「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

左足でのラストパス。その決断について天野は「後悔はない」と言い切る [あの時、あの瞬間…]

 

 

 

 今回から不定期でお伝えする『あの時、あの瞬間…』は、ピッチ上でのワンシーンを切り取り、掘り下げる新企画だ。第1回は大宮アルディージャ戦の後半アディショナルタイムに、天野純がゴール前でチャンスを迎えた場面。なぜ天野はシュートではなくパスを選択したのか。開幕から全試合先発を続けるレフティーの胸中に迫った。

 


 

 

あの瞬間、虚を突かれたのは筆者だけだろうか。日産スタジアムに足を運んだ20,670人のうち何人が、シュートではなくパスを想像しただろう。

後半アディショナルタイム2分を指した頃の出来事である。大宮アルディージャのクリアボールを相手陣内で拾った中町公祐が、途中出場のダビド・バブンスキーへパスをつなぐ。バブンスキーは相手を少し引きつけ、ノールック気味に絶妙なスルーパスを繰り出す。久しぶりの出場となったかわいい坊主頭は、スペースがある状況で最高のプレーを見せた。

ボールの先にいたのは、天野純だった。左足でのトラップがほぼパーフェクトに決まり、あとはいかにしてゴールネットを揺らすか。誰もが利き足での強烈なシュートを想像し、身を乗り出したのではないか。

天野の選択は、左足でのラストパスだった。菊地光将が仕掛けたスライディングの手前を通るパスを右へ。受け手となった富樫敬真は自らの動きにブレーキをかけるようにトラップしたが、ボールが足元に入り過ぎた。その後のシュートは懸命に戻った相手DFのブロックに弾かれてしまった。こうしてマリノスは勝ち越しゴールを決める最大のチャンスを逸した。

シュートを選択しなかった天野はプレッシャーに負けたのか? 誤解を恐れず言えば、責任転嫁とも取れるパスを選んだのか? ファンやサポーターは期待しているからこそ、失望が大きくなり、混沌とし、物議をかもす。結論が迷宮入りするのは、答えは本人にしか分からないからだ。

試合が終わり、天野は映像でこのシーンを繰り返し確認したという。「菊地選手がスライディングに来ていたので、ファーサイドを狙っていたら当たっていたと思う。狙うならニア上にズドンと決めるしかなかった」と鮮明に振り返った。確かに相手DFのスライディングのタイミングは微妙(素晴らしいとも言い換えられる)で、足先が間に合っていた可能性もある。

時計の針を巻き戻そう。天野はボールを受ける前は何を考えていたのか。

 

 

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