バスケットボール・クラッチ

稲垣敦AC「ACは自分が第一ではない仕事」インタビュー【無料記事】

 

理想は毎日やらせたいが…

―安齋HCは、以前「個人練習が足りない」という話をしていましたが、稲垣ACはどう感じますか。

難しいですね。練習はもっとやらせたいんですけど、スケジュールもあるので。肉体的疲労に加えて精神的疲労もあるし、やらせたいけど、ここでやらせて疲労が溜まって身になるのかという判断も難しくて…。

なので、動けない分、ビデオを観せたりとか、疲れないことをやったりとか、そういう判断をしています。理想は毎日やらせたいですが、疲労が慢性的に溜まってケガをしてしまうことは一番避けたいので、その辺の判断はすごく難しいです。

 

ACという立場は現在一人なので、単純にマンパワー的な問題もありませんか。

それは、ありますね。でも、それはどのチームもありますし、その分大きくたくさんやれるという利点もあります。実際、今(練習後)もHCが選手を見てくれていますし、当然僕も見るし、堀部も若手の田原(隆徳)を見てくれたりしています。全員がいろんな仕事ができるというプラスの部分もありますよ。

 

―若手かベテラン、またはポジションによって、見る担当を決めているわけではないのですか。

それは特にないです。本当はそうやりたいんですけど、人数がいないので。ただ、堀部は先輩が恐いらしく(笑)。「ナベ(渡邉裕規)とか遠藤(祐亮)は?」と聞いたら「僕はいいです」と(笑)。「じゃ、外国籍選手は?」と聞いたら「英語がしゃべれないので」と。そんなこともあって、本人の年齢とも近い橋本(晃佑)、田原を見てくれています。(喜多川)修平の膝のリハビリも、どれだけ膝に負担を掛けていいのかという部分がまだ不安らしくて。だから、修平は僕が見ています。

 

―飴と鞭じゃないですけど、HCが叱っている時は稲垣ACがフォローするというように、バランスを意識した接し方もされているのでしょうか。

竜三さんが厳しく言っている時に、僕が同じことやっても意味がないですしね。逆に竜三さんがやさしい時には、僕が厳しく言ったりもしています。竜三さんのモチベーションの上げ方と違うことができれば、ちょうどいいと思うので。

 

 

―例えば、本人としてはやっているつもりなのに結果がでないと悩んでいる選手がいたとしたら、どのような対応をされますか。

それは、やり方が間違っているか、まだ練習が足りていないかのどちらかなので、まずは本人と話し合います。僕はビデオを観せる時も、「このプレーをなんでやったの?」と聞くんですね。そうすれば会話ができるじゃないですか。会話ができれば、本人が頭の中で何を考えていたかが分かるので、「それはこうしよう」とか、「それでいいんじゃないか」とアドバイスができます。

もし、正しいことをやっているのに結果が出ないのなら、「もうちょっとハードに頑張ってやってみよう」と言えるし、やり方が間違えているのであれば、違うアプローチを提案してみたり、という感じです。

ですから、こちらからいきなり、「これやろう、あれやろう」というアプローチはしません。結果って、なかなか出ないものじゃないですか。勝ちたいけど勝てない。シュートを入れたいけど、入らない、とか…。

でも、ちゃんとしたやり方でやったのなら、いいんじゃない?って思うんです。試合では、まぐれで勝つ時もあれば、運悪く負ける時もある。でも、自分たちが持てる全力でプレーしているのであれば、次に行けると思うので。もちろん、選手に求められれば、どんな時でも対応するように努力しています。

 

 「俺」という意見はいらない

ACの仕事の難しさはどんなところに感じますか。

一番難しいところは、自分を殺して他人のために頑張ることです。自分はHCではない。選手でもない。となったら、「俺」という意見はいらないんです。HCの意見をどうサポートしていくか。HCが言ったことに対して、ちょっと自分は違うと思うなら、アイディアを出し、そこで変わる場合もあるし、変わらない場合は、その中でサポートをする、全て裏方に徹する。

どんな組織でも、意見の食い違いって必ずあるじゃないですか。その時に、自分を押し殺して正しくさせなきゃいけないというのがACの仕事だと思っています。僕が感情的になったり、個人を押し通そうとしたらダブルスタンダードになってしまい、それはチームとしてはいい方向ではありませんよね。だから、その意見やアプローチを、どうやってより良くするか。正しくするかということへのサポートをするという感じです。ですから意見が自分と同じであれば楽ですが、そうでない時にも、サポートをする。それがACの仕事で、それが当たり前のことなのかなと思います。

 

―逆に、意見を求められることもあるのではないですか。

ありますね。でも、僕が楽(ラク)しようと思っていたら、黙っていることもできるんですよ。イエスマンになることも簡単なんです。

イエス、ノー、もしくは言う時と言わない時の判断も必要です。そういった意味で、自分が第一ではない仕事です。

 

栃木ブレックス 稲垣敦AC

 

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ