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町田洋介AC「ブレックスは全員が自己犠牲を払って、それを厭わずに戦えるチーム」インタビュー【無料記事】

前半戦は自分の良さを見失っていた

―遠藤祐亮選手も、「気持ちの部分でアップダウンがあったシーズンだった」と話していました。

遠藤のことは、シーズン中に佐々とも話していました。自分の強みじゃないところで戦おうとしているな、と。遠藤はもっと違う良さがあるのに、マコと同じようなことをやろうとしているように見えたんです。

オフェンス面での遠藤の良さはシュートで、体の強さを生かしたシンプルなプレーを出していければいいんだけれど、いい意味で向上心があるし負けず嫌いだし、それが働いてちょっと自分自身の良さを見失っていたんですよね、前半戦は。

 

―そういう時、ACとしてはどのように選手と向き合うのですか。

シーズン序盤は、個人のワークアウトは佐々とやっていて、そこでガードのピック系のこともやっていたのですが、なかなか調子が上がってこないからと、僕のところに来たんです。僕は(喜多川)修平とかと、シュートの部分をメインにワークアウトしていて、そういう変化も加えながらやってきた中で足を痛めてしまい、日環アリーナでの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦の2戦目(44日)はプレーできずに休みました。

試合に出られない中で、一歩引いてみんなのプレーを観る時間ができたんですよね。それで、その次の週のレバンガ北海道戦は久しぶりに良かったんです。遠藤はこういうプレーだよね、というプレーができていました。

今シーズンは自分のプレーがなんとなく分からなくなってきていたけど、思い出した、みたいな。単純にそんなことだと思います。多分、見失っていただけで。気付けたのがちょうどそのタイミングだったんですよね。だから怪我の功名というか、あの時期が遠藤の中では切り換えのターニングポイントだったのかもしれません。

 

―遠藤選手は年齢的にもベテランの域に入りつつありますし、チームの中でもスタメンが定着していたり、Bリーグのアワードでもベストディフェンダー賞やベスト5を受賞したりと、傍目に見れば上り調子できている選手だと思いますが、それでも気持ちのアップダウンがあって、調子が上がらない時があるんだなと少し驚きました。アスリートって、フィジカルもそうですが、やっぱりメンタルを健やかに保つことがかなり重要な要素になるんですね。

少し前に、スポーツ選手の記者会見に関するニュースが話題になった際、為末大さんがコメントしていたのですが、プロサッカー選手たちのメンタルヘルスの研究だと、6割くらいが鬱に近い、要するに精神的な問題を抱えたことがあるか、抱えているという統計が出ているらしいです。

プロアスリートはメンタル的になんでも跳ね返すような強いイメージがあるけれど、むしろメディアにもさらされる、いろんな評価があるというように、いろいろなストレス下に置かれていて、すごくデリケートなんです。どのレベルにいってもそういうことはあるから、遠藤もチームに新しい選手が入って来て、自分のポジションもあるし、競争だし…という中で、いろいろなことを考える時間があったんだと思います。もちろん、これは遠藤に限ったことではなくて、全員に言えることですが。

 

相互作用でやっていく良さがある

―今シーズンを振り返って「町田洋介賞」をあげるとしたら、誰を選びますか。評価の基準は、お任せします。

難しいですねぇ…。一つうれしかったなと思うことがあって、それはナベ( 渡邉)が絡むことなんですけど。11月から12月の頭にかけて日本代表の試合があって、リーグ戦は試合がなかった期間がありましたよね。その時期に、僕と佐々で練習をする機会があって、そこで、あるオフェンスを入れたんです。

でも実は、今はやっていないだけで、2シーズン前ぐらいに全く同じ動きのオフェンスがあったらしいんです。僕たちはそれを知らないから、その時とは違う名前を付けて練習でやろうとした時に、ナベが反応して「それあれでしょ、前も使ってたあれじゃん。だからコールもこれにして、それで入っていった方がうまくいきますよ、みんな分かってるから」って僕に言ってくれたんです。

それで、僕も「そうだね」って言ってナベの提案に乗ってそのコールにして、実際、そのオフェンスはその後、多く使われるようになっていきました。

そういう風に、お互いに変な遠慮もなく、「こうした方がいいよ」と言ってくれて、こちらも「そうだね」と受け入れて遂行していく。あれはすごくいいエピソードというか、それが一つのオフェンスとしてチームの軸となっていったということも含め、チームの組織としての成り立ち、成立の仕方がすごくいいなと思ったエピソードでした。

 

―一方的じゃない、というところがいいですね。

竜三さんも、一方的に進めるのは好きじゃないですし、やっぱり相乗効果というか、相互作用でやっていくという良さがすごくあったので、ナベのあの一言はすごく良かったなと思いました。そういうところがこのチームの良さだなと実感しました。

実戦でもナベは、いろんな部分で我慢していたし、さっきの遠藤や海の話じゃないですけど、ベテラン勢がいろいろと気を使いながら、我慢をしながら若手に声を掛けてやってくれていました。

 

―2020-21シーズンのブレックスを総括して、あらためてどんなチームでしたか。

「チームワークとは、犠牲心とそれを評価できる組織」と、竜三さんが話していましたが、本当に良い言葉だと思いますし、実際、そうだなと感じていました。全員が自己犠牲を払って、それを厭わずに戦えるチームでした。

貢献しなきゃいけないとか、我慢がどうのこうのって言うのは簡単ですが、それを実行するのはとても難しくて。でもそれができるチームの姿勢や文化が、本当に素晴らしいなと思いますし、それが形になったシーズンだったんじゃないでしょうか。結果というよりも、そういうチーム理念が素晴らしいということを、あらためて感じられました。

 

―貴重なお話をありがとうございました。そして2020-21シーズン、本当にお疲れさまでした。

 

宇都宮ブレックス 町田洋介AC

 

 

 

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