赤鯱新報

【名古屋を見つめる冷静な視点:増川新報】第1回前編:ACLからの流れ、そして鳥栖戦前半


Q:さて今回の本題である鳥栖戦について話を進めていきます。7月は実質、この試合がメインだったところもありますので。しかしここまで話したような前提があっての試合でした。

「そりゃキツいよね。鳥栖は試合間隔も空いていたし、その前にあまり勝てていなかったけど調整はしやすかったと思う。そのあたりも含めて相手の方がコンディションは良かったと思うけど、試合の入りはお互いに特徴が出ていて動きもあった。しっかり守備でやらせないというベースを持ちつつ、互いの特徴で攻めに出ていた。そこまでコンディションの影響は感じない立ち上がりだったかなと」

Q:しかし鳥栖が落ち込む形で序盤は進みました。その展開は予想できるものだったと思いますが。

「鳥栖がボールを握るのは想定内というか。名古屋がどのラインでプレッシャーを張っているかというところで、最初は受けているかなという印象もあった。両サイドが下がっていたことで攻撃で上がっていけなくて、決定的なシュートは少なかった。最初にビッグチャンス(8分の山﨑凌吾)はあったから、あそこで決めきれていればもっと楽になっていただろうし、あれを決められなかったことで受ける時間が長くなったかなという感じはする。鳥栖はボールの動かし方、散らし方がすごく上手いので、名古屋がプレッシャーをかけて集まっているところでも一本斜めのボールをドン、と入れてくる。しかもそれをワンタッチでやる。名古屋のダブルボランチが集まっているところと、サイドハーフがワイドめに下がるところ、このギャップにそういうボールを入れてくるんだよね。あそこに入れるとプレッシャーがかけられない。要はサイドバックが行くのか、サイドハーフが行くのか、はっきりしない場所にワンタッチで入れてくる。そこには守備はアプローチをかけにくい。前半で何度かそういう形はあって、松岡(大起)という選手が上手く中継してくる。あの子は良いね、上手い。そこのアングルを持って入ってきて、ワンタッチ。そこは約束事としてもあるのかなという気はしたけど。他にも仙頭(啓矢)や中野(嘉大)も顔を出してくるのは意図としてわかった。そういった名古屋のプレッシャーの外し方、ずらし方は上手かった。後半はどちらかというとそれをさせないように名古屋が前から行けていたから、失点したこともあったけど前がかりになって、そこに鳥栖はやりにくさを感じてロングボールも増えていた。あれは上手く制限がかけられ始めたんだと思う。前半はそれがあまりできていなかったということ」

Q:鳥栖と言えばビルドアップの中で密集地帯に強いパスを入れて、ワンタッチでスペースに落とすようなプレーも印象的に覚えています。

「あれをされるとDFは行けなくなるよね。DFはボールに行かなければいけないし、それを鳥栖はわかってやっている。あの感覚はどこのチームも持っていないものではないかな。上手いよね、ちゃんと考えられたプレーで、それが習慣化している。あのチームの強みだと思う」

Q:フロンターレなどのポゼッションとも違う感じがしますよね。

「フロンターレも上手いんだけど、何と言うか…」

Q:川崎は狭い、鳥栖は広い感じがしますね。ボール保持の範囲が。

「広いね。短い、狭いエリアでも入っていけるのが川崎で、スイッチの入れ方が上手い。鳥栖もそれは上手いけど、もう少しワイドでオープンな感じで、ピッチを俯瞰してどこでも狙えますよ、という感じでやっている」

Q:もう一つお聞きしたいのは、鳥栖のフォーメーションはどう見えていましたか。

「3バックだけど、オフェンスになると4バック。そして中野嘉は中に入って、両サイドバックが上がって真ん中はバランスを取る。3バックの右の島川(俊郎)はボランチもやっている選手だからちょっと前に上がってプレーする。そしてその後ろのエドゥアルドと合わせてしっかりボールを回しながら、樋口が前目、エドゥアルドが後ろ目で松岡のサポートをしながらボールを回す。前にはしっかり張れるFWがいる、という感じかな」

Q:取材中、どうにも4バックに見えて仕方なかったんですよね。

「うんうん。それはボールの出所に対して常にずれているからね」

Q:なるほど、スライドをし続けているから。

「サイドを変えた瞬間にはサイドバックがもうそこに出ていて、そのスライドがものすごく速かった。3バックの左の大畑歩夢は4バックの時はサイドバックをやっている選手だし、今は3バックで使われている。ファン ソッコがいた時は4バックの方が多かったんじゃないかな。そういう意味ではああいうタイプのセンターバックがもう1枚いなくて、島川のようなタイプしかいないから3バックになっているのかもしれないね」

Q:しかし押し込まれた名古屋ですが先制点は取るわけです。

「ちょっとラッキーもあったけど、あのサイドでのワンツーは前半に何度かあった。2回目か3回目かであの場面は破れたので、狙っていた形ではあったのかなと思う。あそこで崩してスピードアップしてショートカウンター。ラッキーだけど、あのしんどい時間帯に取れたのは大きかったと思う」

Q:守備の対応に追われていたサイドを崩したことも面白い事象でした。

「守備でしっかり下がらされていたからね。大畑という選手はすごく上がってくる選手で、3バックの一人なのに何ならDFラインの裏でも取ってくるぐらい。対応は大変だっただろうけど、一瞬の駆け引きでその裏を取れたのは大きかったし、そこまで行けば前田くんは速いし、上手い。ドリブルもあって、シュートまで持っていける。あの場面は何をするかな、と思って見ていたら、上手いところにボールが行った。オレはあの場面ならエドゥアルドの気持ちもわかるんだよね…。走ってきたその足先にボールが入ってきたこと、オレもあるんですよ(笑)。あれは動けない。偶然にしてもかわいそうで、気持ちはわかる。ちょうどそこに来ちゃうともう足は動かせない。しかも当たっちゃったらものすごく良いコースにボールが行ってしまう。仕方ない」

中編へ続く

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