川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】船谷圭祐と橋本晃司に問いたい。君は本当に今のままでいいのか?【コラム】

船谷圭祐と橋本晃司に問いたい。君は本当に今のままでいいのか?

後半にベンチに下げられた2人

4月22日に明治安田生命J2リーグ第9節、水戸ホーリーホック対アビスパ福岡戦が行われた。まず「4-4-2」のボックス型を採用する水戸のフォーメーションを見てみよう。福岡も「4-4-2」のボックス型なので、完全にマッチアップする状況が生まれる。

この試合で、2人のベテランと呼べる選手が久々に先発出場した。私は、彼ら2人のパフォーマンスに注目して試合の動向を追いかけた。彼ら2人とは、左サイドハーフの船谷圭祐と右センターハーフの橋本晃司である。2人は連続して交代させられる。後半19分に船谷が湯澤洋介とチェンジする。続く24分に橋本晃司が佐藤和弘に代わってベンチに退く。この交代の理由を西ヶ谷隆之監督は、「体力的な問題」であると述べた。

私が抱いた感覚として「よくこの時間まで替えないで我慢したな」というものであった。極端な話、後半頭から湯澤と佐藤が出てきても良かった。しかし、そうした選手交代をしない西ヶ谷監督は、我慢して2人をピッチに置いたのだろう。西ヶ谷監督が船谷と橋本を交代させる決断をさせた場面があった。その場面に類似したシーンが前後に何度もあったので、「そろそろかな」と見ていたら、監督は2人の交代を実行した。その場面とは、以下のようなシーンである。

福岡の右センターバックの實藤友紀がボールを持つ。水戸の左FW前田大然が實藤友紀へプレスに行く。前田のプレスは、真剣にボールを取りに行こうとするプレスなので實藤は左側にいるセンターバックの濱田水輝にボールを預けようとする。しかし、その動きを察した林陵平が濱田にプレッシャーを掛けようと近づく。この時点で、濱田へのパスが危険だと察した實藤に、パスの選択は2つあった。GK兼田亜季重へのバックパスか、あるいは右サイドバック(SB)の亀川諒史になる。實藤が濱田を飛ばして、左SBの下坂晃城にパスを送るという選択もあるのだが、下坂の対面には白井永地がプレッシャーを掛けている。そこで實藤は、誰にパスを出したのか、ということが問題の場面になる。

實藤は、右SBの亀川に難なくパスを出す。フリーでボールを受けた亀川は、フリーになっているセンターハーフの三門雄大にパスを送る。三門は、前田の動きを牽制して「見る」ために下り目のポジションを取っていた。誰からもプレッシャーを受けないで、ボールを持った三門は、FWのウェリントンに縦にミドルパスを通す。ウェリントンが、ボールをキープしている間に、ウィリアンポッピが右サイドに流れる。福岡の井原正巳監督が狙っていた攻撃が実際に行われて、意図的に水戸の右サイドを崩されて同点弾を喫してしまう。

読者は、ここまでの説明で、不思議に感じた箇所はなかったのだろうか? まず1点目は、船谷が対面する亀川にプレスに行っていないということだ。ただステイしてポジションに立ち尽くしていただけである。前田が實藤に、林が濱田に、白井が下坂にプレスに行っているのに、船谷はプレスに行かなかった。前田、林、白井と福岡の3選手の距離は約1メートル。船谷と亀川の距離は、3メートルから4メートル離れている。手を抜いていたと言えば、語弊があるかもしれないが、明らかにプレスに行くことはしないプレー選択をした。試合の前半はプレスに行っていた場面で、後半になっていかなくなっていた。西ヶ谷監督が「体力的な問題」と述べていたのは、このようなプレーを指してのことである。FWがファーストディフェンダーとなった場合、2列目の選手もFWの動きに連動してプレスに行かないと、FWと2列目のスペースに空間ができて、相手がフリーでボールを持てる状態になってしまう。

「不思議な箇所」の2点目は、三門がなぜフリーでボールを持てるのか、である。フリーというのは、誰からもプレッシャーを掛けられないで、前を向いてボールを持てる状態にあることを指す。前述したけれども、三門は前田を「見る」ために下がり目でプレーしていた。ちょうど橋本は三門にプレスに行けるか、あるいは縦パスのコースを切れる距離まで近づいていた。しかし、船谷と同様に、橋本もその場に立ち尽くすだけだった。私は、彼らのプレーを見て「なぜプレスに行かない!?」と不思議に感じてしまった。

このままでいいのか。なぜ、力を出し切らないのか?

試合後に行われる監督会見で、西ヶ谷監督に私はこのような質問をした。

「橋本選手と船谷選手を交代したのは、すごく納得できる交代だったんですが、FWがプレスに行っても付いていかないで、さぼっていたというのはアレですけど、体力的にも難しかったのかもしれないですが、これは改善するべきところですよね。そう思うのですが」

監督は次のように答える。

「まあ、改善の、もちろんゲームコンディションという部分があった。60分、70分くらいのところで(交代ははじめから考えていた)。(なぜなら)福岡戦は総力戦になるので。(彼ら2人は)ミスが増えてきたのと、サイドハーフは推進力がないとうちの良さが出せないので(船谷は交代させた)。まあ、(こうした現実を)本人たちが感じていることですし。J2は足下(がうまい)だけじゃなかなか厳しいですしね。推進力含めて、フィジカルのスピードというのも(大切で)。まだまだ彼らも、技術はありますけど、もっともっとフォーカスしていければ、選手寿命も伸びるでしょうから。もっともっといい選手になるでしょうし。そこのところは、彼らに求めています。ああいう技術のある選手はそこに取り組むのは難しい作業なので、彼らに対してしっかりアプローチしていきたい。逃げずにやっていかないと、ピッチには立てないので、その部分を一緒にやっていきたい」

この監督会見の文字起こしは、カッコを入れて補っている。補わなければ伝わらないほど、監督も苦悩しているということである。相当に深い内容だと思う。足下がうまくて技術のある選手が、ある程度の場所までたどり着くけれども、その先にある世界を見ることなく消えていってしまう。そうした選手になってほしくない、という親心に近い監督の愛情表現である。

このコラムは、4月29日に行われる第10節のFC町田ゼルビア戦を前に執筆している。だから、船谷と橋本が町田戦でスタメン起用させるかどうか分からない。もし、スターティングメンバーに名を連ねることができたなら、この1週間のトレーニングの成果だろうし、サッカーに取り組み姿勢が認められたからだろう。逆に、ベンチスタートならば、彼らの状況は厳しいものと映る。

船谷のプレーを水戸で見た時に、「なぜこんな選手がJ2にいるんだ?」と思ったほど、足下のうまさやキックの正確性に驚いた。橋本の場合は、大宮アルディージャ時代に彼のプレーを見るのだが、ヴァンフォーレ甲府の佐久間悟副社長兼ゼネラルマネージャーに「今日は橋本が出るから気を付けないといけない」と言わせるほど、危険なプレーヤーだった。そんな彼らが、このまま埋もれてしまわないようにと願って、私は、このコラムを書いている。

全力でプレスに行く若い前田や若手の手本となろうとしているベテラン・林のプレーを見て、彼らにはどのように映っているのだろうか。私は、船谷圭祐と橋本晃司に問いたい。

君は、本当に、今のままで満足なのか、と。

川本梅花

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