赤鯱新報

【名古屋vsC大阪】プレビュー:逆境だからこそ輝く勝利へのモチベーション。勇猛果敢に、しぶとく戦う名古屋が見たい。

■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権ラウンド16
7月13日(水)名古屋vsC大阪(18:30KICK OFF/ヨドコウ)
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我慢と忍耐、しぶとく勝機をうかがうゲームは必至と覚悟している。前週に新型コロナウイルス感染症の罹患者3名を出し、スタッフも2名が陽性判定、さらには家族に陽性が出て濃厚接触者となった選手もこのタイミングで出た。台所事情の厳しさは会見に臨んだ長谷川健太監督の表情を見れば明らかで、2種登録を含めて遠征メンバー18名を組むとも明言された。「必然的に守備に重きを、粘り強く戦う試合になる」。チーム一丸という言葉を心の底から念頭に置き、絶好調と呼べる相手のホームスタジアムに名古屋は乗り込む。

土曜日にリーグ戦を控えるスケジュールの中では、天皇杯という重要なタイトルがかかった一戦とはいえ、本来ならばある程度のターンオーバーをしつつ戦力を保ちたいのが本音であるはず。しかし折からの負傷者続出によってただでさえ選手層が薄まっている中、今回はチアゴも契約上の理由で出場ができない。「カツカツです」と指揮官が苦笑いするしかない現状では、水曜の清水戦に増して18名の構成は“致し方のない”ものになるのは覚悟しておく部分か。DFラインには藤井陽也が戻ってくるが、過密日程の中では3バックの負荷もコントロールしたいところ。ようやく本格デビューとなった河面旺成はそのまま3バックに残し、藤井、そして吉田晃も使って挑む可能性もあるのではないか。あるいはウイングバックの補填を思えば、河面をそこにスライド起用することも十分にあり得る話だ。

これが2回戦や3回戦のカテゴリー違いの相手との戦いならば、さらに思いきった起用にも踏み切れるところだが、C大阪は同じカテゴリーどころかここ数試合で好結果を連発する強敵である。7月に入ってのリーグ戦は川崎に勝ち、鹿島と3-3の打ち合いを演じ、直近の横浜FMでもギリギリまでリードしての引き分けに終えている。勝点3を奪いきれなかった点では守備に難を抱えているとも言えるが、リーグ上位3チームに対し2得点、3得点、2得点と複数得点を奪っている攻撃力は特筆すべき状態で、FWの選手に満遍なく得点が生まれているのも好材料の一つ。奇しくも永井謙佑加入の質問のなかで、長谷川監督は「やっぱりFWが点を取らないと盛り上がらない。チームの勢いが出ない」と語っていたが、C大阪はまさに勢いが出ているのだろう。過密日程の中で週末に大阪ダービーを控えるというのは相手にとってもターンオーバーする理由にはなるが、前線が入れ替わっても得点が取れることを証明しているだけに、名古屋にとっての安心材料にはなり得ない。

まずは守備、というのは普段以上に名古屋の命題となり、かつ“防衛ライン”をどこに据えるかも結果を左右する要素となってくる。通常であればまずは前から奪いに行き、相手との力関係を見極めながら守りの落としどころを決めていくが、多少なりとも選手を入れ替え、さらにそれが出場機会の少ない若手を含めるのであれば、安全第一に試合を進めるのは必然。耐える試合にするのは逆にリスクを増す可能性もあるが、インテンシティの高い試合に付き合い過ぎても週末への影響が大きすぎる。できるだけの高さを保った守備ブロックで相手の攻撃を寄せ付けず、奪ったボールを大事にしながらサイドを崩して決定機に至る。ある意味では平板で、ともすれば少ないチャンスの決定力に懸ける戦いに、普段以上の集中力を傾けることにはなりそうだが、カップ戦やトーナメントならではの勝ち方もこの試合には存在し、やはり粘り強さをキーワードに見通すのが必定か。

新加入選手のほとんどが天皇杯では起用できないことを考えれば、今回のメンバーでいかにして戦うかは今回限りのものではなく、その意味でも戦い方の構築は重要だ。守りにフォーカスする試合ならば、カウンターの速さや正確性にはなおのこと注力する必要があり、増やせているゴール前のプレーに対して貪欲さを求めたい。もちろんそこには中盤の加勢も期待したい一方で、FWの奮起にはもっと期待をしておかねばとは思う。この間、2名のFWを補強したことで、指揮官は「やっと正常な競争ができる」と断言した。それは柿谷曜一朗や石田凌太郎にとってこの上なく強烈なメッセージで、彼らにはひとつ男気を見せてもらいたいもの。柿谷は「言われる前に活躍しないと」と自覚も強く、石田には長谷川監督からの金言も授けられている。改めて新加入FWたちには貪欲さがその特徴として備わっていることを考えても、ここで得点への執着心を見せられるかどうかに生き残りのカギはある。味方を助けて勝つのも大切だが、FWは自分の力で勝たせることができる職業ということを忘れてはいけない。

長谷川監督の試合のとらえ方を聞くと、勝負がいかに紙一重で、どちらにも転びやすいものだということが感じられてくる。守備力が高く、またそれが攻撃との連動性も強く、多くの得点を挙げられるチームはあるが、それがリーグの大多数を占めるわけではない。とても良い試合があれば、どうにもならない試合もあるというのが普通で、そのアベレージを上げていくのがチームづくりというものだ。残念ながら名古屋はそのアベレージにおいてまだまだ振り幅が大きく、内容と結果が両立する割合は低い。だが、負けたからすべてが悪いというわけでもなく、清水戦においてもチームつくりという観点ではフラットに評価できたと監督も言う。得点は難しい作業で、失点には仕方のないものもある。そのアンバランスさを受け入れた上で、戦いのクオリティを上げていくのが肝要だ。そして今回の天皇杯は様々な理由によって苦戦を前提して勝利を目指すようなところがある。それを厳しいとするばかりになるか、意欲的なチャレンジとできるかだけでも、試合の見た目は変わっていく。「せっかくのベスト16だ。勝つためにしっかり準備して、勝って帰ってこよう」。開き直ってもいい、むしろそのくらいでちょうどいい。“当たって砕けろ”では困るが、まずは当たってほしいのも確かだ。たとえ守る時間が長くとも、勝つために戦う姿が見たい。それを見せられるメンバーであることは、逆境だからこそ感じられそうな気がしている。

reported by 今井雄一朗

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