赤鯱新報

【名古屋vs同志社大】プレビュー:天皇杯初戦に望むは勝利につながる個の躍動。難易度やや高めの対戦に、名古屋は地力を見せつける。

■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権2回戦
6月1日(水)名古屋vs同志社大(19:00KICK OFF/パロマ瑞穂ラ)
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あるいはこういった試合が、プロにとっては一番勝たなければいけない試合になるのかもしれない。名古屋にとっては過去、幾度となく苦杯をなめてきた天皇杯の初戦は、今季は大学生が相手という難易度の高い戦いとなった。個々の実力差を踏まえれば明らかに名古屋が上でも、格下カテゴリーとの戦いには様々な結果を左右する要素が満ち満ちている。「乗ると無限の力というかね」。昨季はFC東京で順天堂大学に敗れた長谷川健太監督は、瑞穂ラグビー場での前日練習を終えて苦笑した。

選手起用にはかなりの幅が出せる戦いだ。中2日でルヴァンカップの京都戦が待っている日程からすれば、相手が大学生ということも踏まえて総入れ替えの可能性は高いとも言える。参考としてはエリートリーグだろうか。その意味ではしっかりプロを並べてきた清水と、若手主体ながらトップチームそのままのスタイルをキープした横浜FMと、アカデミーや練習生との混成チームで戦ってきた名古屋の“セカンドチーム”で同志社大を迎え撃つのも面白い。GKにかんしてはランゲラック不在のいま、少しでも感覚を研ぎ澄ましたい武田洋平で決まりだろうが、フィールド10名の構成はルヴァンカップのグループステージ以上にターンオーバーの予感も高まってくる。

とはいえ「現状のベストメンバーで」と発言し、初戦敗退は避けたい指揮官の思惑からしても、試合展開を任せられる戦力は各ラインに置いておきたいもの。DFラインではチアゴ、中盤では阿部浩之や齋藤学、前線では金崎夢生らがその“軸”として起用されることが考えられ、その周囲に若手が散りばめられていくのではないか。吉田豊や宮原和也、河面旺成もコンディション面を考慮すると起用はグレーゾーンで、思いきった起用としては吉田晃に豊田晃大だけでなく、2種登録の宇水聖凌らも選択肢には入っているかもしれない。一方でリーグ戦でも出場機会をうかがう石田凌太郎や吉田温紀らにとっては格好のアピールの場であり、年齢では上の相手をやり込めるぐらいのプレーに期待もしたくなる。

長谷川監督は「自分たちのサッカーをしっかりやれるかどうかも非常に大事」と語ったが、普段使ったことのないピッチは状態すらつかめておらず、ナイトゲームにおいては照明の具合なども含めて相当に違和感のある試合はある種の割り切りも必要になってくる。同志社大の戦い方はリサーチ済みでも、「現状のカテゴリーでやっている戦い方をしてくるかは、ふたを開けてみないと分からない」と想定も慎重だ。守備的に戦い、逆襲でのジャイアントキリングを目論んでくるのか、力試しのように真っ向勝負を挑んでくるのか。いずれにしても名古屋が圧倒する展開もあれば、苦戦の展開もあり得るのが天皇杯の怖さであり、失うもののない大学生の方が実力を発揮しきる可能性は確かに高い。逆に自分たちの戦い方にこだわれば、名古屋の特徴は研究しきった相手に先手を取られることだってある。鹿屋体育大学との対戦ではそれを大いに感じるところがあり、チームはそうした負の歴史からも学びを今に生かす必要もあるだろう。

もちろん警戒のし過ぎはかえってプレーの萎縮を招き、実力の発揮を妨げる。昨今の大学サッカーのレベルは相当に上がってきているが、その上に位置すると評価されているから彼らはプロでのプレーができている。この局面において技術、スピード、パワーで上回る場面はそれでも多いだろうし、個の力で圧倒してしまう試合展開も往々にしてこうした対戦の結果には出てくるものだ。例えばチアゴのセットプレーは学生に止められるレベルにはなく、阿部のスキルと視野は相手の逆を突き続けるはず。その点ではチームがスタイルを統一し、個の力を最大限に生かして戦う内容にしていけるかは重要で、個とチームのバランスをどちらのベクトルから保っていくかは注目したいところではある。個を活かすチームと、チームを活かす個、その回転がピッチに見られれば、大学生恐れるに足らずである。

指揮官の懸念は一点のみで、「『やれる』という感覚をつかんだ瞬間に、Jリーグを相手にするより難しい相手に変わってしまう」という部分。得点はその最たるものだろうし、一つのドリブル、一つの空中戦、一つの連係の成功が学生の挑戦心を自信に変え、自信はプレーレベルの限界点を時に引き上げる。プロはその点でまず相手の挑戦心をくじき、プレーで格の違いを感じさせることが必要で、要らぬ勢いを出させないためにも早めに勝負をつけてしまうのが有効だ。無得点の時間が長引けば長引くほど、焦るのはプロで落ち着くのが格下である。最低限、開始から強引にでも攻め続け、ゴールを脅かしながら試合を進めていかなければ、違うカテゴリーとの戦いは時間経過とともに難易度を増していく。そして膠着したままゴールレスが続き、最後に1点取って勝つのもままあることだが、取られることもあるからこうしたトーナメントは恐ろしい。

しかしこうして怖い怖いとばかり考えてしまうのは、名古屋が過去にそれだけ痛い目に遭ってきたからか。単純に考えれば出場機会のあまりない選手たちにもチャンスがあり、ゴールショーの予感だってしていい対戦カードである。金崎や阿部、齋藤あたりには今後のシーズンにつながる得点を、チアゴや内田らにはよりプレーをチームに馴染ませる機会として、そして若者たちには今季見せられていない躍動する姿を期待したい。リーグ戦での主力以外には、自分たちの現在地を示すのがこのタイミングでのこの試合であり、まずは自分が何をできる選手なのかを誇示してほしい。目の前の選手との争いを制し、チームの勝利に何かの形で関与する。少しぐらいチームの“作法”が守れなくても、試合が優位に進めば認められるはずだ。連戦の中ではそれもまたチームへの貢献となり、次の試合に対する戦力拡充の手応えとなる。個の発露とチームの勝利。過程にはある程度目をつぶることで、多くを得られる試合である。そう思って臨めば、楽しみでもあるし、意義の大きな戦いが目の前には広がっている。

reported by 今井雄一朗

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