川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】林陵平のゴールパフォーマンス【コラム】

林陵平のゴールパフォーマンス

今季、モンテディオ山形から移籍してきた林陵平は、三島康平の幻影を取り払ってくれる存在になりそうだ。昨季はアルビレックス新潟から期限付き移籍で加入した平松宗とファジアーノ岡山からやって来た久保裕一の2人が、FWとして活躍した。しかし、松本山雅FCにシーズン途中で移籍していった三島の存在に、彼らは近づくことはできなかった。

ケーズデンキスタジアム水戸に試合を見に行くたびに、僕は、三島の幻影がこのスタジアムに、まだ住み込んでいるのではないかと思ってしまっていた。それほど、三島は、ダイナミックで決定力のあるストライカーだった。

ちなみに、三島康平のノンフィクションはこちらをご覧ください。

「孤独なストライカー、三島康平の新たな旅立ち」
https://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20160728/473426.html

点取り屋としての三島の存在を払拭してくれそうな勢いを持ったストライカーが水戸に誕生しつつある。それが、林陵平である。彼のプレーは、柏レイソル時代から見ていた。4月22日に行われたアビスパ福岡戦でのプレーは、好調時の柏時代を少しだけ彷彿される。また、人間性にも見るべきものがあった。試合後に話を聞かせてもらって、「チームのために」とか「若手の手本として」などのフレーズが聞かれる。点取り屋としては、この日も得点を決めて、9試合を消化して5得点目となった。

僕は、林に「得点王は目指しているんだよね」と質問した。林は僕の目を見て「もちろんです」と即答する。さらに彼は言葉を続ける。「ゴールを取るためではなく、チームが勝つためにということを一番意識しています」。彼のサッカーに対する意識として「チームが勝つために、自分は守備をして、そして得点を挙げる」というものがハッキリとある。

さらに、ベテランの域に入る林は「チームの中で引っ張っていくのは、今年いい形で出ていると思います」と語ってから、年齢は意識していないと言う。そして、マンチェスター・ユナイテッドのズラタン イブラヒモビッチの箴言(しんげん)を持ち出す。

「イブラヒモビッチもよく言うんですが、年齢はただの数字だと。僕もまだ成長して、もっと上を目指したいですね。年は意識していないですし、またここからだなという意識はあります。今は結果が出ていますが、こういう気持ちを持っていても、結果が出ない時期もあります。そういう時期でも、ブレずにやり続けることが大事だと思うんです」

ところで、試合後のぶら下がり会見中、この試合で見せた林のゴールパフォーマンスに話が及んだ。

あるメディア関係者が、「あのパフォーマンスは誰のヤツなんでしょうか?」と林に質問する。

「あれは、マンチェスター・シティのガブリエル ジェズスという選手のヤツです。その後にすね当てを出したのですが、そこにはハートマークの中に『I love IBRAHIMOVIC』って書いてあるんですよ。イブラヒモビッチがケガをしてしまったので、頑張ってほしいという日本からエールを送りました。前回はケルンが公式に載せてくれたので、マンチェスター・ユナイテッドが今回のヤツを載せてくれないかなと思っています」

と、林は笑いながら答えると、記者たちも彼につられて笑いが起こる。

同じメディア関係者が「ゴールパフォーマンスは毎回準備しているんですか?」と問いただす。林は「毎回準備をしていますよ。携帯のメモに書いていますから。前日に誰のパフォーマンスをするか考えているんです」と話す。ある記者が「2点決めてもネタはあるの?」と尋ねる。林は「あります!」と即答してから「ハットトリックでもできますよ。でも、基本的に1試合は同じ選手で通したいと思っているんです。今日は特別に、イブラヒモビッチがケガをしてしまったので、日本からエールを送りたいと思ってパフォーマンスしました」と述べた。

記者が続けて「前節はケルンのモデスト選手のパフォーマンスをしましたが、ケルンの公式Twitter(ツイッター)で取り上げられていましたね」と言えば、林は「それ、見ましたよ。うれしかったですね。今回はマンチェスター・ユナイテッドの公式ツイッターに載せてもらいたいですね。イブラヒモビッチに届いたら、めちゃくちゃうれしいですけどね」とおどけて会見は終わった。

僕は、林が答えたゴールパフォーマンスよりも、先制点についてのコメントにしびれた。もしかしたら、林が柏時代で好調だった頃のようなストライカーに復活するのではないかと思わせたからだ。

「先制点のあの瞬間、こぼれると思っていたのですか?」

「映像で見てもらえばわかると思いますが、あの瞬間に自分だけが動き出しています。必然のゴールだと思います」

林陵平よ、僕の中に宿っている三島康平の幻影を、どうか取り払ってくれ。

川本梅花

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