赤鯱新報

【名古屋vs同志社大】レビュー: しかるべきメンバーでしかるべき結果を手にしたラグビー場の夜。大学生との真っ向勝負に名古屋は格を見せつけた。

■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権2回戦
6月1日(水)名古屋 2-0 同志社大(19:00KICK OFF/パロマ瑞穂ラ/3,909人)
得点者:46’阿部浩之(名古屋)88’マテウスカストロ(名古屋)
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相手に良さを出させながらもしっかりしのぎ、きっちり得点を奪って勝ちきる。こうしてまとめれば大学生を相手に“横綱相撲”を取りきった感もこの一戦の印象にはなる。何もさせずに完封するのも上位カテゴリーの戦いぶりではあるが、やり合った上で結果的には勝利を得ているというのもしたたかでいて頼もしい。同志社大は良いチームで、良いチャレンジャーだった。だが、名古屋はそれ以上にJ1リーグの格を見せつけた。

長谷川健太監督が「現状のベストメンバー」として瑞穂ラグビー場のピッチに送り込んできたのは、非常に興味深い11人だった。予想できた部分と、意外な部分が入り混じる。DFラインはチアゴ、吉田晃に加えて丸山祐市をチョイス。疲労度と中2日でのルヴァンカップを考慮すれば中谷進之介や藤井陽也との組み合わせの方が合理的にも思えたが、これがプロ入り初の公式戦出場となる吉田晃とのプレーは丸山がエリートリーグの清水戦で経験済みであり、左右のバランスを考えても丸山はなるほど適任と言えた。中盤は吉田温紀をアンカーに、仙頭啓矢と内田宅哉を並べる構成とし、左右のウイングバックには齋藤学と石田凌太郎、ツートップには阿部浩之と、キャプテンマークを巻いた金崎夢生が並んだ。各ライン、各セクションにベテランを入れ込み安定させつつ、若手や出場機会の少ない選手にチャンスを与える布陣だ。

同志社大は4-4-2のベーシックな布陣で、攻守の切り替えに重きを置いて名古屋に真っ向勝負を挑んできた。狙いは名古屋のアンカー脇と、3バックの外のスペース。左サイドバックの小池晴大のオーバーラップは鋭く、サイドハーフの國府田駿や鹿取勇斗がやや絞ったポジショニングでその走るレーンを空ける。ボランチ2枚は堅実かつ縦への視野が広く選択も速い。そして高い技術で前線に起点を作る岩岸崇志と、機動力のある長坂大陸がゴール前での勝負を挑む。総じて守備に切り替わった時の戻りのスピードが優れていて、名古屋の速攻はことごとく囲まれた。守りに入ることなく前に出続けて試合を進めようとするその意志は、清々しくもダイナミックに名古屋の選手たちを苦しめたと言っていい。

久々の瑞穂ラグビー場のピッチはそこそこに荒れていた。普段からラグビーで使われていることを物語る芝の凹凸は、前日練習は雨が降っていたが、当日は晴れでしかも水を撒いていなかったらしく、乾いていたことでもボールコントロールを難しくもしたようだ。名古屋の攻撃は前半に特に縦一発の展開が多く、それは強引にでも先制点を奪ってしまおうという目論見にも見えたが、それよりはピッチコンディションをある意味で利したシンプルな攻撃だったようだ。武田洋平は「後ろの選手はやりにくかった」とリスク管理の面を挙げ、「つないで引っかかるのも怖かった」と石田も同意した。阿部も「ああいうプレーの選択は間違っていない」としながらそれでも内容はもっと上げられたと志高く、よく言えばダイナミック、悪く言えば互いに“行ってこい”のサッカーが前半の戦いを支配したことに納得はしない。

名古屋は果敢でもあった。布陣のミスマッチは通常のメンバーであればDFラインのスライドを細かくサイドの攻防に対応するところ、高度な連係は望めないスカッドにはひたすらシンプルさを監督は求めている。攻撃になればウイングバックは駆け上がれ、そして守備に戻ってこい。戻ってくるまでの間や、戻ってこれない場合のサイドは3バックのサイドが張り出す約束事で、だからこそ同志社大はサイド攻撃にアドバンテージを握れたところもあった。明らかに人数が足りていないサイドのディフェンスには、吉田晃も「けっこうきつかった。何とか乗りきった」と苦笑している。アンカーの吉田温はまだその点ではポジショニングに難があり、ディフェンスが後手に回ることもままあった。丸山のコーチングおよび気づかせるような声掛けは鳴りやまず、阿部も「難しいことはしなくていい」と中盤に声をかけていた。ただでさえチームとしての自動的な判断に乏しい11人の組み合わせだけに、やりながらという部分にも相当のストレスがあったはずだ。その不具合を突かれた14分、17分、そして37分の決定機のどれかを仕留められていたならば、追いつめられるのは名古屋という試合になっていたかもしれなかった。

それでも武田の好判断や相手のミスにも助けられ、前半を0-0で折り返せたことで名古屋は落ち着いた。吉田晃のパフォーマンスが時間とともに安定し、彼の持つアグレッシブさが出てきたことも、チームのマネジメントを助けた部分はある。ハーフタイムでおそらくは予定通りの交代として、長谷川監督は丸山を下げて藤井陽也を投入。同志社大の戦術への対応として仙頭をボランチに下げて中盤の底を2枚とし、内田を外に、石田と阿部をシャドーに並べてピッチ中央に安定をもたらしている。この交代がもし吉田晃に代えて藤井という判断にせざるを得なかった場合、チームは週末のコンディション調整にひとつ問題を抱えていたところだった。「晃がしっかりプレーしてくれたということは大きかった」。評価としてはまだまだ高くはないが、チームのマネジメントを回したという点で、彼はしっかり戦力としての信頼をつかんでもいる。相手のエースに力強く対処したチアゴもケガ含みだったというが、持ち前の身体の強さにおいて大学生との格の違いを見せてくれたのもまた、良い傾向だ。

そして後半開始早々に勝負はついた。手元のストップウォッチは28秒だったと思う。高い位置で奪ったボールを阿部が金崎に預け、ポストプレーから左の齋藤に展開、鋭い折り返しに飛び込んだ阿部が、ダイレクトで美しく突き刺した。こういう形が本当に上手い、と尋ねると「まあね」と稀代のシューターは不敵に笑う。ルヴァンカップの徳島戦の得点もそうだったが、簡単に見えて相当に難しい合わせ方である。「ああいうのが得意で、来た時にしっかり決められるようになってきた」とは何とも期待させるコメントで、受け手として、スコアラーとしての意欲を見せていた今季の取り組みが、ついにアジャストしてきたことも感じさせる。前半最初のチャンスを外した吉田晃と、さらに速いタイミングでの決定機を逃さなかった阿部という対比を見ても、クオリティとはこういうことかと感心させられる決勝点だった。

スコアが動いても同志社大の動きは変わらず、むしろアグレッシブさを増すようなところすらあったが、リードを奪ってしまえばプロの思うつぼである。1点のアドバンテージを維持するのは、そこから得点を狙わなければいけなかった無得点の状態よりも、無理をしなくていい先制後の方が楽に決まっている。同じ“いなす”プレーにしても、いなし続けてもいい先制後と、前につながなくては要らぬリスクを背負いかねない同点の状態とでは心境に雲泥の差が出るものだ。長谷川監督はそこにレオ シルバと酒井宣福を加えて闘いをさらに堅固なものとし、彼らはともに強靭なフィジカルと余裕のあるボールタッチで同志社大の選手たちを組み伏せた。時に速攻の形で抜け出されそうになっても藤井がスピード豊かにピンチの芽を摘み、前線では送られてくるボールやクリアに対し、金崎が身体を張って無理やりにでも懐に収める。落下点に必ずと言っていいほどいてくれる背番号44は仲間たちにとっては大きな助けにもなっただろう。フリーならばしっかり処理してつながれるところ、金崎が競ってくれるおかげで守備陣形を整える時間はわずかながらでも生み出せた。そして収めれば攻撃が始まり、時計の針を進めるプレーに切り替えることもできる。前でタメが作れることのありがたみを、金崎は改めてチームに示したと思う。

試合はそのまま名古屋が主導権を握ったまま1-0で推移し、ダメ押しとして投入されたマテウスがスーパーゴールで追加点。金崎のキープからレオがつなぎ、左サイドでボールを受けたマテウスは、それまで縦への突破を繰り返してきた伏線を活かし、相手GKがクロスへ意識を持っていったのを見逃さずにタッチライン際から逆サイドネットにシュートを叩き込んでみせたのだった。前で何とか弾こうとする同志社ディフェンス陣のベクトルを逆手に取った技巧派かつトリッキー、何より極めてパワフルなゴラッソによって試合は強烈に決定づけられ、5分間のアディショナルタイムは何事もなく消化されていった。さながら意表をついてコーナーキックを直接狙うがごとく、打つぞという“気”をまったく感じさせないシュートは、サイドでマテウスが仕事をするメリットをこの上なく思い出させてくれるものでもあった。ドリブルで縦に突破する背番号10は、本当に水を得た魚のようだった。

長谷川監督、そして阿部がさらっと振り返ったように、天皇杯の初戦は勝つことが必要十分の条件であり、内容についてはストイックに求めることもできれば、それほど重要視しない場合も時にある。突破すればオーケーだ。単純な試合内容よりも、重視すべきは吉田晃や石田らスタメンが初の選手たちの立ち居振る舞いや、試合中の判断の質だろう。吉田晃は「最終的には自分の判断でやっていた」と芯の強さを見せつつも、気を利かせる局面やポジショニングの正確性などにおいてはやるべきことがまだまだ多い。縦パスにかなり高い位置まで食いつける瞬発力や球際の迫力は誇示できても、その際のコントロールミスもつなぎにおける判断ミスも多く、それはリーグ戦の相手に対しては大きなミスにも発展しかねない。「監督から与えられたタスクをやりきれたかといえば、そうではない」と答えたのは石田で、複数ポジションを試合中にこなした点ではアピールできても、攻撃にかかわる任務を完遂できたかといえばパーセンテージはやはり低い。だが、それらを確かめつつ初戦突破を決められた事実は大きい。その一端を担ったのが若手たちであり、ベテランも妙味で応えた結果であることもそうだ。

無難に、と言えば一言で済む。ただそれがどれだけ難しいかは他会場の結果を見れば一目瞭然である。勝つだろうと思われた試合に、然るべき戦力で当然のごとく勝つ。その地力の示し方ができるならば、週末そして翌週への良い準備を進められたという意味でも、この勝利の価値は上がる。

reported by 今井雄一朗

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