赤鯱新報

【再掲載】【2016シーズン全選手レビュー】永井謙佑:俊足を浪費し続けたシーズン。来季はFWとしての勝負を求めて新天地へ。

※こちらは2016シーズンに掲載した記事となります。


11 永井謙佑
1stステージ16試合出場(1360分)・3得点
2ndステージ15試合出場(1336分)・4得点
ナビスコカップ予選リーグ3試合出場(182分)

全力疾走できた試合がいくつあっただろうか。J最速のアタッカーは常に足かせをはめられたような状態で1シーズンを戦い抜いたが、周囲も自分も納得のいかない不本意な結果に終わった。

今季の永井謙佑は、ピッチ上で相対する対戦相手との闘いだけでなく、戦術と負傷という別の相手との闘いも強いられていた。小倉隆史元監督の戦術におけるサイドハーフの役割はかなりのアップダウンと自陣での守備を求められるものであり、右の古林将太は元来がウイングバックやサイドバックの選手であったためにフィジカル的な素養も含めて役割を全うすることができた。しかし永井はサイドハーフとしての型はできていても、元来がFWの選手である。後方の安田理大や高橋諒が「攻撃に専念させたい」という意識で連係を取っていたとしても、やはり守備はこなさなければいけない。しかし最終ラインに近い位置まで戻っての守備を、こと永井にさせるのはナンセンスでもあった。永井は1試合平均で30回前後のスプリントを今季記録していたが、そのほとんどが守備か、守備から攻撃への切り替えのスプリントだったように思える。DFライン裏を陥れるようなダッシュやカウンターに走る永井のイメージは、例年に比べても少ない。ショートカウンター主体で戦っていた序盤戦はまだ良かったが、ポゼッションに傾倒してしまった4月以降の戦いでは、永井の足は浪費されていた。

負傷も彼を悩ませた。5月の鹿島戦で柴崎岳に受けた悪質なファウルで永井は右足首を痛め、捻挫と重度の打撲を受傷。捻挫は比較的早くに治ったのだが、打撲の方が厄介なものだった。打撲の内容はのちに骨挫傷と明かされるわけだが、この治療にはシーズンを費やすことになる。2ndステージ開幕戦の大宮戦では走りに普段のキレがなく、切り返しにもまったく鋭さがない。聞けば「足首が動かないんですよ」と言う。ターンができなかった理由はこれだった。この後、永井の右足首の状態は一進一退を繰り返し、ハットトリックを達成した10月の福岡戦頃になってようやく上向いたほど。しかし永井は負傷のリリースを一切出さず、治しながら戦う道を選び、必死の治療とケア、そしてトレーニングに励み続けた。

もちろん、出るからにはやらなければいけないのが選手の責務だ。負傷を隠している以上、そこでは普段通りのパフォーマンスを求める必要がある。今季の永井は素晴らしいアシストやゴールもあった反面、決定機のミスもまた多かった。「オレが決めていれば…」と試合後にうなだれた回数は一度や二度ではない。サイドからストライカー並みの得点への関わり方を求めるのは酷かもしれないが、その状況でも二桁得点、昨季は二桁近いアシストも同時に決めてきたのだから評価は及第点以下だ。福岡戦でのハットトリックがなければシーズン4得点であり、これは永井という選手に求められる活躍の期待値には遠く及ばないこともまた真実である。

それだけに負傷をじっくりと癒して臨む来季には爆発を期待していたのだが、既に決定的と報じられている通りに移籍は確実。あとは正式発表を待つのみという状況だ。契約交渉の場でのやり取りは明らかにしないが、半年の契約延長オファーという提示に何を感じるかは人それぞれ。ただそれ以上に、永井は新天地からのオファーについて、「FWでやりたい。それができるチームでやりたい」という部分に魅力を感じていた。サイドハーフではなく、点取り屋としてもう一度勝負したい。J8クラブからのオファーの中から「ものすごく魅力的だった」と選んだ愛着ある名古屋を離れ、スピードスターは再起をかけた戦いに挑む。

reported by 今井雄一朗

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