「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ロッカールームに引き上げてきた選手たちに、少し厳しい言葉で鼓舞したのは普段は多くを語らない松永成立GKコーチだった [天皇杯4回戦 広島戦レビュー]

 

 

 

直近のリーグ柏戦(1△1)から先発を8選手入れ替えた。継続して先発したのはGK飯倉大樹、DFパク・ジョンス、MF齋藤学の3選手のみ。試合前日の練習で右ひざを痛めた松原健も問題なく先発に名を連ね、ミッドウィークの天皇杯4回戦・サンフレッチェ広島戦に臨んだ。

 チーム編成の都合により、ボランチとしてダビド・バブンスキーが起用された。この時点で守備面に不安を抱えるのは当然のこと。トップ下が本業のダビド・バブンスキーに守備面での仕事を多く求めるのは酷である。具体的に言えば、ボールに付いていくことはできても人やスペースをケアするのは難しい。危機察知能力は経験によって培われていくものである。この試合で喫した2点目はまさしく隙が出た格好で、ダビド・バブンスキーがケアすべきスペースを使われて失点した。

しかし広島戦で最もフォーカスすべきは後半45分間と延長戦の30分間のパフォーマンスだろう。きっかけはハーフタイムにあった。ロッカールームに引き上げてきた選手たちに対して、少し厳しい言葉で鼓舞したのは松永成立GKコーチだった。

 

 

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普段は多くを語らない職人気質だが、前半の低調なパフォーマンスを見かねて「このまま0-2で終わるのは絶対にやめよう」と檄を飛ばした。鼓舞は喝となり、刺激となった。

この出来事をうけて、最初に存在感を発揮したのはプロ2年目の遠藤渓太だ。最近のリーグ戦ではベンチ入りすら危うい状況で、目に見える結果がほしかった。得点こそならなかったが強い意志とともに前へ進み、相手のハンドを誘って貴重なPKを獲得。それをウーゴ・ヴィエイラが確実に決めて反撃の狼煙が上がった。

その後もマリノスは攻め続けた。ここで三ツ沢開催の利点が発揮される。ピッチ内とピッチ外、選手とサポーターが一体となり、それが大きなエネルギーに変わった。抽象的な表現になるが、雰囲気と言うしかない。88分、齋藤学の突破からウーゴ・ヴィエイラがダイレクトで右足を振り抜き、同点ゴールが生まれた。

この後半戦、そして延長に入ってからもピンチはいくつかあった。かなり危ない場面もあったが、GK飯倉大樹を中心になんとかしのいでいく。「とにかく2点以上与えないことでチャンスが来ると思っていた。2失点したけどチームとしてなんとか踏ん張ることができて、それが勝利につながったと思う」と話したのは喜田拓也だ。我慢と辛抱が、最後の歓喜につながる。

 延長戦の終わりとPK戦が見え始めた120分、劇的な形で決勝ゴールが生まれる。広島のクロスをキャッチした飯倉はすかさず前方右サイドのスペースへフィードを送る。懸命に走ってボールに追いついたウーゴ・ヴィエイラはエンドライン付近まで持ち込み、ゴール前の状況を確認。少し遅れて入ってきた富樫敬真を視線に捉えると、クロスを送ると見せかけてスライス回転をかけたシュートを選択。まるでサッカーアニメのようなファンタスティックなシュートが決まった。

メンバーを大幅に入れ替えた中で、リーグ戦で2試合勝ち切れなかったチームに白星がついた。120分間戦ったことによる消耗は避けられないが、それ以上にメンタル面に与えるポジティブな影響を喜びたい。この勝利で準々決勝進出を決めると同時に、中2日で迎えるヴァンフォーレ甲府戦にもプラスに働くはずだ。

 

 

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