川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】 #水戸ホーリーホック 対 #松本山雅FC 第31節 【 コラム 】 #田向泰輝 驚くべき成長度

水戸ホーリーホック 対 松本山雅FC 第31節  

田向泰輝 驚くべき成長度

彼のプレーの質に大きな変化があらわれた。

彼、田向泰輝のここ数試合に見られる成長度には目を見張るものがある。

2018年9月1日、 明治安田生命J2リーグ 水戸ホーリーホック対松本山雅FC戦が、ケーズデンキスタジアムで18時にキックオフされた。

試合は、木村祐志が左足を思いっきり振り切って、前半23分に豪快なゴールを決める。その後、水戸ホーリホックは、後半59分に同点にされる。その場面は、左サイドからの高いクロスボールではじまった。ゴールキーパーの松井謙弥がボールを左前方にクリアする。しかし不運にも、ボールは田中隼磨の前にこぼれ落ちる。田中は、ニアサイド目がけて強烈なシュートを決めた。

この試合、松本山雅の右サイドの石原崇兆がポイントになった、と筆者は考えている。

そのことで、試合後の監督会見において反町康治監督に2つの質問をした。

まず一つ目は以下のものである。

攻撃時が3-2-4-1のような形になって、左サイドの石原をタッチラインに張らせていたのは戦術的な意味合いからですか?

松本山雅のシステムは、3-4-2-1でスタートする。攻撃の際には、センターハーフの2人を残してサイドの選手が高い位置を取る。その時に、システムは3-2-4-1になる。左サイドの石原は、中に入ってプレーせずに、タッチラインに張って上下の動きをしていた。この石原の動きは、ピッチの中でプレーしなくてもいいという意図があったのかどうか、という問いだったのである。

反町監督は、筆者の質問の意図をすぐに理解して次のように答えてくれた。

まあ、サイドで時間を作って仕かけることができるという意味では、石原は一番だと思います。もう少し中に入ってプレーしてもよかったんですが、現時点ではアップダウンの力も含めて、攻守において欠かせないと思っています。今の状況だと、今日の試合に向けて前に押し出すことも考えていましたけど、相手との兼ね合いもみたら、こっちの方がベターかなと思いました。

二つ目の質問。

ビルドアップの時にGK(守田達弥)から石原へのダイレクトなフィードでゲームを組み立てていましたが、田向が上がることへの考慮だったんですか?

ここでも、右サイドの石原のプレーにこだわった質問をした。それに対して、監督はこのように答える。

田向もジエゴも、かなりエネルギッシュなプレーで上がってきます。その後ろを狙えということではなかったんですが、田向の上がりを無視して攻め残っているという形はしていないので、切り替えの速さというのが出たのかも知れません。そこでもう少し越していく動きや、数的優位を作ってペナルティエリアへ外側から入っていければよかったんですが、少し足りなかったですね。彼にはやっぱりインサイドプレーをしながら、フィニッシュまで持っていく力を出してもらいたいと思います。

反町監督としては、石原にサイドに張るプレーばかりではなく、中に切り込んだり、もっと深く前進してからペナルティエリアへの侵入を期待していた。石原のポテンシャルからすれば、それができる選手だと話している。

ここで一つの問題が明らかになる。なぜ、石原は、サイドラインに張るようなプレーを選択してたのか、ということだ。

田向が、タッチラインの上下でプレーしていたことが、石原のプレーに影響していたのだと解釈している。

反町監督は、質疑の中で、あるヒントを与えてくれた。

田向の上下運動に対して、石原が「田向の上がりを無視して攻め残っているという形はしていないので、切り替えの速さというのが出た」と話している。田向の上下運動に対して、石原は「切り替えの速さ」で対応したと述べる。つまり、田向が上がって行けば、石原は下がって対応する。逆に、石原が上がって行った場合、田向は並走してついて来る。石原の切り替えの速さと同等に、田向も切り替えが速かった。したがって、石原は、フリーになってプレーする機会がなかった。だから、インサイドでプレーする機会をもてないでいた。

石原が唯一、フリーでボールをもてた場面があった。GKの守田がボールを持つと、左サイドの石原はセンターライン近くまで上がって行き、守田からボールをもらうために素早く準備態勢に入る。その際でも、GKからフィードされてすぐに、石原の横には田向が戻ってきている。

攻撃に関して、田向は、右サイドからのクロスにおいても、長身のフォワードのバティスタを狙って、あえて左足でクロスをあげた。なぜなら、ボールの軌道が左にカーブして入ってくるので、バティスタにとっては見やすい状態でヘディングができるのである。

守備に関しては、マッチアップした相手に粘って並走して行き、決して最終手段のスライディングを使った守備をしなくなった。だからこの試合も、相手に簡単にクロスを上げさせていない。

こうした田向の目覚ましい成長によって、石原がインサイドでプレーする機会を失わせたのだと言っていい。

この試合で光った水戸の選手は、田向泰輝だったことは間違いない。

川本梅花

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