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ブレックス藤本光正社長「コロナ禍は、今まで見えていなかった部分を顕在化させてくれたという意味でポジティブな側面もあった」インタビュー・前編【無料記事】

オンラインにおける二つの方向性

―一方で、YouTubeSNSなど、オンラインにはかなり力を入れているように思います。

Bリーグはチケットもデジタル化するなど、リーグとしてSNSに力を入れるという指針があり、また時代の流れもDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル変化)の方向で進んでいます。

ブレックスも2017年頃から、「DXを推進していこう」と話していましたが、絶対に今やらなければいけないことかというとそういうわけではなく、「いつでもいい」という存在でもありました。ですがコロナ禍の影響で、一気にそれが「絶対に今必要」というように、必要性が迫ってきました。むしろコロナがきっかけとなり、必要性に駆られてやらなくちゃいけない状況になったことで、昨年3月頃からかなり力を入れて取り組んできました。

オンラインに関しては方向性が二つありまして、一つはよくネットの世界で言われる「エンゲージメント(深い関わり合いや関係性)」です。今までであれば、夏の期間にイベントを実施するなど、選手とファンが対面する機会がありましたが、それが一切できなくなってしまい、ファンの方との接点が著しく減少しました。

これがどういうことを意味するかというと、ファンの気持ちが離れてしまうということです。それを補完する意味でも、オンラインというツールを駆使して、いかにファンの方にブレックスを身近に感じ続けてもらうかと考えました。

そのためにSNSに力を入れ、YouTubeで選手の素顔を見てもらうような企画を実施したり、トークショーをオンラインで配信したり、VR BREX WORLDというアプリをリリースし、アリーナに来られない人にもアリーナの雰囲気を体感してもらうなどを行ってきました。とはいえ、YouTubeは昨年から力を入れたという状況なので、まだリーグの中でも(チャンネル登録者数が)3位ですし、ここから頑張って追い付こうというフェーズです。

もう一つは、収益化です。オンラインで触れてくれる視聴者が増えてくると、それをいかに収益につなげていくかが次のフェーズとしてできるようになります。

一つはギフティングです。広報チームが、試合前にオンライン配信をライブでやっています。その試合の見どころを紹介し、試合1時間前の選手の様子を追いかけるなどしています。こうした映像をアプリ上で観ている人たちは、投げ銭ができるようになっており、これが徐々に収益化してきています。

もちろんチケットの売り上げダウンをカバーするほどの規模にはなっていませんが、今まではゼロだったものが新しく生まれたわけですし、今後はギフティングだけでなく、YouTubeでブレックスの企画にスポンサーを付けられないかなど、そういった方向性の収益化も図っていきたいと思っています。

 

—グッズの売り上げは好調のようですね。

今までは試合の日に試合会場で購入する人が大半でしたが、コロナ禍以降、今までの3倍ほどの売り上げになる月もあり、その流れが少し続いていますので、ここは会社としても強化していきたいと思っています。

バスケットに限らず、これまでスポーツグッズはオンラインで買うという文化がありませんでした。しかし、コロナを契機にかなり変わり、オンラインでもグッズを買うという意識が少しずつ出てきたように感じます。これもある意味、時代が背中を押してくれていると感じます。

 

—シーズンオフの期間にも新商品を出し続けていたということもあるのかもしれませんが、オンラインの売り上げが3倍になる月があったというのは、確かに可能性を感じますよね。

今までのパラダイムでいくと、「オフシーズンはグッズは売れない」と決めつけていました。「試合がないんだから売れないよ」と。ですが、3月、4月、5月、6月とずっと試合が無い中、オンラインでグッズを販売すると、ファンの方は買ってくれるわけです。そこで、「オフシーズンにグッズを出しても売れない」と思っていたのは、自分たちの幻想だったんだと気付くこともできました。

もちろん、オンラインが手軽になったことが追い風になったというのもありますが、そういう意味でもコロナは悪いことばかりではなく、いい部分を気付かせてくれるきっかけにもなったのかなと思っています。

コストカットというとネガティブですが、私は効率化、合理化だと思っていますし、やってみたら「何とかこれで成り立つね」という新な気付きがたくさんありました。

 

エンゲージメントは、オンラインでも成立する

—コロナが、いいきっかけを与えてくれたという見方もできるということですね。

上昇志向の時というのは、無駄になっている部分が見えづらいですよね。でもコロナ禍により、「ちゃんと見直さなきゃ」というところに興味関心がいき、必要のない部分は効率化しようというきっかけを与えてくれました。

さきほど話したように、エンゲージメントは、対面だけでなくオンラインでも成立する、オンラインでもファンの興味関心を引くことができるんだということも発見できましたし、試合が無くてもオンラインでグッズを買ってくれたり、ギフティングやクラウドファンディングという形で収益を作れるということも気付くことができました。

こうしたことは、コロナが終わってからも止める必要はありません。しっかりとコストも合理化し続ける、オンラインでエンゲージメントを作り続ける、エリアが関東じゃない人でもずっとリーチし続けることをやめなければいいのです。

試合に関しても、仮に1万人の潜在層がいれば、ブレアリでは4,500人が観戦し、残りの5,000人以上はオンラインで楽しむということができるかもしれません。そういう可能性として今まで見えていなかった部分を顕在化させてくれたという意味では、ポジティブな側面もあったのではないかと思っています。

短期的に見れば、決算で大打撃を受けましたし、現行のシーズンも入場制限や試合中止のリスクもあり、目下、怖さや大変さも感じますが、将来、振り返った時に「あの時にコストの話やオンラインの話をして、一気にジャンプしたよね」と言えるタイミングがくるのではないかと思うのです。

ですから、決してネガティブなことばかりでなく、ポジティブな方にもしっかりと目を向けながら、今の大変な時期を乗り越えるという意識でやっていこうと社内でも話していますし、私自身もそういうマインドでいます。

 

(後編に続く。後編では、2026年からスタートする新B1リーグについて聞いています。)

 

 

 

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