川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】最大のポイントは西野朗監督の采配【無料記事】中盤でパスコースを作れた日本代表 #WorldCup #JPN #SEN

最大のポイントは西野朗監督の采配

中盤でパスコースを作れた日本代表

2018FIFAワールドカップ ロシアが開幕。グループHの日本代表は6月24日、セネガル代表とのグループリーグ第2戦に挑んだ。日本は乾貴士と本田圭佑のゴールで、2-2の引き分け。両チームはともに、勝点を4に伸ばした。

サディオ マネに先制点を許した日本は、1点を追う34分に同点に追いつく。柴崎岳からのロングボールを長友佑都がペナルティエリア内で受ける。長友からパスをもらった乾が、右足でファーサイドにシュートをたたき込んだ。日本は、71分にムッサ ヴァゲのシュートで1点差とされる。しかし、途中出場の本田選手が78分に同点のシュートを決めた。

http://www.jfa.jp/samuraiblue/worldcup_2018/groupH/match_page/m32.html

日本は2大会ぶりのグループリーグ突破を懸け、28日午後5時にボルゴグラードでポーランドと対戦することになった。今回も、バルセロナ在住の堀江哲弘(@tetsuhorie)との対話で、セネガル戦の試合分析を行う。

対談はポーランド代表戦の前に行われました。

西野朗監督の采配

――セネガル代表のサッカーは組織的、また戦術的だったのでしょうか?

堀江 前回の繰り返しとなりますが、組織的なサッカー、戦術的なサッカーをどう捉えるのかが問題となります。人によって答えは違うので、整理しないといけない。スペインでは、サッカー協会の定義があり、それとは別に、指導者たちによるさまざまな定義があります。僕は、ファン マヌエル リージョ ディエス(=ファンマ リージョ)氏の定義が分かりやすくて良いと思います。彼は、戦術とは「いつ」「どこで」「どのように」「何を」プレーするのかの方法論だと言います。

そういう定義で考えるなら、僕はコロンビア代表戦の分析で「日本には戦術がない」としましたが、それは日本語の表現として「ふさわしくなかった」と考えています。正確に言えば「良い戦術」がないと伝えたかったのですが、少し分かりにくかったと思います。

セネガルは組織的だったのかという質問ですが、僕の答えは「最低限」です。日本代表より組織的な部分と組織的でない部分があった。戦術的に練れていない部分があったと感じています。日本よりできていると思ったのは、ゾーンによってプレスの強度、時間によってプレスの強度を変えるというプレー。この点は優れていました。

セネガルは試合開始とともに、圧倒的なハイプレスを仕掛けてきました。日本の自陣に入って、ゾーン2(相手センターハーフのポジション前)だと3枚並んでプレスを掛けます。ゾーン3(相手センターバックのポジション前)だとバックパスにプレスを掛けた選手は、そのままGKにプレスを掛け直します。ほかの選手は、連動してパスの出どころを摘んでいる。また別の選手は、中間ポジションを取るようにしています。変則的なやり方をしながら、守備をしている。こうしたプレーは、練習の積み重ねによって作られたと考えられます。

――そうしたセネガルの守備に対して、日本の守備はどうでしたか?

堀江 ゾーン2のブロックは、きれいに整えられていました。しかし、ゾーン3では、バックパスをした時の連動性ができていない。それは(監督の交代もあり)練習する時間が限られていたため、仕方がないことです。セネガルは先制した後、ハイプレスを止めます。理由はリスクが高いからです。

――前線の選手がハイプレスに行った場合、後ろの選手も連動する必要がある。そうすると、DFの裏にスペースができる。そのスペースにパスが通り、日本の選手に使われたらピンチになる、ということですね。

堀江 はい。裏のスペースができるため、ハイプレスをやめてボールをつなごうという意図が見えました。それに対して日本は、特に意図もなく、縦にボールを蹴って相手へボールを献上してしまう。リスクの高い攻撃を仕掛け、ボールを失うというプレーが、何度も見られました。セネガルには、そうした場面が見られなかったことから、日本よりトレーニングを積んでいることが分かります。

――セネガル戦のポイントは、どこにあったのでしょうか?

堀江 西野朗監督の采配が良かったことです。

――具体的には?

堀江 本田圭佑選手の悪いところを隠して、本田選手の最大に良い部分を利用しました。本田選手の戦術的な能力、例えばスペースを見る能力はあまり高くない。その点をカバーするため、最初から右サイドに配置しました。コロンビア戦のようにトップ下に置いても、それほど効果的ではない。しかし、本田選手が決定的な仕事をすることは、過去のプレーからも分かっています。

本田選手は、日本代表の中でも、抜き出た「決定力」を持っている。これは僕なりの「決定力」の定義ですが、全くプレシャーが掛からなければ誰でもできることを、究極のプレッシャーが掛かる場面でも行える、冷静な判断が行える能力のことです。

もし、本田選手がトップ下に入っていたら、日本はコロンビア戦のように混乱したと思います。しかし、セネガル戦では、岡崎慎司選手に2トップの一方を任せ、香川真司選手の仕事を岡崎選手と大迫勇也選手が担うことで、混乱を解消した。これは西野監督の采配だと思います。

――本田選手の投入後、はっきりした「4-4-2」のシステムとなっていました。

堀江 その「4-4-2」ですが、トップの選手が中盤まで降りて、ボールを受けられていました。

――ビルドアップの時には、長谷部誠選手をセンターバック(CB)に落とし、3バックにしていたことも、ポイントだと思います。実際、セネガルは「4-3-3」でスタートしたものの、プレスがはまらずに「4-4-2」に変更しました。

堀江 そこは大きいかったですね。日本は工夫をしてました。

――あの変更は監督の指示なのか、それとも選手の判断なのか、実際に話を聞いてみないと分からないですが、大きかったと思います。いずれにせよ、セネガルは2トップではなく1トップで来ると、日本は予想していたように思いました。

堀江 中盤の枚数によって選手が降りてくるという考え方は、選手の判断があったのかと思います。ただ、やはり選手たちに聞かなければ、真相は分からないですね。

――長谷部選手がディフェンスラインに降りてきた時、長谷部選手のいたポジションに柴崎岳選手が入る。イドリッサ ガナ ゲイエ選手は上がってこないため、柴崎選手がフリーでボールを持てるようになる。さらに、香川選手が柴崎選手のポジションに降りてくる。

パパ アリウヌ エンディアイエ選手が、香川選手をマークすると、エンディアイエ選手のいたポジションに乾選手がスライドする。3バックになっているため、左サイドバック(SB)の長友佑都選手が高い位置を取れるようになる。

堀江 前半の立ち上がりに長谷部選手が降りてくることは、しばしば見られたパターンですが、最大のポイントは、中盤の選手が降りて、うまくパスコースを作ったことです。乾・香川・柴崎の3選手でパスコースを作っていました。彼らの話し合いで作られたのか、監督の指示があってか、これも分からないですが、事前に話し合いがあり、プランがあったという印象を受けます。

セネガルは、乾をSBがマンマークします。ゾーンで守っているので、SBが付いていくのか、あるいはボランチに受け渡すのか。これはどのチームでも曖昧になるのですが、セネガルはその穴を埋められなかった。乾選手が中盤に戻って、長友選手が空いたスペースを取る。相手が食いついてきたら、長友選手がそのスペースを利用する。食いつかなければ、柴崎選手と数的優位を作り、壁パスを利用して長友選手が抜けていくとか。乾選手や大迫選手のプレーはトップレベルにあり、相手を翻弄していたと思います。

――川島永嗣のプレーはどう見ましたか?

堀江 あの場面は、キャッチングしても弾くし、パンチングしても難しいプレーだったと思います。

――引き分けという結果は、妥当だったでしょうか?

堀江 選手の実力は、セネガルの方が上だったと思います。ですから、引き分けで御の字。日本が2失点目を喫した場面は、乾選手も疲れていて、ファーサイドのマークに付いていけなかった。それでも、再び追いつきます。いままで、あまり見られなかった展開です。

――柴崎選手が右サイドに入り、大迫選手にグラウンダーのパスを出す。あそこまでのプレーはすごかったですね。

堀江 パスを呼び込みながら、オフサイドにならないように、意識して外にふくらんでいました。乾選手や柴崎選手のような選手がもっと出てくれば、日本はもっと強くなれると思いました。彼らは厳しい場所でプレーしていたから、セネガルのプレス程度ならば、冷静さを失わない。「レアル・マドリーは、もっとすごいよ」とか、「マルセイユにいるからアフリカ系の選手には慣れている」とか、「フアン クアドラド選手ともリーグ戦でマッチアップしているから」とか。彼らは欧州のトップリーグに所属し、チーム内で評価されて自信を得た選手たちです。セネガル戦では、そうした強さも感じました。

川本梅花

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