「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

スポットライトが当たるのは、もちろん齋藤学。もはやJリーグでは異次元の打開力 [第1節 浦和戦レビュー]

 

 

課題から目を逸らすのと次回以降に持ち越すのでは、意味が大きく異なる。浦和レッズ戦の場合は後者になるべきで、シーズンを通して解決すべき問題が山積していた。一つ挙げるならば、あれだけ自分たちの時間帯、つまりボール保持ができないのでは、やはり苦しい。対戦相手との力関係によるところが大きいとはいえ、そもそもポゼッションに傾注できるメンバー構成ではない。今後、地力の差でポゼッション率が上回る試合もあるはずだが、圧倒的な数字を叩き出す試合は少ないだろう。

 力量で上回る浦和に勝つためには、最適なサッカーだったと言える。ボランチの喜田拓也は「ボールを持たれる時間は長かったけど、僕のイメージでは穴を開けない守備をしたかった。2失点したけど、守備全体の内容は悪くなかったと思う」と振り返っている。そのわりに被決定的が多いのはおそらく別問題で、チーム組織としての守備は及第点以上の出来である。新加入の、特に外国籍選手を含むメンバー構成であれだけ対応できたのは、良い意味での驚きだった。

そして、この戦い方を完結させるには奪ってからのカウンターが欠かせない。そこでスポットライトが当たるのは、もちろん齋藤学だ。もはやJリーグでは異次元の打開力を誇り、高い確率で対面の相手を切り裂く。相変わらずフィニッシュ精度という問題を抱え、さらなるステップアップのためには精度向上が欠かせないが、一方で周りを使うプレーは明らかに意識と確実性が増している。

 

 

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ダビド・バブンスキーの先制ゴールと、それと同じ形で決定機を迎えた開始直後のワンプレー。そして決勝ゴールとなった前田直輝の得点。いずれも左サイドでボールを持ち運び、DF陣を複数人引きつけてからのゴール中央へのラストパスだった。同じパターンに何度も脅かされる浦和守備陣に厳しい声が飛ぶかもしれないが、同時に齋藤がいくつかの選択肢を持っていることも強調しておきたい。ドリブルは縦方向とカットインの両方が考えられ、シュートやパスというチョイスもできる。特にカットインからのシュートという形=恐怖があるからこそパスが生きるのだろう。いずれか片方だけになっていたら、同じシチュエーションからの決定機ばかり生まれない。

サッカーの性質としては、昨季途中からの方向性の継続路線を歩んでいる。一昨年、昨年、そして今年とシーズンを追うごとに指揮官好みのプレーヤーが増え、スタイルを体現しやすくなっている。失われた部分を気にしなければ、着実に成長していると言っていい。あとは、このサッカーでタイトルやACL出場権獲得できるかどうか。さらなるブラッシュアップは欠かせず、チームとしても個人としても成長する必要がある。

 そして、最も強調すべきこと。サッカーの内容と関係なく、新たなスタートを切る一歩目は勝利しなければならなかった。どんなに泥臭く不格好でも、勝つことが良薬となり、自信の源となる。試合終了から2時間以上が経過し、早くも次節以降の準備を始めた中澤がロッカールームから現れた。この日、39歳になった鉄人は報道陣からプレゼントされた誕生日ケーキとともに「新しいマリノスとしての一歩目で勝利を収めたことは大きい」とあらためて話す。

結果でしか評価できない因果な世界を、新生マリノスはこれからも突き進む。

 

 

 

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