「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

消化不良の90分。このまま埋もれていくか、反発力を見せるか。次節以降、マリノスは真価を問われていく [5節 C大阪戦レビュー]

 

コンディションに細心の注意を払って先発イレブンを選んだはずが、特に心配していなかった中町公祐が開始早々に左ふくらはぎを痛めた。自分からグラウンドに倒れ込み、すぐに×サインを出したことから、次の試合には戻ってこられるというレベルの負傷ではないだろう。個人としてもチームとしても痛い離脱になってしまった。

 開始10分で出番がやってきたのは喜田拓也。ウォーミングアップもままならない状態でピッチに立ったが、どこか不自然だった感は否めない。ボールがあまり足につかず、守備でも持ち前の出足の鋭さがなかった。心配された負傷明けのコンディションが問題ではなく、試合に出場するテンションを作り切れていなかったのかもしれない。責任感の強い喜田は決して言い訳しない。だが試合までの一連の流れを見ていて思うのは、彼はメンタル的に難しい状態だったということ。

月曜日に部分合流し、火曜日も負荷がかかるサーキットトレーニング以外のすべてのメニューをこなした。その日からレギュラー組で調整し、水曜日と木曜日はフルメニューを消化。しかし試合前日になって状況は一転する。コンディションが万全ではないと判断され、サブ組に回った。それでもチームのために懸命に振る舞ったが、心中穏やかのはずがない。誰よりも責任感が強い背番号5は、誰よりも負けず嫌いな性格だ。

 

 

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苦しい展開ながらも前半をスコアレスで折り返したが、エリク・モンバエルツ監督は後半開始早々にマルティノスに交代を命じている。この助っ人選手が試合に集中できていないのは前半から明らかで、不必要なエネルギーばかり使っていた。レフェリーの判定に理解できない場面は誰にでもあること。誤解を恐れず言えば、文句の一つを言いたい時だってあるだろう。とはいえ、それでプレーをやめてしまうなど愚の骨頂。交代を命じられてタッチラインまで歩いていた選手のピッチアウトは、当然以上の必然だ。

ピッチ内に話を戻す。1失点目はセットプレーのこぼれ球をダイレクトで叩き込まれた。得点者のマークを担当していたのは金井貢史だが、責任すべてを押し付けるわけにはいかない。「ボールに対してのカバーリングのポジションを取ったので、ずっとついているのは難しかった。シュートに対してはもう少しニアのコースを消していたつもりだった」という悔しさに唇を噛んだ。中澤佑二がヘディングクリアしたボールがそのまま後方に流れてくる可能性もあったがゆえのポジショニングで、シュートに対してもある程度はコースを消せていた。あと数十センチの差だった。

ビハインドになってからは3バックにシステム変更。しかしながら、その内容がどこか解せないものだった。「自分たちが点を取りに行くために、背後にスペースが生まれるのは当然のこと。システム変更は問題ではなかった」というミロシュ・デゲネクの言葉は的を射ており、リスク覚悟で最終ラインの枚数を減らすのが悪いわけではない。ただ、問題はそのリスクの内容であり、モンバエルツ監督が就任してからの公式戦で、守備面でこんな無防備な采配を見た記憶はあまりない。

金井に代えてウーゴ・ヴィエイラを投入し、2トップにした。問題はその後の配置で、喜田をワンボランチにして天野純とバブンスキーをトップ下に並べた。そしてサイドは左が齋藤学、右が前田直輝という布陣だ。相手が3バックの両脇を突いてくるのは当然で、特に左サイドを攻め込まれた場面では齋藤が戻らざるをえない。ミロシュ・デゲネク一人で守り切れるほど狭いエリアではなく、広大なスペースが生まれていた。結果として2失点目はこのエリアを突かれ、処理を誤った喜田がPKを与えてしまった。

 モンバエルツ監督は無防備な打ち合いは好まない。あくまでリスクを最小限に抑えた上でオフェンスに転じる監督だ。その結果、勝ち越せない試合もあるだろう。前節のアルビレックス新潟戦がそれに当てはまり、あの試合でもっとリスクを冒す采配だって考えられた。それをしなかったのは失点するリスクを常に考えているからで、この日の采配は守備面のリスクが大きすぎた。スクランブル状態ゆえの采配であり、トレーニングしていなかったことは大きな問題ではない。3バックにしても、攻撃の要となる齋藤を守備に奔走させてはまったく意味がない。

どこかチグハグしたまま、消化不良の90分を過ごした。これで2連勝後に3試合未勝利。このまま埋もれていくか、反発力を見せるか。次節以降、マリノスは真価を問われていく。

喜田のコメントで本稿を締めたい。ミックスゾーンでの彼の言葉は熱を帯びていた。途中からはこちらの質問とは関係なく、自然と強い口調になって矢継ぎ早に言葉を続けた。次世代リーダーの言葉を信じて、次の試合を迎えたい。

「ここが一つの踏ん張りどころだと思っているし、下を向いていても何も落ちていない。自分が与えたPKのところも、あのスペースが空いているのを感じてカバーリングしたけど、思ったよりもボールが伸びてああなってしまった。でも、何を言っても言い訳にしかならない。次の試合で絶対に取り返すことしか考えていない。それはオレ自身もチームとしてもそういう姿勢でやる。勝つのは大前提で、内容としてもしっかりしたものを見せたい。そのために次の一週間、死に物狂いでやりたい」

 

 

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