川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】柴崎岳はどこまでフィットしたのか-ヘタフェCF対FCバルセロナ(前編)【無料記事】

柴崎岳はどこまでフィットしたのか-ヘタフェCF対FCバルセロナ(前編)

分析対象試合
2017年9月16日 リーガ・エスパニョーラ第4節 ヘタフェCF 1-2 FCバルセロナ

得点者
ヘタフェ:柴崎岳(39分)
バルセロナ:デニス スアレス(61分)、パウリーニョ(84分)

ヘタフェCFは9月16日、FCバルセロナをホームのコリセウム・アルフォンソ ペレスに迎えた。注目するのは、先発出場したヘタフェMF柴崎岳選手のプレーだ。39分、ペナルティエリア手前に戻されたボールを、柴崎選手は左足のダイレクトボレーでゴールを決めた。第1節のアスレティック・ビルバオ戦から4試合連続スタメンで出場していた柴崎選手。しかし、負傷により、53分にベンチへ下がることになる。この負傷に関して、ヘタフェのアンヘル トーレス会長は、ラジオ局オンダセロの番組「エル・トランシストール」で次のように語った。

Ángel Torres: “Es como si yo pido que se juegue sin tacos porque Gaku va a estar mes y medio fuera por un pisotón de un jugador del Barça”

アンヘル トーレスいわく「まるで選手らにシューズなしでプレーさせるような状態になっている。なぜなら、バルサの選手が踏みつけたことでガクは1カ月半チームを離れることになりそうだからだ」

バルサ戦にて豪快で美しいゴールを決めた柴崎選手だったが、負傷によって1カ月半の離脱を余儀なくされそうだ。とても残念だ。なぜなら、相当にチームにフィットしていたと見られるからである。今回の「決定的な1分間」では、前編として柴崎選手がどのようにチームにフィットしているのかを検証する。

なお、後編では、今季のバルサの戦い方と戦力分析を行う。スペインのバルセロナに住んでいる堀江哲弘(@tetsuhorie)を語り部に迎え、柴崎選手のプレーとバルサの戦い方が、どのように映ったのかをうかがった。

あのゴールが生まれた背景に「環境」の変化

――バルサ戦における柴崎岳選手のプレーはどう映りましたか? あのゴールをまずは語らないと。すごかったですね。

堀江 ゴールには、ホントびっくりしました。あのシュートシーンと似ている場面があるんです。かなり有名なシーンです。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でジネディーヌ ジダン選手がボレーを決めた場面がありました。ジダン選手は止まっていてボールを蹴ったのですが、柴崎選手は走り込みながらボールを蹴ったので、あれこそスーパーゴールと呼べますね。まあ、やっぱり環境なんだなと思いますよ。

――フランス代表として活躍したジダン氏が、レアル・マドリー時代の2002年、CL決勝のレバークーゼン戦で魅せた伝説のボレーシュートですね。ところで「やっぱり環境なんだな」というのは?

堀江 環境が彼を覚醒させたんですよ。相手の守備のレベルが高ければ高いほど、質の高い攻撃を見せないと得点を奪うのは難しい。あれぐらいレベルが高いゴールじゃないと、バルサのゴールはこじ開けられない。潜在能力がどんどん引き出されて、ああいうプレーが出るようになったと思いました。

――柴崎選手はチームに相当フィットしていますよね。

堀江 チームにフィットしていると思います。僕が興味深いのは、柴崎がどういう選手なのかを、周りの選手が理解し始めていることです。柴崎自身も自分がどういうボールがほしいのか要求できている。プレシーズンや第1節のアスレティック・ビルバオ戦は、2トップの一角だったので、柴崎選手の頭に向け、ロングボールばかりが来ていました。でも、柴崎選手は身長の高い選手ではないので、相手に潰されていました。

そうした光景を見て、「このチームで大丈夫かな」と当初、疑念を持ちました。しかし、第4節まで進んできたら、変わっていたんですよ。1回だけ、柴崎選手にロングボールが飛んできてピケ選手に潰された場面があったのですが、それ以外は、柴崎選手の足下にパスが出されています。

僕が通っている、ライセンス取得のための監督学校で、こんなことを教わりました。チームの向上には、「改善」と「最適化」という2つの概念がある。例えば「改善」に関しては、「技術的改善」や「フィジカル改善」のことを指します。「最適化」とは、11人の関係性の中でどのプレーが最適なのかを探していくという作業を言います。

バルサ戦を見ていて、ヘタフェの中で「最適化」の作業がきちんと行われていることが分かりました。11人の関係性の中で、誰をキーマンにしてどのような戦い方をするのが「最適」なのか。そういう観点から見ると、ヘタフェの選手は、柴崎選手にボールを集めようと、柴崎選手の足下にパスを出していた。そこからして、柴崎選手がチームにフィットしていることが分かりますよね。

――プレシーズンや第1節から、戦い方が相当変わったということですね。

堀江 第1節のビルバオ戦と第4節のバルサ戦を比較して、柴崎の足下にどれくらいパスが通されたのかを見れば、一目瞭然です。足下かロングボールかの比較ですね。

チームとしては当初、ロングボールでFWを狙って攻撃するプランだったと思います。しかし、柴崎選手がチームにいることで、「柴崎がいるなら、ボールをもうちょっと繋いでいこう」というサッカーに変化しました。柴崎選手がピッチからいなくなった後、ヘタフェの攻撃プランも変わりましたから。

柴崎選手は、攻守において不可欠な存在になったと言ってもいい。攻撃面でも守備面でもチームで一番走っているのが柴崎選手です。見ていて戦術的なミスもないですよね。イニエスタ選手とマッチアップしましたけど、イニエスタ選手に裏を取られたとか、やられた場面がなかったです。

――戦術的なミスがないとは、守備戦術からはどんなことが見られますか?

堀江 守備的に言えば、マッチアップするのはイニエスタ選手です。イニエスタ選手はやっかいで、彼をマークすればボールをはたかれます。ほっておくと抜かれます。彼から守備ブロックを壊されることは、どのチームでもよくあることです。柴崎選手は、イニエスタ選手の次のプレーを読んで、危険なスペースを埋める。または、イニエスタ選手がパスを受けて危険な時は寄せる。イニエスタ選手に寄せるか、それともスペースを守るのか。その切り替えが必要なんですが、それがパーフェクトで、イニエスタ選手を自由にさせなかった。柴崎選手のサイドからは崩されていません。

――バルサが「4-3-3」なので、イニエスタ選手が下がってブスケツ選手からパスをもらう。その位置に柴崎選手が付く。そこでマッチアップ状態になるんですね。

堀江 その時にイニエスタ選手に食いつきすぎると、縦のパスコースができてしまう。逆に、スペースを守りすぎると、イニエスタ選手に前進されてドリブルの機会を与える。そこのバランスの駆け引きが素晴らしかったです。

――攻撃戦術はどうですか?

堀江 ヘタフェは、バルサのボールを奪ったらカウンターからスタートする戦い方をします。柴崎選手がいると、高い位置でボールを奪える。ヘタフェのピボーテがインターセプトを狙ってうまくボールを奪えたシーンがありました。そして、柴崎選手がオーバーラップしてチャンスを作った場面があります。

――確かに、柴崎選手がサイドに寄せて、ボールが詰まってバルサの選手がブスケツ選手に戻そうとしたところを、ヘタフェのピポーテがインターセプトした場面がありました。言われた通り、柴崎選手は、攻守にわたってヘタフェの軸になるプレーをしましたね。しかし、ケガが心配ですね。

堀江 クラブ公式サイトでのリリースでは、翌日に「練習には不参加」と伝えられただけですかね。(

前述した通り、後日、1カ月半の離脱との報道があった。

川本梅花

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