川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】ビルドアップをいかに阻止するのか?【無料記事】#レノファ山口FC 戦から見えた戦い方

ビルドアップをいかに阻止するのか?

2018年3月17日15時、明治安田生命J2リーグ第4節、水戸ホーリーホック対レノファ山口FCがキックオフとなった。上位対決として注目された一戦は、3-0で水戸の完勝となる。

【得点者】
12分 小島幹敏
49分 田向泰輝
76分 平野佑一

水戸のシステムは、おなじみの「4-4-2」で3ラインを形成する。山口は「4-3-3」で中盤の3人が逆三角形を作る。両チームのシステムをマッチアップさせると、水戸の中盤が2人に対して、山口は3人の組み合わせになった。つまり、2対3で水戸の数的不利となる。このシステム同士のマッチアップは、モンテディオ山形戦ともジェフユナイテッド千葉戦とも同じだ。

そこで、2018年3月3日と3月9日にアップした記事を読んでいただきたい。この2つのコラムを読めば、今季水戸の戦い方、その特徴を網羅し語られている。山形戦は筆者の記事で、千葉戦はサッカーライターの西部謙司さんと筆者の談話から構成されている。

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相手チームのアンカーが、ビルドアップに関わってくるポジションなので、そのアンカーに対していかにボールをうまく持たせないかが重要になる。。特に、現代サッカーでは、どのように相手のビルドアップを阻止するのかが、攻撃の威力を削ぐための手段になっている。

今回のコラムは、ビルドアップの阻止について話してみたい。

加えて、水戸の弱点について語ろう。

いかにしてビルドアップは阻止されたのか

水戸は、山形のアンカーに対して、FWのどちらかが降りてきて「見る」マークをしていた。あるいは、センターハーフ(CH)のどちらかが同じように「見る」マークをする。

次に、千葉戦においては、千葉がビルドアップの際に、両センターバック(CB)が左右に広がり、彼らの間にできた場所にアンカーが降りてきて、3バックになってビルドアップを開始していた。

相手が3トップの際、通常は3対3の同数にしたいので、アンカーが降りて3バックになる。水戸の場合はFWが2人なので、FW2人に対して千葉がCB2人の同数になる。あえてアンカーが降りて3バックにする必要はないため、千葉の監督の好みでやっているのだろう。山口は、水戸FW2人対山口CB2人の同数になることから、アンカーを下げて3バックにしてこなかった。

山口のビルドアップのつなぎ目は、アンカーの佐藤健太郎である。佐藤がボールを持った時に、前を向いてフリーでボールを持たせなければいい。山形戦では、後半になって、アンカーに前を向かれて簡単にフリーでボールを持たれていたので、山口戦はどのようにするのか、と状況を見ていた。

今季の水戸のサッカーを見ていて、サポーターはそんなにフラストレーションが溜まらないと思われる。その理由は、J2第4節を終了して3勝1分けで首位にいるからではない。フラストレーションが溜まらないのは、このチームが不自然な戦い方をしていないからである。

ビルドアップを阻止するには、きちんとした約束事が必要である。相手が4バックの場合、4人のDFの誰に、味方の誰がプレスに行くのかをはっきりさせる必要がある。

この試合では、このような約束事があった。

相手のCBには先頭にいるFWがプレスに行く。ボールがサイドバックに渡ったら対面するMFがプレスに行く。アンカーにボールが渡ったら、主にCHの白井永地がプレスに行くか、FW岸本武流が降りてきてプレスバックする。

水戸のプレスがはがされてハーフウェーラインを越えてくるならば、ボールの近くにいる選手がプレスバックする。それでも山口のボールホルダーが、ブロックをくぐり抜けて味方のFWにクサビのパスを送ったならば、水戸のCBが前に出てFWにプレッシャーを掛ける。同時に、水戸のCHが挟み撃ちにするようにプレスバックする。

これらの連動した動きは、まるで数学の方程式を解くように、順序立てて次々に打ち解かれていく。見ている方は、方程式が解かれるように、決められた約束事がきちんとやられるので、見ていても脳が疲れない。だから、ストレスを感じないで見ていられるのではないのか。

山口のビルドアップの起点となる佐藤にボールをうまく持たれないように、水戸は、上記のような約束事をきちんと果たしていたのである。

弱点は左サイドにあり

「イエローゾーン」と呼ばれる場所がある。

それは、コーナーフラッグが立っているゴールライン近くの場所。つまり、サイドバック(SB)の後ろの場所を「イエローゾーン」と呼ぶのである。水戸を攻略するには、「イエローゾーン」を使えばよい。左SBの後ろまでボールを運べれば、得点チャンスの確率は高くなる。

いまの水戸の左SBは、ジエゴである。ジエゴが攻撃参加した時、左CBの福井諒司がジエゴの後ろの場所をケアしている。あるいは、CH小島幹敏がカバーする。千葉戦では、相手のSBが高い位置をとるので、そのSBに引っ張られる形で、MF木村祐志が下がる機会が多くなっていた。下がる機会が多いことになると、攻撃の人数が減ることになる。

山口戦では、木村が下がりっぱなしにならぬよう、福井と小島がジエゴの後ろをケアしていた。

しかし、山口が3トップの両ウイング(WG)を前線に残したままにしたならば、4バックの最終ラインを守るDFは、ボールサイドに寄っていくことになるので、逆サイドに張るWGをフリーにしてしまう。

そこで山口は30分過ぎから、右WG(水戸からは左)をタッチラインに最初から張らせて、ボールを左に集めてからサイドチェンジを行った。大きく斜め前にボールを蹴り込む。山口には前半、決定的なチャンスが二度あった。どちらもジエゴのいる右サイド(水戸は左サイド)を山口は攻めてきた。もっと突破力のある選手やクロスが正確な選手がジエゴとマッチアップしたならば、崩されていたことは間違い。

ジエゴ本人も、守備を強化しないと試合に出られないと考えたのだろう。相手と2対1になっても、決してボールに飛び込まないで、粘り強く重心を落として相手の出方を待っていた。しかし、守備は得意でないようで、簡単にフリーでクロスを上げられていた。

このように、水戸はジエゴを左SBで使う限り、そこは危険な場所となってしまう。山口が後半は、しつこく反復して攻めてこなかったので、得点を与えずに済んだのである。

川本梅花

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