『サッカーパック』39メディアが1550円で読み放題

川本梅花 フットボールタクティクス

【フレームの外の景色】第2話:甲府の監督は吉田達磨だったかもしれない

フットボールロングコラム【フレームの外の景色】第2話

フットボールロングコラム【フレームの外の景色】第2話

佐久間悟が語った吉田達磨を監督にする案

9月27日にアルビレックス新潟は、監督である吉田達磨の退任を発表した。この知らせを聞いて、私はヴァンフォーレ甲府でGMも兼ねる佐久間悟監督の発言を思い出した。

「吉田達磨に監督のオファーをしようと考えていたんです」。

数カ月前、甲府の練習場で佐久間に取材をした時、2016年シーズンの監督に吉田を招こうとしていたことを話してくれた。今季はJリーグの開幕が早く、監督としてチームを構築する時間が限られているため招聘(しょうへい)を断念したと理由を述べた。

私は、吉田招聘を望んだ佐久間に問い掛ける。

「柏レイソルで監督をして、うまく行かなかったですよね。新潟でも厳しい状況にあります。なぜ、吉田を監督として考えたんですか?」

佐久間は、その理由を話した。

「今の柏の土台を築いたのは、間違いなく吉田達磨です。甲府はこういうサッカーをする。その土台を築いてほしい。僕は、今思うと、大木(武)さんはすごかったな、と。甲府の地域性というか、風土に合ったサッカーを考えてそれを作ろうとしていた。吉田なら、そうしたことができるんじゃないかと思うんです」

確かに、柏の土台を築いたのは吉田の功績かもしれない。そのため、吉田を甲府の監督として招くことの意義や意味はあるが、ある種の覚悟も必要となる。それは、J2に降格しても監督を解任せず、腰を据えてやってもらう覚悟だ。さらに、J2で基盤を作ってJ1に挑む時間を与える覚悟も必要となる。吉田を監督として招く意義や意味は、単純な思考回路では解き明かせない。

勝点が試合数を上回るチームが残留する

ところで、シーズン後半に入ってから、Jクラブの監督解任が続いている。特に7月は慌ただしく、FC岐阜のラモス瑠偉の契約解除(22日)からはじまり、24日にFC東京の城福浩が、25日にジェフユナイテッド市原・千葉の関塚隆が、それぞれチームを去った。また、8月23日に名古屋グランパスの小倉隆史の休養が発表され、そして今回の吉田達磨の退任である。

9月25日に開催された明治安田生命J1セカンドステージ第13節、年間勝点順位14位の甲府は柏と戦い、0-1で敗れた。同15位の新潟は鹿島アントラーズに0-2の完敗。一方、同16位の名古屋はベガルタ仙台と対戦して2-1で勝利を収める。甲府は勝点28、新潟は勝点27にとどまり、名古屋は勝点を26に伸ばした。

明治安田生命J1リーグ年間勝点順位
(2ndステージ第13節終了時点)
順位 チーム 勝点 試合
14 ヴァンフォーレ甲府 28 30
15 アルビレックス新潟 27 30
16 名古屋グランパス 26 30

筆者は、勝点が試合数を上回れないケースを、残留と降格の基準にしている。13位のジュビロ磐田は、試合数30に対して勝点が32となっている。勝点が上回っている磐田は、4試合を残して残留する確率が高い。ただし、磐田の残り試合の対戦相手を順番に挙げると、新潟、名古屋、浦和レッズ、仙台となり、厳しい戦いが待っている。

甲府の残りの試合は、横浜F・マリノス、アビスパ福岡、湘南ベルマーレ、サガン鳥栖の順番。吉田を解任して新監督にコーチだった片渕浩一郎を迎える新潟は、磐田、浦和、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島と戦う。残留できるのか降格してしまうのか。天国か地獄かのせめぎ合いの中で、狭い出口を抜け出すのは、いったいどのチームになるのか。

断っておくが、残留のための数字上の問題点を述べているのであって、湘南と福岡を取り上げなかったのは、残留が不可能という意味ではない。

クラブのリスクマネジメントの欠落

J1リーグとJ2リーグでは、クラブを維持していくのに相当の違いが存在する。18チーム中3チームが自動降格するJ1のクラブは、さまざまな手を打つ。成績が振るわなければ、監督を解任してチームを一新するのも1つの手段である。新潟が降格を危惧して吉田を解任したのは、成績だけを見れば無理もない。残留が目的ならば、もっと早く退任させても不思議ではなかった。

ただ、「いまさら」であることは承知だが、「吉田を招いた時点で、望んだ結果にならない場合を想定しなかったのか」と言いたい。乱暴な言い方をすれば、吉田が指導者として力を発揮できたのは、育成組織を率いていたからである。J1クラブが、吉田のような「育てる」という能力がある指導者を監督として招くには、冒頭で述べたように、相当な覚悟と辛抱が必要なのだ。

また、今季いくつかのクラブが行った監督解任から新監督就任の流れに、少しばかり違和感を覚えている。新潟の人事もそうだが、内部昇格というやり方である。確かに、チーム事情を把握している人材を新しい指揮官に任命すれば、無理もなくチームをソフトランディングできる。そのやり方が無難で確実だとも考えられる。

しかし、私はそうした選択を疑問に思う。それは、ギリギリまで「なんとかしてくれるはずだ」と願っていた結果、内部昇格を選択せざるを得なかっただけである。リーグ戦残り4試合で監督を交代。この事実は、クラブがリスクマネジメントを考えていなかったことの証明ではないか。

どんなに能力がある指導者でも、いつも良い結果を残せるとは限らない。クラブは、リスクマネジメントをしっかり持って、望まれた指揮官だったが、チームの選手の質に合わないサッカーならば、早々に見切りをつける決断も必要である。今回の吉田の解任は、あまりにも遅すぎるがゆえに、42歳の指揮官に大きな傷を負わせる結果となった。

佐久間が述べていた「吉田監督の招聘」が、本当に実現したならば、どんなチームを作って、いかなる結果が待っていたのだろうか。柏や新潟と同じ結果だったかもしれないし、全く違った可能性を示してくれたのかもしれない。GMと副社長を兼務する佐久間は、どこまで我慢して吉田のやろうとするサッカーを後押しできたのだろうか。

吉田達磨が監督を解任された日に、私は、佐久間悟の告白を思い出したのだった。

川本梅花

※初出時「降格も昇格もない下部組織」と記しましたが、不正確な表現だったため修正しました。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック