赤鯱新報

【名古屋vs金沢】プレビュー:5年ぶりの金沢遠征に、名古屋は油断大敵の思いも強く。週末につながる勝利を、全体としてもぎ取れるか。

■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権3回戦
6月22日(水)名古屋vs金沢(19:00KICK OFF/石川西部)
———–

自信と過信は紙一重、ということか。6月前半の好調そのままに勇躍さいたまへと乗り込んだ名古屋は、3失点、無得点の完敗を喫した。長谷川健太監督の言うように、チームづくりの上での試合内容としては評価すべき点もあり、悲観するのは失点の仕方であって内容すべてが悪くはないという分析も納得はいく。しかし結果は結果で重視すべきところもあり、その捉え方の見地の違いはしっかり分けた上での理解が必要だ。負けて悔しくないチームはなく、しかし冷静にならなければ次の一歩を見誤る。見つめるべきは次の試合で、天皇杯で金沢へと乗り込む選手たちが、どんな試合をつくろうとしているのかにフォーカスしたい。

ターンオーバーは必至だ。埼玉遠征を経ての中3日で、金沢へは「バス移動5時間」(長谷川監督)という長旅である。負傷者はもとより、コンディション調整に難がある選手は週末へと視線を向けさせ、おそらくは2回戦に近いメンバーで金沢との戦いには挑むことにはなるのだろう。J2の金沢を侮ることは危険でも、チーム事情はなかなかに厳しい。負傷者は多く、11人全員のターンオーバーもままならない状態だ。負傷が明言されているのは長澤和輝、宮原和也、吉田豊、河面旺成、甲田英將の5名。前回の練習試合の様子を見るに、河面はいまだリハビリ中で、渋谷飛翔もテーピングをしながら別メニュー調整をしており、昨今のベンチ入りが東ジョンの理由もそこが一因。吉田豊と宮原の回復具合は不明だが、無理をさせられない状況だから浦和戦のベンチにもいなかったと見るのが妥当である。起用されたとして、状態が良いとは言えない。

つまり、選手は入れ替えられても半数ほど。相手が金沢ということを踏まえれば、参考とすべきは天皇杯の同志社大戦よりもルヴァンカップの徳島戦で、この時のスタメンから吉田豊、宮原、甲田の代わりに誰が起用されるかといったところ。3バックは吉田晃の評価次第で丸山祐市や中谷進之介の使い方も変化する。ウイングバックは内田宅哉と石田凌太郎も交えつつ、中盤では吉田温紀や豊田晃大が追試に挑むことになるか。状況によっては2種登録の宇水聖凌にも前回以上の出番が用意されるかもしれない。指揮官が選手層の薄さを公言する状況は彼らにとって絶好のアピールの場であり、空回りするぐらいの意気込みで取り組むぐらいでちょうどいい。J2のチームは対戦相手の分析も細かく、極端な対策を敷いてくることもしばしば。メンバーの入れ替えはその点では奇襲にもなり、未知数の名古屋に対して戸惑うのであれば、なおのこと畳みかけるべきだ。

ただし、選手を入れ替えたチームはその分だけ、連係面に難を抱えることにはなる。チームとしてのスキルや決め事、やり方は統一されたものがあっても、こと攻撃においては現状のチームはサイドごとの数名による息の合わせ方が崩しの質に直結している傾向も強い。右は森下龍矢に稲垣祥、マテウス、中谷らが絡むセットの連係が、左は丸山と仙頭啓矢、相馬のつくる道筋がある。各選手の特徴も加味した上でのこれらの連係は、選手を入れ替えて再現できるかと言えばまだそこは疑問符がつき、そうなるとパターンとしての崩しにその場でどこまでアレンジを入れられるかが勝負になる。練習で組み合わせてはいても、本気でボールを奪いに来る、ゴールを守ってくる対戦相手を前にして、威力のある仕掛けを組み出せるかは不確定要素が多い。一つの仕掛け、誰かの動きにどれだけIQ高くチームが反応していけるか。適応するのはひとり、ふたりでは足りず、一人ひとりのクオリティが試されるところも強い試合にもなるだろう。

逆に期待したいのは、だからこその個の発揮である。例えば先の徳島戦では、相手の3トップに対し、3バックがそのままマッチアップして抑え込んでしまうという荒業が見られた。通常であれば一つ前の列から加勢が必要な対処に、最終ラインが個でもってグループ戦力を誇示したことで、試合をかなり優位に動かす要因にもなった。対峙してみないことには金沢の戦力はわからないが、攻守両面の個の部分でアドバンテージを稼げるのならば、グループ戦術の不足も補える。徳島よりも手堅く、強度も高い可能性がある相手でも、浦和戦から得た教訓が名古屋をより強く、したたかに戦わせるはずである。自分たちの理想の追求と、妥協しなければいけない戦いを選ぶその境界線は、今のチームの眼にはくっきりと映る。監督も選手も、この試合に向けて口を揃えたのが「明確にはっきりとしたプレーをしてリズムをつくっていかないといけない」(武田洋平)ということだ。曖昧さはプレーの質を奪い、質が下がれば勝算もこぼれ落ちていく。特にこうしたトーナメントの戦いでは、勝機を逃すと取り返しがつかない。よりソリッドに、見極めもシンプルに、90分間を仕留めに行くことが重要だ。

ふたを開けてみれば、という快勝も、想像以上に、という惨敗も等しくあり得る戦いと見る。その要因には間違いなく、今チームが強く感じている“油断”や“慢心”の有無が影響する。浦和戦の前、指揮官が評価していたように、名古屋はしっかり闘えるチームには確実に育っている。すべてが上手くいかなくとも、「受け止めながら自分たちの時間にもっていく」ことだってできるようになってきていた。重要なのはそれがどの程度で、「できる」と思えているか。「できるでしょ」では足をすくわれ、「やってみせる」と思えば試合運びには粘りも強みも果敢さも出てくる。成功体験はのちの自信になるが、やれたはずなのに、という後悔になっては意味が真逆になる。いくばくかの過信が呼んだ完敗のあとだけに、名古屋はより引き締まった戦いをすべき時だ。大会は違っても、対戦相手のカテゴリーが違っても、自分たちが進むべき道を進む。その作業が正しく行なわれさえすれば、望む結果は得られるはずである。

reported by 今井雄一朗

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ