川本梅花 フットボールタクティクス

【ノンフィクション】番外編:水戸の期待の星・内田航平、君が見ている先には何があるのか?【無料記事】

【ノンフィクション】番外編:水戸の期待の星・内田航平、君が見ている先には何があるのか

ファウルをせずにボールを奪う能力

2016年3月6日(日)、明治安田生命J2リーグ第2節、水戸ホーリーホック対セレッソ大阪が行われた。その試合を見に行ったのには理由があった。筆者が注目する選手がスタメンで出場するからだ。

「守備力に関しては見るべきところがある」

これが彼への最初にくる評価である。

彼の守備の凄(すご)さは、ファウルをしないでボールを相手から奪うところだ。C大阪との試合においても、ペナルティエリアの中でさえ、相手と対面しながらボールを奪い取った場面があった。ボールを奪うという守備に関しては、23歳になろうとする彼と同年代の選手の中でも、大化けする可能性を秘めている。

彼の名前は、内田航平。

水戸ホーリーホックの期待の星と呼んでいい存在だろう。内田は、正智深谷高校から加入した生え抜きのレギュラーである。水戸のスタメンを見ると、ほかのクラブから移籍してきた選手で占められている。それにはクラブ事情という苦しい理由があるのだが、事実だけを取り出せば、現状では内田がただ1人の生え抜きのレギュラーとなる。

守備で優れている力を見せる内田には、克服してもらいたい課題がある。それは試合後に、水戸を長く取材しているサッカーライター・佐藤拓也(@takuyabeat69)との会話からもたらされた。

バックパスに関する周りの印象と本人の意図

「ボールを受けた後に、バックパスが多いんだよね」

佐藤は筆者に話す。

確かに、C大阪戦[0●1]においてもDFへのバックパスが何度もあった。見ようによっては、「簡単にボールをさばいている」とも映る。しかし、佐藤は次のように的確に指摘する。

「兵働(昭弘)とコンビを組んでいるんだけど、対戦する相手チームは、兵働には積極的にプレスに行かないで、内田がボールを持つと2、3人で囲んでボールを奪いに行く。そうすると、内田はバックパスを選択する。その結果、相手は自陣に戻って守備についている。相手がプレスに来たら、相手の勢いを外してかわして、前にパスを出してほしいんだよね」

試合後に選手が現れて、記者たちはお目当ての選手を囲んで話を聞く。「ぶら下がり」と呼ばれるインタビューだ。多くの記者は、取材対象である選手に気を遣いながら言葉を紡いでいく。佐藤は、内田に「バックパス」についての質問をする。

―前半、ボールを持った時に、後ろへのパスの選択が多かったかなという印象があったんですが?

「相手が低かったので、慌てることなく、ツッコミ過ぎることなく、やれればいいかな、と。サイドで起点を作れと言われていた。ローテーションをして、(山形FW)リカルドサントスが残っていたから、そこのスペースを使いつつ、サイドから崩していけ、と。それのために、落ち着かせたかった。みんなが前向きの状態でプレーをした方がいいと思って、落ち着かせてのパスだなと、思います」

周りから見れば、消極的なバックパスだと思われる。本人にとっては、チームを落ち着かせるためのバックパスであった。問題なのは、内田が落ち着かせようと考えて行うバックパスを、相手チームは読んで、内田がボールを持つところを狙ってプレスに来ているということだ。この異なった視点は、実は、大きな問題を含んでいる。今後、内田が大化けするかしないのかにも関わってくるものである。

おそらく、佐藤もそうだし筆者もそうだが、味方が前を向くようにバックパスを選択したプレーではなく、2、3人とプレスに来る相手の勢いをかわして、内田本人が前を向いてビルドアップの起点になってほしい、という期待の表れからの提言なのである。

克服すべき課題に挑む

内田から話を聞いていると、とにかく全体的な視点に立って発言したい、という考えが見られる。そして、サッカーに関して「考えよう」という意志が伝わってくる。これは、西ヶ谷隆之監督による指導方針の賜物(たまもの)だろう。西ヶ谷監督は戦術家として知られ、ミーティングも長い時は50分近くあるという。

佐藤が、内田にこんな質問をする。

―後半になって、押し込むこともできた。スイッチというか、攻撃の変化も欲しいと思ったんですが、その辺は?

「やっぱり、去年は、3人の関係を作ってクロスを上げる。それが無理なら中央突破で。攻撃への意図をしっかり持っていたんですけど。ちょっと今は。まだ、チームとしても完璧なところはないので。(去年のように)3人で崩して、というところまでは行っていない」

続いて筆者が内田に問い掛ける。

―完璧なところはないというのは、攻撃に関して形が作られていないということ?

「はい。まだ、できてない。どこのチームも今の時期だと、まだ100はできている、というわけではないから、そこはしっかり声を掛け合って、完成させられれば」

―兵働くんとペアになっているわけじゃない。どっちかが攻撃とか守備とか、そういう話はしているの?

「いや、基本的にはないですけど、相方の動きを見てプレーするようにはしています。やっぱり、相手が(前に)出ているならば、自分がスペースを埋めないといけない。兵働さんもカバーしてくれているから」

―守備はインターセプトがあったけど、攻撃に関しては?

「まだできていない。縦パスを入れたり、サイドに散らしたり、回数的には増やしていきたいな、と。どうしても短いパス(が多くなる)。短いパスだと、けっこう(相手の網に)はまるので、1つ大きなパスではがそうと思ったんですけど、ズレてしまって。大きな展開という意識は持っています」

―監督からはどんなことを指摘されているの?

「自分の場合は、やることが決まっているので。相手を潰(つぶ)す。タイトなところを期待されている。逆に攻撃においては、シンプルにやってもいいんじゃないかとアドバイスされます」

君が見ている先には何があるのか?

内田には、大きな可能性がある。特に、ボールを足元で処理する際のセンスを感じる。だから、守備においても攻撃においても、自分の潜在能力をもっと高めるために、全てをサッカーにささげてほしい。

筆者が「結果を残せば、リオ五輪代表に選ばれる可能性だってあるよね」と話すと、「いやー、僕は、このチームでしっかりやってからですから」と謙遜する。

君が見ている先には何があるのか?

君のプレーで、何があるのかを見せてほしい。

川本梅花

※2016年3月にWebサイト「サッカーキングオピニオン」に掲載された原稿をアーカイブとして公開しました。その理由は2つあります。1つ目は「サッカーキングオピニオン」が8月で閉鎖したので、閲覧できなくなったこと。2つ目は、10月2日の対モンテディオ山形戦で決勝ゴールを決めたので、内田航平がどんな選手なのか知ってもらいたいと望んだからです。ケガによって長期リハビリを余儀なくされ、リオ五輪のメンバーには入らなかったですが、筆者の期待度は全く変わっていません。

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