柳下毅一郎の皆殺しの天使 〜皆殺し映画通信 天国編〜

『ジョーカー』  ”Why so serious?” それでいいわけ、本当に?

公式サイトより

『皆殺し映画通信』新年会のお知らせ

 

ジョーカー

監督 トッド・フィリップス
出演 ホアキン・フェニックス

 

“Why so serious?”と思ったのである。見終わって、まず最初に。

もちろん、そう言ったのはジョーカー(ヒース・レジャー)である。『ダークナイト』でのことだ。

知ってのとおり(だと思うが)ぼくはあの映画のことはそれほど高く評価しているわけではない。ヒース・レジャーが良かっただけだろ、とあちこちですでに語っている。それでも思わずそのセリフを思い出してしまうくらいにはうんざり、というか疲れてしまったのだ。いくらなんでもちょっぴりクソ真面目すぎませんか、と。

それに関してはThe Wrapに載った監督トッド・フィリップスのインタビューを読んで、なるほどと思う部分があった。トッド・フィリップスはこんな風に言っている。

 

‘Look at this as a way to sneak a real movie in the studio system under the guise of a comic book film’. It wasn’t, ‘We want to glorify this behavior.’ It was literally like ‘Let’s make a real movie with a real budget and we’ll call it xxxxing Joker’

これ(『ジョーカー』)をスタジオ・システムの中でコミック・ブック映画のみせかけの中に本物の映画をしのびこます手段なんだと考えてほしい……文字通り『本物の映画を本物の予算で作って、そいつを××な『ジョーカー』と呼ぼう』

The Wrap

 

つまりフィリップスはアメコミ映画とかは「本物の映画」じゃないと考えている。だけど、今ならアメコミ映画ならなんでも企画が通るので、アメコミ映画のふりをして企画をたててみた。そしたら見事に通ってしまったので、「本物の映画を本物の予算で」作ってしまったというのである。

そういうこととして理解はした。でも理解はしても納得したわけじゃない。フィリップスはつまり、アメコミ映画は「本物の映画じゃない」って言ってるわけでしょう? スコセッシやコッポラがMCUをくさしてさんざんに叩かれたが、ぼくに言わせればこっちのほうがよっぽどアメコミを馬鹿にした発言である。アメコミ・ファンが「ついにバットマン映画が三大映画祭でグランプリを獲った!」とかって浮かれてる意味がわからない。そういう本物の映画だからシリアスなのであって、誰もが思うようにジョークのかけらもない映画なのである。

しかし、それでいいわけ、本当に?

別にジョークを入れたらシリアスじゃなくなる、なんてことはないと思うんだけどな。でもトッド・フィリップスの考えるジョークってチャップリンなんだよね。バスター・キートンではなく。だからどうしても子供を笑かすとかっていうハートウォーミング路線になっちゃうんだろうな。それはわからないでもないのだが、でもやはり、これは『ジョーカー』なのだ。ジョークによって世界を破壊するようなものであってほしかったわけである。

70年代ニューシネマの再来としての『ジョーカー』という、フィリップスが元来望んでいたであるようなかたちでの評価ももちろんできるけど、これだけの言い訳、「コミック・ブック映画のみせかけ」の中でやってる時点でその程度のものか、という気しかしない。どうせなら(70年代後半ではなく)今の話としてやってほしかった。今ではないいつかを舞台にした時代劇で、「現代にも通じる問題」を扱ってみせるのは、端的に言って逃げである。コミックの枠の中でやってみせるのと同じレベルの逃げだ。

だって、そもそもアーサー(ジョーカー)っていったい何歳という設定なんだ? 話の流れからすれば、せいぜいが二十代後半というところだろう。どう考えてもホアキン・フェニックスの実年齢四十五歳ではあの話は成立しない。だから、そこはまあおとぎ話だから、寓話だから、コミックだから……目をつぶってくれという話なのである。コミックの中ではキャラクターは年はとらないから、そんな矛盾は誰も気にしない。でも、これがコミックではないシリアスな映画だったらどうなんだろう? ぼくとしてはこのあと自分の息子みたいな年のバットマンが「親の仇だ~」って逆襲しにくるという話でもかまわないと思っている。それはそれでバカバカしくていいかもしれない。でも、トッド・フィリップスもホアキン・フェニックスも、そんな楽しさはきっと求めてないよね……!

 

皆殺しの天使

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