることに力を注いでくれたという点で評価したい」とコメントしている。

ここまで期待されながら体現できていなかったプレーを、ポジションを失いかけた危機的状況下で俊輔はやって見せた。以降のリーグ戦終盤と天皇杯は、良好な補完関係を見せる富澤・中町のボランチコンビと中盤を形成し、全盛期を思わせるプレーを続けている。

 

絶滅危惧種となったトップ下

俊輔は、今や世界的にも絶滅危惧種となったトップ下のファンタジスタだ。アタッキングサードで、フリーでゴール方向を向いて一瞬の時間的猶予を与えられれば卓越したスキルとアイデアで決定機を演出する。しかし現代サッカーの潮流はコレクティブ(集合的)で、個人が局面を打開するためのスペースと時間的余裕は減少の一途をたどる。

中盤とDFラインのコンパクトさは増し、どのクラブも相手ボールになった瞬間にバイタルエリアを圧縮して、殺傷能力の高いパサーが躍動するスペースを消しにかかる。現代的なトップ下は、よりFW的でフィジカルコンタクトに優れるか、一瞬の動きでマークを外して自らフィニッシュに絡むタイプが多い。

遠藤保仁や小笠原満男、ユヴェントスのアンドレア・ピルロのようにパスで攻撃のリズムを作り、変化をつけるプレーメーカーの多くは主戦場を2列目からボランチに移したが、俊輔は今も2列目中央でのプレーに強い拘りを持ち続ける。

 

ファンタジスタの居場所

俊輔のトップ下が機能し始めたのは、前述の中町・富澤との補完関係によるところが極めて大きい。中町は俊輔と絶妙な距離感を保ち、共に高い位置からのプレスに連動し、マイボール時は交互に前線に飛び出す

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