柳下毅一郎の皆殺しの天使 〜皆殺し映画通信 天国編〜

『ミッドナイト・ゴスペル』 ネットフリックスがサイケデリックの花盛り。米国での大麻の実質的解禁による、ネオ・ヒッピー時代の到来である

公式サイトより

ミッドナイト・ゴスペル

原作・制作 ペンデルトン・ウォード、ダンカン・トラッセル

 

ネットフリックスがサイケデリックの花盛りである。ネットフリックスの新番組を見ていると、やたらとマリファナをはじめとする向精神性薬物にまつわるものが多い。米国での大麻の実質的解禁によって、あらためてサイケデリック文化が盛り上がりつつあるのを感じずにいられない。ネオ・ヒッピー時代の到来である。

ネットフリックスのサイケデリック的最前線がミニ・シリーズ、『ミッドナイト・ゴスペル』だ。8話からなるアニメ・シリーズはアニメによるサイケデリック・トリップ、精神世界への旅である。ぜひ深く潜ってほしい旅だが、ガイド抜きではとっつきが悪いかもしれない。以下、僭越ながらガイドをさせていただく。

ダンカン・トラッセルとペンデルトン・ウォードによる『ミッドナイト・ゴスペル』は、ぐうたらなクランシーが違法な多重世界シミュレータで、仮想空間上の異世界にジャックインし、そこで出会った人との対話を「宇宙キャスト」するというお話。実はダンカン・トラッセルはもともとDuncan Trussell Family Hour  というポッドキャスト番組をやっており、その中では『ミッドナイト・ゴスペル』に登場する面々へのインタビューも過去に配信している。つまり、クランシーの「宇宙キャスト」とはトラッセルのトークを『アドベンチャー・タイム』で知られるアニメーター、ペンデルトン・ウォードがアニメ化したものなのだ。

 

 

ではミッドナイト・ゴスペルにはどんな面々が登場しているのだろう?

 

#01 ドリュー・ピンスキー

ドクター・ドリューとしてテレビ出演も多いセレブ医師。薬物治療の専門家であり、VH1の Celebrity Rehab with Dr. Drewでは映画女優やスポーツ選手などセレブリティの薬物、アルコール中毒治療をおこなっている。

#02 アン・ラモット

カリフォルニア在住の作家、ノンフィクション作家。『赤ちゃん使用説明書』(白水社)、『ひとつずつ、ひとつずつ ――書くことで人は癒される』(パンローリング)の邦訳がある。『赤ちゃん使用説明書』はシングル・マザーとなった経験を書いたノンフィクションでベストセラーとなった。彼女の講演ツアーをおいかけた映画Bird by Bird with Annie: A Film Portrait of Writer Anne Lamottがある。

#03 ダミアン・エコールズ

おそらくは日本でも名前が通っている一人だろう。1993年、三人の子供を殺害したとして死刑判決を受けた「ウェスト・メンフィス・スリー」の主犯格として、近年最大の冤罪事件の主役となった。ハリウッド・セレブらも巻き込んだ運動の結果、2011年に自由の身になる。「ヘビメタを聞く悪魔主義者」として偏見のせいで冤罪を受けたエコールズは獄中で魔術修行をし、現在はれっきとした魔術師である。

#04 トルーディ・グッドマン

心理学博士。InsightLA の創設者でありヴィパッサナー瞑想(ミャンマーの上座仏教に伝えられる瞑想法が欧米に伝わったもの)の指導者。

#05 ジェイソン・ルーヴ

作家。オカルティスト。ジャーナリスト。守備範囲はジェネシス・Pーオリッジからバズ・オルドリンまで。最新作はJohn Dee and the Empre of Angels(Inner Traditions)

#06 デイビッド・ニックターン

作曲家。ミュージシャン。映画音楽多数。テレビドラマ『ワン・ナイト・トゥ・リヴ』の音楽などでエミー賞受賞。さらにグラミー賞ノミネートの実績もある。一九七〇年からチベット仏教の道に入り、チョギャム・トゥルンパの元で学び、教師を務めている。マインドフルネス瞑想として日本にも上陸している。

#07 ケイトリン・ドーティ

作家・葬儀業。幼いころから死にとりつかれ、大学卒業後葬儀屋につとめる。このときの経験からアメリカ人の死に対する態度を変えなければならないと考えるようになる。The Order of the Good Death主催。著書『煙が目にしみる:火葬場が教えてくれたこと』(国書刊行会)が翻訳されている。

#08 デニーン・フェンディグ

ダンカン・トラッセルの実母。二〇一三年4月3日、乳癌のため死去。

 

マインドフルネス、瞑想、セルフヘルプとざっくりニューエイジな要素が並んでいるが、漫然とインタビューしているわけではなく、きっちりした狙いがあるのはこの順番からも読み取れよう。まず第一話で鎮痛剤オピオイド中毒が蔓延するアメリカの現状について憂い、そこから脱出するための有効な手段を考える。大麻はもちろんはるかに安全な代替手段だが、ただ苦痛を麻痺させるために使うのでは単なる対症療法でしかない。根本的な治癒とは? それは自分の精神を癒やすことだ。というわけでセルフヘルプから瞑想の修行、オカルトの深淵へと向かっていくのである。

 

皆殺しの天使

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