バスケットボール・クラッチ

エンターテインメント、プロモーション担当 松延凛「アリーナエンターテインメントを、“非日常” ではなく “日常” に」インタビュー

宇都宮ブレックス エンターテインメント、プロモーション担当 松延凛さん

 

スタッフさんのお仕事紹介! Vol.7

目まぐるしく戦況が変わるバスケットにおいて、その時々の観客の “気分” に寄り添い、高揚させていく役割を果たすのが、音楽や映像、照明を使用した演出です。声援が “最大の武器” とも言えるブレックスの試合で、思わず普段以上の声を張り上げて応援してしまうのは、松延さんの演出手腕に、まんまとハマってしまったからかもしれませんね。 (文・藤井洋子)

 

—松延さんはホームゲームのエンターテインメントとプロモーションの業務を担当されていますが、具体的にはどのようなお仕事ですか。

エンターテインメント業務に関しては、ホームゲームの演出全般です。試合前やハーフタイムショーの企画やゲストのブッキングなどをしています。

プロモーション業務としては、ゲームハイライトなどの映像製作やホームゲームの集客に向けてSNSでの情報発信の企画、また定期的に制作しているポスターのキャッチコピーを考えるなどが主な業務です。こうした仕事は僕一人ではなく、プロモーショングループで行っています。

 

—エンターテインメントは、観客の満足度を左右する重要な業務だと思いますが、こだわりや特に意識して取り組んでいる点はありますか。

会場に入ってから試合が始まるまでの時間の中で、“お客さんの気持ちの盛り上がりの波”、“高揚感のポイントをどこに持ってくるか”という部分はすごく意識しています。

 

BGMによる演出についてですが、例えば試合開始直前にはTRFEZ DO DANCEが流れるなど、以前はJ-POPの曲も多く使っていましたが、Bリーグになってからは、ほぼ全ての曲が洋楽に変わりました。この辺も、何かこだわりや意図があったのでしょうか。

僕はNBLのラストシーズン(201516)の途中からインターンとしてチームに関わるようになり、Bリーグ1年目に今の役職に就いたタイミングで選手入場や試合開始前の曲を変えました。社内で方向性の相談をしながらですが、Bリーグ1年目と2年目は、アップ中の曲も最新の曲で “かっこいいイメージ” にすごく寄せた時期もありました。

しかし、経験を積む中で、“かっこいい” だけでなくブレックスのカラーや、これまで積み上げてきたものの重要性にあらためて気づき、今は “これまでのブレックスらしさ” を大切にしながら、新しいものも積極的に取り込んでいく姿勢を大事にしています。

 

—これまでの良い部分は残しつつ…という方向性なんですね。

以前やっていたことを定期的に見返して、今に活かせるものがないか検討する作業は定期的に行っています。

例えば、試合終盤に使っている曲の「炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜」は、一時期、使用していなかったのですが、長くブレックスを支えてくださっているファンの方にとっては「ブレックスと言ったら、これだよね」といったような思い入れのある方も多いと思います。Bリーグになってからブレックスのファンになっていただいた方にも、「あの曲が流れると一気に盛り上がるよね」と言っていただく機会も増えました。

センタービジョンやリボンビジョンを使った演出ができる今だからこそ、チーム創設以来使用している曲を用いた演出の重要性を感じています。

 

The Chemical Brothersの「Hey Boy Hey Girlはチーム創設時からずっと流れているので、個人的にはあの曲を聴くと「あ、ブレックスの試合だ」と感じます。

あの曲がかかるとお客さんも試合モードに切り替えてもらえるというか、スイッチが入るような曲だと思うので、あの曲はずっと使っていますね。

 

状況に合わせて選曲

—そのほか、試合中の音楽に関して、こだわりの部分はありますか。

特に後半のタイムアウトで流す音楽は、かなり気を遣っています。

ブレックスに勢いがある状況で相手チームが取ったタイムアウトなのか、相手チームに得点を決められてブレックスが取ったタイムアウトなのかによって、チームの雰囲気、お客さんの気持ちが全く違うと思うので、タイムアウトになった時の状況を瞬時に判断して、その場に合った適切な曲をかけるようにしています。

 

—流す曲は、その場で判断しているということですか。

シリアスな場面に流す曲、盛り上がっている時に流す曲というように、状況によって候補となる曲はいくつかありますが、基本的にはその場の判断で流しています。

 

—それはすごいですね。全ての曲が順番にプログラミングされていて、本番ではタイミングを見ながらスタートとストップのボタンを押すだけなのかと思っていました。

その方が簡単ですけど、会場の雰囲気と曲の雰囲気がズレてしまうと会場の一体感というのは生まれにくいと思うので、その時の状況に合わせて選曲しています。

 

—ということは、ブレクシーは曲が流れた瞬間に、「この曲はあのダンスだ」と判断して踊っているということですか! それは、すごいですね。

はい、イントロクイズのように(笑)。すごいですよね! ブレクシーの柔軟さには、本当に助けてもらっています。

ほかのチームのことは分からないですが、ブレックスはずっとこのスタイルでやっています。ブレクシーが臨機応変に対応してくれているので、タイムアウトの選曲一つとってもこういった演出が可能になり、会場をより盛り上げることができていると思います。

 

観客の皆さんが楽しめる企画を

 —ハーフタイムに関しては、一時期ジャズの演奏やマジックなど、大掛かりなショーを頻繁にされていたこともありましたが、ここ数シーズンは比較的ファン参加型の企画が多いように思います。

Bリーグになってからは試合数が増えたこともあり、ファンの方に参加してもらうイベントの割合も増えたと思います。ファンの方にゲームに参加していただく場合、コート上に出られるのは数名ですが、そのほかの約4千人の観客の皆さんも楽しめる企画になるように意識しています。

 

—音楽やイベントだけでなく、ハード面も毎シーズン進化していますよね。

LEDビジョンに関しては、Bリーグ1年目に天井から吊られている4面のセンタービジョンを設置して、2年目にコートサイドにリボンビジョンを、3年目にコートエンドにリボンビジョンを設置、4年目に既存の電光掲示板を撤去してリボンビジョンを増設し、アリーナの中をぐるっと一周する現在の形になりました。これで、一つの完成形かなと思っています。もちろん、まだまだ実現したいことは頭の中にはありますが(笑)。

先ほどのタイムアウトの曲の話もそうですが、音と映像の連動性には、とてもこだわっています。あれだけのLEDビジョンが付いている会場はBリーグの中でもそれほど多くはないので、ブレックスの強みとして、映像の使い方には今後もこだわっていきたいです。

 

—スピーカーも今は天井に吊られていますね。

Bリーグ1年目は1階フロアの四つ角にスピーカーを置き、照明機材も現在は客席になっている2階の四つ角に設置していました。お客さんの座る位置によっては音がうるさいなと感じたり、照明が見づらいなと感じる方もいらっしゃったかもしれません。

でも、今は全て天井から吊るしているので、そういったストレスはほとんど無くなったのではないかと思っています。また、照明機材がコートの上にあることで演出の幅も格段に広がりました。

 

—試合開始直前に流れるオープニング映像は、制作会社(ファンタスティックモーション)にお願いしていると思いますが、ファンにとっては、あれも毎シーズンの楽しみの一つになっていると思います。

楽しみにしていただいているファンの方もすごく多いと思います。あの映像は、シーズンスローガンと、その意味合いを伝えて制作してもらっています。毎節、さまざまな企画に合わせて新たな映像のコンテンツが増えていっていますね(笑)。

 

—確かに、昨シーズンは映像を使った演出が増えましたね。シルエットクイズやシャッフルしたボールが隠れている場所を当てるクイズなどは、私も毎回挑戦していますけど、シャッフルボールが当たった試しがないです(笑)。ああいった企画は、お客さんの反応をその場で見ることができるので、やってみて反応が良いもの、悪いものを判断できるという利点もありますよね。

あまり言いたくはないですが、す~っとやらなくなった企画もあります(笑)。ちょっと思っていた感じと違うな、と(笑)。企画にしても演出にしても、自分の中にあったイメージを形にして、その時のお客さんのリアクションを生で感じることが出来るのは、やりがいを感じられる部分の一つです。

 

—ほかに、この仕事の面白さはどんなところに感じますか。

ファンの方のSNSなどで、「ブレックスの演出に感動した」などの投稿を見かけた時はやはり嬉しいです。

昨シーズンは、アリーナの外のBREX FUN ZONEというエリアにバスケットコートを作ったり、アリーナの3階に「ブレッキーラウンジ」という、座って飲食を楽しめるスペースを作ったりもしたのですが、外のコートでバスケットを楽しんでいる子供たちや、ラウンジで飲食を楽しんでいるファンの方々を見ると嬉しい気持ちになりますし、新たな試みに挑戦して良かったなと感じます。

 

「試合開始前から楽しめるアリーナ」の実現

—ご家族で試合観戦にいらっしゃる方は、試合だけでなく、「ブレックスの日」という感じで、丸一日家族で楽しんでいらっしゃる方も多いように感じます。

2シーズン前、屋外にBREX FUN ZONEを作ったのは、まさにそういう思いからでした。1年目はエントランスにエアアーチや大きなブレッキーを置き、昨シーズンはコートを設置したほか、小さなお子さんに貸し出せるバッテリカーを置いたり、子ども用のミニゴールを置いたりもしました。これで、ようやくBREX FUN ZONEを作った背景である「試合開始前から楽しめるアリーナ」という部分のスタートが切れたかなと感じています。

今シーズンはどういう形になるかは分かりませんが、まだまだ進化できると思っていますし、もっと楽しんでもらえるエリアにしていきたいです。

 

—ご自身が担当した仕事の中で、印象に残っているものはありますか。

Bリーグ1年目のCS(チャンピオンシップ)で、初めて天井から布が落ちてくる演出をしたのがとても印象に残っています。「振り落とし」という演出なのですが、日本のバスケットボールチームでは初めての試みでした。準備の段階から手探りの状況だったので、各分野のプロフェッショナルな方にご協力いただきました。

「本当にできるのかな」「準備が間に合わないんじゃないか」などと考えた時もありましたが、Bリーグ初代王者という目標に向かってチームとファンが一つになっていると感じていましたし、ホームで試合が出来るアドバンテージを、演出でも最大限に活かしたいという思いがあったので、諦めるという事はしたくありませんでした。

ファンの皆さんは天井から布が落ちてくるなんて想像していなかったと思いますし、暗転して布が落ちて来た時の歓声、そこに映像が映った時の会場のどよめきは今も忘れません。

特に初日となったクォーターファイナルのGAME1は自分でも鳥肌が立ちましたし、本当に良かったなという気持ちと、うまくいってホッとしたという気持ち、何より、会場の雰囲気に感動しました。

 

期待を上回って、さらに驚いてもらいたい

—アメリカでNBAのロサンゼルス・レイカーズの試合を観た時に、布がコートの真ん中に降りてくる演出をしていて、「やっぱり本場は違うな~」と思っていたのですが、まさかそれをブレックスの会場で観られるとは思っていなかったので、個人的にもすごく感動したのを覚えています。

NBAで行われている演出の映像を観るたびに、「これをブレックスアリーナでできたらすごいだろうな」とイメージしていて、CSのホーム開催が決まったら、ぜひやりたいと考えていた演出の一つでした。

2018-19シーズンのCSホーム開催が決まった時も、「今年は何をしてくれるんだろう」というファンの方の期待もあったと思うので、その期待を上回って、さらに驚いてもらえるようなことができたらなという思いがあり、振り落としとプロジェクションマッピングが連動した演出を実施しました。

 

—こうした演出のアイデアの源泉は何んですか。

NBAはよく観ていますし、参考にしている部分は多いですが、あまりバスケットにこだわらず、いろいろなジャンルからアイデアを取り入れるようにしています。例年のオフシーズンでは、毎週さまざまなイベントを観に行っていました。Jリーグやプロ野球を国内で観ることもありますし、去年はアメリカに行ってNBAやメジャーリーグの試合を観戦し、大きな刺激を受けました。

 

どれだけワクワクさせられるか

 —こういった仕事をする上で、影響を受けた人はいらっしゃいますか。

インターンとしてチームに関わるようになった時に、前任の方といろいろと話して、多くのことを学ばせていただきました。その中でも、「普段は宇都宮市体育館という場所を、ブレックスの試合の時は、どれだけ “体育館” を感じさせないようにするか」という話は特に印象に残っています。

当時は、予算も今とは違う規模の中でやっていたと思うのですが、この会場でどれだけファンの皆さんをワクワクさせられるかを考え抜くという部分は、とても影響を受けました。今でもたまに連絡を取って、今のブレックスの演出を客観的にどう感じているかなどを聞くこともあります。

もう一つすごく印象に残っているのが、昨年NBAを観に行った時に、たまたま隣に座った方の言葉です。その方は30年以上もシーズンチケットを買っているという年配の男性で、「僕は日本のバスケットボールチームで働いていて、日本にNBAのアリーナような “非日常” の空間を作るのが夢なんです」という話をした時に、「自分にとっては、これが “日常” なんだよ」と話してくれました。

それまで、“非日常”という言葉をよく使っていたのですが、よりファンの方の生活に溶け込んで “日常” になっていくべきだと感じて、すごく納得しました。

アリーナエンターテインメントを「“非日常” ではなく、 “日常” にしていく」ことが、次の段階なのかなと思った出来事でした。

 

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