川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】#岸本武流「インパクトだけを意識してシュートを打つ」【無料記事】迷いをいかにして振り切るのか

プロローグ

岸本武流のプレーを最初に見たのは、彼の所属チームのセレッソ大阪U-23での試合だった。岸本がゴール前にいる時、なぜか彼がいるところにボールが来るという不思議さを見た。「ここにいるのか」と思わされたことが何度かあった。また、ヘディングのうまさも、長身ではない彼の特長だった。2017シーズン、彼の明治安田生命J3リーグにおける成績は、26試合で9得点であった。

J3のカテゴリーで活躍する岸本のプレーが、水戸ホーリーホックの西村卓朗強化部長の目に留まる。岸本は、水戸に所属していた前田大然(松本山雅FC)と代理人が同じだ。水戸で前田がブレイクしたことが評価され、岸本の獲得はスムーズに進められた。

サッカー選手としての岸本の存在感をアピールしたのは、2018年2月25日の明治安田生命J2リーグ第1節・モンテディオ山形戦[3〇0]で3得点に絡んだ試合だった。しかし、皮肉なことに、この活躍で「アシストする選手」「味方を生かす選手」と言うイメージを持たれてしまった。

いま、岸本は迷っている時間の中にいる。

それは彼が飛躍するために用意された時間かもしれない。

ジェフユナイテッド千葉との試合[1〇0]が終わって、私は、岸本の心の中から湧き出る声を聞いた。

http://www.mito-hollyhock.net/games/10807/

インパクトだけを意識してシュートを打つ

――七夕の短冊に「帰りたい」と書いてあったよね。あれは、ホームシックにでもなったの?

岸本 そんなことはないですけど、こっちに来てから、まだ1回も実家に帰ってないんですよ。ちょうどお盆の墓参りにも行けてないので、手を合わせてきたいなと思ったんです。そう言う意味で、1回、実家に帰りたいと思ってましたね。

――それは、いまの状況を変えたいとか、気持ちをフレッシュにして来たいとか、そんな意味合いもあったの?

岸本 そうですね、ないとは言えないんですけど、1回は帰りたいと言う気持ちはずっとあって、まあ、あの短冊にはあまり深い意味はないんですよ。

――千葉戦についてだけど、6分くらいかな、右サイドを縦に切り込んでマイナスのパスを送ったよね。あそこはシュートという選択はなかったの?

岸本 だいぶ深く入り込んで行ったんで、シュートを打てるコースがなかったんですよ。バイア(ジェフェルソンバイアーノ)が入って来てくれたので、相手が釣られてファーサイドが空くと思ったんですけど。

――J3での岸本くんのプレーを見たことがあって、その時と、いまではどうだろう。J3でプレーしていた時と、J2でプレーしている現在とは何が違うと思う?

岸本 チームでの信頼と、あとは思い切ってやれていない、というのが、自分の中ではあって……。チームとしては「自分で行くんじゃなくて、周りを使ってほしい」という要望があります。「自分の中で思いっきりやりたい」という気持ちと、「出したらアカン」というせめぎ合いが混ざり合って、そのモヤモヤ感が少しあるかもしれないです。

――じゃあ、例えば、シュートを打てる場面でも、パス出して味方を生かすようなプレーを選択してしまうんだね。

岸本 そうです。

――J3の時は、チームから何て言われていたの?

岸本 大熊裕司監督からは「お前はFWなんやから、しっかり振り切れ、しっかり打て」と言われていました。自分では、いまもそうしたいと思っているのですが、ここまで決められるところで決めてこなかったので、そこのところでチームから信頼がなくて、もし僕が逆の立場だったら、同じことを言うんだろうなと思います。すべて、結果を出せない自分が悪いんですよ。

――ストライカーだから、そう思うのは当然だよね。何か打開するキッカケが欲しいよね。

岸本 何かパチーンとなるような、キッカケですよね。

――判断が遅れてしまうのは、見ていて分かる。だから、迷っているのかなと思っていたんだよ。そうだな、クラブの意向もあるけど、1回思いっきりシュートを打ってみるか。

岸本 そうですね。何も考えずに、インパクトだけを意識してシュートを打つ。周りを気にせずに、自分を信じて、自分を信じないとダメですよね。いま、多分、自分を信じきれていないんですよ。だから、迷いがあるのかなと思うんです。

――昨季までいた前田大然と、岸本くんは素材として遜色ないと思うんだ。行けない自分の気持ちを高めて振り切って思いっきり行くのも1つの手だよね。それは攻撃に関してもそうだし、守備に関してもそう。一発、結果が出れば、気持ちにも変化が出てくるからね。

岸本 その結果が出ないから、あっちに行ったり、こっちに行ったりしている。

――ちょっとでも硬くなると、シュートは簡単に外れてしまうからね。

岸本 それはほんまに思います。乗ってる時は、ほっといても自分のところにボールが来るんですよ。それがいまはない。開幕してシーズンが始まってから、ずっとないんですよ。

――ボールを持って前を向いたら、サイドに開くプレーもするよね。

岸本 僕は器用じゃないので、サイドに開くプレーに集中してしまう。とにかく、ボールを持ったら仕掛けようとは思ってるんですが。

――千葉は「4-3-3」の中盤が逆三角形で、水戸は「4-4-2」のフラット気味で、システムを組み合わせると熊谷アンドリュー選手がフリーになれるのだけど、そこの対処は、ジェフェルソンバイアーノ選手とうまくケアしていたね。熊谷選手の近くにいる選手が「見る」形を取っていたよね。

岸本 相手にはボールを持って前を向かせないようにプレーをしました。ただ、僕とバイアとの組み合わせは、バイアがトップに張っていますよね。僕としては、相手の裏を狙いたいので、トップの方がいいんですが、下がり気味になるじゃないですか。そうしたことに、もっとうまく対処できないと、レベルアップできないので、いまはいい機会だと思っています。

――ジェフェルソンバイアーノ選手と話はしないの?

岸本 しますけど、チームとしてバイアをトップにしてセカンドボールを狙ったり、下がって守備に当たる方針なのでそれをこなすことに集中しますよね。こっちをサボりながら、自分のやりたいことをやる、という性格ではないんですよ。これしかできないというタイプなので。自分の中で、もっと自分を出してプレーをしながらチームにも貢献できればいいんですが。

――ジェフェルソンバイアーノ選手の近くにいてボールを拾ったら、一瞬のスキを突いてドリブルするなり、味方にボールを預けて裏に抜け出すプレーをしてみるのはどうだろう。いずれにせよ、相手の一瞬のスキを狙うんだよね。そう言えば、いまね、岸本くんのファンを主人公にした短編小説を書いているんだよ。タイトルが「タケル、シュートを決めろ!」なんだ。物語の最後は、タケルのゴールで終わらせたいんだ。

岸本 そうなんですか。期待に応えられるように……待っていてください。

――ああ、待ってるよ。

エピローグ

レベルが上がると、FWは攻撃だけではなく守備もできないとならない。そのことは岸本も十分に理解している。これは彼がプロになって最初にぶつかった壁なのだ。その壁を打ち破るには、目の前にある壁は、自分が作り出しているものだと認識できるのかどうかに懸かっている。君の前にそびえる壁は、君自身が作っているものかもしれない。その壁が、実在するものなのか、自分が作り出した幻影なのか。自分を信じて思いっきり出し切った時に、きっとその答えは明らかになるはずだ。

頑張れ、タケル。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ