「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

明日へのきっかけをつかんだ齋藤。指揮官の思いが見え隠れする先発起用 [天皇杯3回戦 沼津戦レビュー]

 

相手は格下のJ3所属チームだった。試合展開としても、早い時間帯に先制することで優位は動かなかった。それでも、キャプテンにようやく初ゴールが生まれたことを素直に喜びたい。

 アシストすることを宣言していた前田直輝のパスに抜け出し、あっさりとDFとGKをかわす。あとは無人のゴールに流し込むだけ。それなのに、齋藤学はどこか慌ただしかった。これがシーズン初ゴールのハードルであり、難しさなのだろう。必要以上にボールタッチした後、ようやく静かにゴールネットを揺らした。

1点取れば、すぐに2点目が生まれるのはある意味で必然だ。ダビド・バブンスキーのパスから相手の最終ラインを突破し、今度は余裕のループシュートを選択。コースこそ甘かったが、結果的にゴールになれば問題ない。わずか数分の間に2ゴールを記録し、明日へのきっかけをつかんだ。

それこそが、齋藤の先発理由だったのだろう。相手が格下であろうと、初ゴールに変わりはない。中断期間に入る前にポジティブなきっかけをつかんでほしい。指揮官の思いが見え隠れする。試合前の時点では疲労確認だけ行われ、齋藤自身は「試合に出るのは当然」と返答した。

そして狙い通りの今季初ゴールである。「全然満足していない」という言葉に偽りはないだろうが、それにしても肩の荷が下りたことは間違いない。背番号10を背負い、キャプテンという重責を担う。自分のことだけを考えていればいい立場ではなくなった。その負担の大きさは想像を絶する。

試合後、齋藤は「自分のゴールよりも、このチームで勝てたことが大きい」と言った。あくまでチームの長としての言葉を貫いた。齋藤らしい。いろいろ背負い込み過ぎていたのは間違いない。しかし、である。背負うことで大きくなれることもある。

1月、チーム残留を決めたとき、齋藤はこんな話をしていた。

 

 

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「海外に行くことで成長できる。でも、マリノスを勝たせることでも成長できる。そのために自分に何ができるか」と。

 前半戦、齋藤は沈黙を貫いた。一方でチームのために走った。マルティノスが左サイドで輝きを放つと、自身のエゴを我慢して右サイドで献身的にプレーする。マルティノス不在のサンフレッチェ広島戦前には左サイドでのプレーを訴えた。しかし好気流に乗るチームを動かしたくないと考えるのは指揮官としては当然だ。それを呑み込み、齋藤は受け入れた。

初ゴールまでに時間がかかったのは、フォア・ザ・チームを率先して行った結果かもしれない。苦しい時間が長く続いたかもしれない。だが、すべては自身を成長させるために必要な時間だったのだろう。苦しめば苦しむほど、価値が増す。初ゴールに限った話ではない。

マリノスは4回戦進出と同時に、後半戦で勢いを増すための収穫を手にした。

 

 

 

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