「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

【無料記事】藤井雅彦コラム『背番号10の進化』(2012/09/23)

マリノスの背番号10はまた一回り成長した

まず前提として、鹿島アントラーズ戦でのマルキーニョスが出色の出来を見せた。最近はボールが手元にきたときだけ全力を出しているように見えた。自分のテリトリーでは抜群の強さを発揮し、オフェンスでもゴール前の決定力はおそらくリーグ屈指だろう。その反面、ボールがないところでは良くも悪くもサボりがちであった。自慢の運動量や前線からのチェイシングは影を潜め、長髪をなびかせて相手ボールを追いかける姿はほとんど見られなかった。

それが古巣・鹿島戦はここ最近の内容とまったく違った。立ち上がりから必死の形相でボールを追いかけ、ルーズボールに身を投げ出し、相手選手とのコンタクトも厭わない。体幹の強さを生かしたフィジカルで相手選手を何度も吹き飛ばし、五分五分のボールをモノにした。「友人がたくさんいるから特別なゲームになる」と落ち着いた言い回しだった戦前とはうって変わって、激しいプレーでチームを攻守にけん引した。しかしながら前半終了間際に前述した五分五分のボールへの競り合いがラフプレーと判定されて一発退場を命じられてしまう。

樋口靖洋監督は小野裕二を1トップに置く[4-4-2]を選択する。マルキーニョス不在時に前線でボールキープできる選手は小野以外に見当たらない。サイドでも良さを発揮していたが、やはりセンターラインに置くべき選手だ。中央からサイドのスペースへランニングすることで相手DFは対応しづらくなり、小野はボールを受けてから前を向いて仕掛ける体勢を自分で整えた。競り合いでも持ち前の気の強さを発揮し、簡単に競り負けないことで相手ボールではなくルーズボールとなった。

極めつけは決勝点となったあのシーン。小林祐三からのスローインを受けた小野は背負った相手DF二人を巧みなボールタッチ&反転で同時にかわし、カバーに入ったDFをあざ笑うかのようにパスを出す。一度は相手にブロックされたが、こぼれ球を詰めたのは主将・中村俊輔だった。本人は「適当に突っ込んだ」と笑いのネタにしているが、数的不利の状況で小野がたった一人で相手の守備組織を追い込んだ。その後も運動量を落とすことなく、最後まで走り抜いた。スタミナの限界を超えても、足を止めないのは根性以外のなにものでもない。それこそが小野が有する最大の武器だ。

急造のディフェンスラインを指揮した富沢清太郎のパフォーマンスはすばらしかった。プロ初得点を決め、守備でも狙いどころを絞ったボール奪取など随所にらしさを発揮した熊谷アンドリューの活躍も見逃せない。しかしながら、鹿島に勝てた最大の要因は小野であろう。

レフェリーへの異議などモチベーションの矛先がずれることがしばしばあるが、彼はまだ19歳である。マルキーニョス不在を感じさせなかったプレーは驚異的でもあり、次の時代のマリノスを背負うのは小野しかいない。そう思わせるほど鹿島戦のパフォーマンスは圧倒的であった。

 

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